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造られた逸話
自室のものとは違う嗅ぎ慣れない部屋の香り

未麻は夢現で辺りをゆっくりと見渡してみる。

大量の書物が積み重なっているこの部屋を―

自分は知っているような…


ふいに腰に回される腕と、

妙に生々しく伝わってくる体温


その存在すら驚くべきことなのに、思うように機敏に反応してくれない自分の身体に違和感を感じながら、やっとの思いで隣にいるであろう人物へと顔を向ける。

女性…?

何故…私は女の人と一緒に…?

端整な顔立ちのその女性は眠っており、彼女の金髪に近い色素の薄い長い髪がその綺麗な顔にかかっている。

こんな綺麗な人…知らないのに…

未麻は手を伸ばし、起こさないようにそっと彼女の耳にその髪をかけてやる。

柔らかい…髪

………!?


髪を退かしたことにより露わになった白い肌…

着物を着ていないどころか…

胸が…

…ない!!


サーっと血の気が引いていくのがわかる。

見るのが怖く、咄嗟に自身の身体に触れてみた。

いつもなら纏っているはずの着物がない

単衣にすら包まれてない己の身体に未麻は愕然となった。

何が一体…どうなってるの!?

未だ覚束無い思考をフルに回転させてみるが、全く何も思い出せない…。

もう一度よく辺りを見回してみた。

褥の側に脱ぎ捨てられている自分の着物が目に入り、記憶から抜け落ちてしまった空白の時間を思い出したくないという恐怖に襲われる。

腰に回された腕から逃れようとしたその時、両腕を掴まれ身体ごと引き寄せられる。

『未麻…起きていたのですね。』

その声であの綺麗な人が弁慶だったのだと気付く未麻。

「弁慶!?
あの…私…どうして…」


未麻は弁慶の胸に取り押さえられたまま身動きがとれない。

『甘い夜の続きでも…しませんか、未麻?』

弁慶が未麻の髪に口づけを落とすと、耳元で甘く囁く。

「べ、弁慶!私…何の事だか―」
『忘れてしまったとでも…言いたいのですか?』

その声に未麻が弁慶を見上げると、悲痛な面持ちで弁慶が見つめ返してきた。

「あの弁慶…離して。せめて何か着ないと…まずくない?」

少し慌てる未麻など気に留める様子もなく、弁慶は未麻を抱き締めしている腕に力を込める。

『あんなに互いの素肌を感じ合ったのですから、今更恥じる必要はありませんよ。』

「そんな言い方して…からかうの止めてよ。
それじゃあ、まるで…」

『一夜を共にしたのですよ、僕達は…。君からの誘いだったのに…まさか忘れてしまったとでも?』

「私からなんて…」

“有り得ない”と言い張りたいが、何の記憶もない未麻は言いかけて口ごもった。

一生懸命思い出そうとしても、皆と雨乞いの話をし終わっててからの記憶がひとかけらもない。

『あの時の君の様子はおかしかったけど…まさか忘れてしまうなんて…。』

思い詰めた表情で唇に指を充てながら悩む弁慶を見て、未麻は胸が締めつけられる思いがする。

「弁慶…、ごめんなさい。
何があったか…教えてもらえるかな?
雨乞いの話の後から覚えてないの…。」

深い溜息を漏らし落胆する弁慶を目の当たりにし、未麻は自分がしてしまった事の重大さを感じる。

『君が寝付けなそうだったので、僕は君にお酒を渡したんですーゆっくり眠れると思ったので。』

弁慶は昨夜の出来事を思い返しながら、ゆっくりと話し始めた。

「お酒!?」

『…はい。飲み干した君は、そのまま広間を後にしたんです。少しふらついてましたが大丈夫だろうと思い、僕は自室に戻ったのですがー

そこに君がいたんですよ。』

弁慶の話を聞いていても、何一つとしてピンとこない。

お酒に…酔ったの?

以前飲んだ時は、記憶は確かにあったのに…

あれより強いお酒だったら?

ー分からない。

未麻が自問自答しても、勿論答えなどでるわけもない。

『僕の部屋にいた君は言ったんですー

“私を抱いて、将臣を忘れさせて”と。』

その言葉に未麻はハッとなる。

以前、お酒が入った時に九郎に懇願していた自分のみっともない姿を思い出す。

これでもう…“有り得ない”なんて…言えない。

自分で自分を信じていられないからー

『君がやっと僕の気持ちに気づいてくれて、それで僕の所に来てくれたと思ったんですよ。
君の願いなら、例えそれが誰かを忘れるための術でも、僕は構わないんです。

どんな形であれー
君と一つになりたかった

君を愛しているから…。』

「弁…慶…、弁慶が…私を……?」

私…弁慶の気持ちも考えないで、

なんて酷い事を…

『そんな顔で見ないで下さいね。
これから少しずつ…僕を好きになってくれればいいんですから…』

そう言うと弁慶は優しい言葉からは想像できないほど激しく未麻の唇を塞ぐ。


自分には

弁慶を拒む資格など
…ない。

彼の気持ちに

応えていかないといけない…。


未麻は何一つ抵抗することもなく、弁慶をただ受け入れる。

激しい口づけと優しい愛撫に

気持ちとは裏腹に、身体が反応し求めて止まない。

淫らな自分を戒めるだけの理性も残されていなく、ただ甘く鳴き続けるー


『未麻…、これで君は

本当に僕のモノ…。

人形を抱かなくて正解でしたね。』

繋がった身体を離すこともなく、弁慶は一人呟く。

未だ収まらない未知の快感に思考が麻痺してしまった未麻には届くことのないその言葉だけが、

やっと静まり返った部屋の中で響いていた。



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