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勅命
日々の鍛錬の成果もあり、九郎に戦で認めてもらえた未麻。

ー剣の腕は元より、戦にて人に太刀を向けるという覚悟をー


以前のような対怨霊だけでなく、自分と同じような武人を相手取り、源氏のために戦う。


幾度となく戦を重ねることにより、いつしか未麻は戦場の舞姫として源氏は勿論、平家の間でもその名を轟かせるようになった。

一度未麻が戦場に現れれば、その優美な太刀裁きはあたかも舞っているようであると。

高く結った長い髪を風に靡かせ、軽やかに細剣を振るう様は見る者全ての目を奪うとまで言われるようになった。

今では、最前線で九郎の補佐役を任されるほど、源氏内での信頼も厚い。


未麻はまた、実際に舞の名手としても知られるようになっていた。

彼女が源氏の武将であると知る者はさすがに数少なかったが、院が催す政などでも舞手の1人として呼ばれることもあるほどだ。


そんなある日、未麻は雨乞いの儀式での舞の奉納を命ぜられたのだった。

巫女でもない自分が舞ったところで、雨を降らすことはできないと丁重に断りをいれたのだが、聞き入れてもらえない始末。

どうやら未麻の舞は、後白河法皇にえらく気に入られてまったらしいのだ。

『院の御命令とあれば、これ以上お断りするのは源氏としての立場も危うくなりかねない。』

「く、九郎!?そんな大袈裟な…。」

「いえ未麻、九郎は間違ってないんですよ。雨乞いの儀には平家の者も呼ばれる事でしょう。院は君が源氏だと分かっておられる。

院の御気分を損ね、平家を御贔屓になさるようになったら、鎌倉殿に面目次第も無いですからね。」

『弁慶、そんなに鎌倉殿は生易しい御方じゃないんじゃないかな。
未麻ちゃん、悪いことは言わない、雨乞いで舞った方が君の、否ーー京での名代を任されている九郎のためだよ。』

九郎、弁慶だけでなく景時までも真剣な眼差しで未麻を見ていることから、事の重大さが緊々と伝わってきた。

『未麻、そんなに堅く考えないで、いつもみたいに舞ってご覧なさいよ。院はただあなたの舞が見たいのよ、雨を降らせなくてもお咎めは受けないわ。』

朔が朗らかな笑みを浮かべ、そっと未麻の肩を叩くと、その場の張り詰めていた空気が一気に和らぐ。

「ありがとう、朔。あと、みんな心配かけてごめんなさい。私やってみるね。」

ずっとお世話になってるみんな、特に九郎にも迷惑が掛かるんじゃ責任を持って果たさなきゃ。

雨乞いの儀式があの神泉苑の舞殿っていうのが……ちょっとね。

京にいてもこの1年余り、神泉苑に近づくことすらできなかった。

やっぱり私は朔のように向き合うことは出来ず、ただ避けていただけ…。

将臣との思い出が詰まったあの舞殿に行ってしまったらー

また

閉じ込めていた想いが

溢れ出てしまうかも知れないのに。

ここで向き合わなされるのは…

九郎に甘えて、けじめをつけなかった私への罰なのだろうか?

「未麻…、もう部屋に戻った方がいいですよ。」

弁慶のその声にふと我に返ると、既に未麻と弁慶以外は各々の自室に戻った後だった。

「あれ、みんなは?」

「早々に引き上げましたよ、やる事があったようで…。」

「ごめんなさい、つい考え耽ってしまって。弁慶は待っていてくれたんだね。ありがとう。」

「いえ君を待つぐらい、どうってことありませんよ。未麻、顔色が優れませんね。これを飲んでみてください、寝付きがよくなると思いますよ。」

心配そうに未麻の顔を覗き込む弁慶の企みなど、知る由もない未麻は素直に弁慶に差し出された薬湯を口に運ぶ。

器が空になったのを確認した弁慶の顔には、満足げな黒い笑みが浮かんでいたのを見た者などいなかった。




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