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守る術
庵にある一室で九郎は横になっている。

怨霊によって斬られた箇所からの大量な出血と熱のせいで九郎はうなされていた。

リズヴァーンが傷の応急処置はしてくれたが、所詮彼の専門外だ。九郎の熱は一向に下がることはなく、息づかいも荒いままだ。

このままではよくない…。

未麻は為すべくこともなく、ただ九郎の汗を冷えた布で拭ってやることしかできない。


『先生…、弁慶を…五条にいる弁慶を…呼んでくれ…。小太刀を持って行けば…』

九郎が苦しいながらにも、そう呟き懐に収めていた小太刀を手渡すととまた目を閉じてしまった。

小太刀の柄には源氏の象徴でもある竜胆の紋が刺繍されていた。

リズヴァーンは少し思い詰めた顔をしている。

弁慶というのは九郎が信頼している源氏よりの薬師なのだろう。

だが自分などが五条に赴いたら混乱を招く恐れがある。

運が悪ければ弁慶という者に合わせてももらえないだろう。

リズヴァーンは隣に座っている未麻を見た。

彼女なら…会うことができるはずだ。

だが2人で庵を留守にし九郎を1人になどできぬ。


意を決してリズヴァーンが重たい口を開いた。

『未麻、私は数百年前に京の民と争った鬼の一族だ。鬼は皆、金髪碧眼だったことから、今でもその容姿やそれにい近い者は忌み嫌われている。
なので鬼の私が五条に行くのはいい案ではなかろう。
どうか九郎のために行ってはくれぬか?』

「もちろん行きます。九郎がこうなったのも私のせいだから…。
私にできることなら何でもやる。」

『別にお前を責めているわけではない。あれは誰も悪くない。』

責任を感じている未麻にリズヴァーンは優しく声をかけた。

「でも…お兄ちゃんは鬼という一族なだけで人里離れたこの庵に住んでいるの?見た目だけで…中身なども知りもしないで?」


『致し方ないことだ。 』

そんなのって寂しすぎるよ…。

切ない顔をしている未麻の頭に手を乗せ、いつもの笑顔をリズヴァーンは見せてくれた。

『五条に行き、まず弁慶殿を探しなさい。弁慶殿にはこの小太刀を見せれば分かるだろう。』

「お兄ちゃん、私に太刀をください。こちらに来る以前から、武道には励んでたので護身ぐらいはできるかと。
あと…」

真剣な眼差しでリズヴァーンを見つめる未麻。その瞳には揺るぎない決心の光が宿っている。

「戻ったら…私に剣術を教えて欲しいです。」

『何故お前は剣を持つ?』

「自分の身すら守れず何が守れるというの?私の弟達と幼馴染みはきっとこの世界にいる。私が守れないようじゃダメなの。それに…もう二度と自分のせいで傷つく人がいて欲しくないから。」

『お前はもう決めたのだな。自分の信じる道を行きなさい。私もできる限りの事はしよう。』

そう言うとリズヴァーンは蔵に行き未麻にも扱えそうな細剣を持ってきた。

そして身に付けていた腕輪て共に未麻の前に差し出す。

『この腕輪を身に付けていれば、ここ鞍馬までお前を導いてくれる。では五条までは連れて行こう。』




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