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溢れるモノ
「将…臣…?」

弁慶の腕からするりと抜けると未麻は将臣の前に立つ。

会いたくて

会いたくて

仕方なかった

人が目の前にいる。

本当は駆け寄って

抱きしめたいのに…

姉弟という枠が

未麻を縛りつけていた。

いや…普通の姉弟なら

ハグなんて何の事もないだろうに。

未麻のその躊躇いを気にかけることなく、将臣は自らが駆け寄り未麻を抱きしめた。

安否を心配していた姉に会えたのだ、当たり前だった。

今だけは家族ではなく1人の女として抱きしめてもらえたら…

未麻のそんな儚い願いは将臣の次の言葉で打ち砕かれる。

『やっぱ双子だな。お前に最初に会えるとはな。』

現実に引き戻される未麻。

「本当だね、こうゆうとこは便利ね。」

未麻は精一杯笑ってみせた。

『お前さ…なんだか雰囲気違うな。若くなった…。』

「そのまま返すよ。将臣は…老けた。」

『おい、老けた言うなよ!』

将臣は未麻の頭を抱えると拳でグリグリとやってくる。

「私ね、こっちの世界に来た時に、何でか歳まで若くなってたの。今は多分15か16だと思う。」

将臣は一瞬驚いたが、どうやら辻褄があったらしい。

『マジかよ。ならその姿にも納得だぜ。俺は今19だ。俺の方が兄貴だな。』

そう言って無邪気に笑う将臣だった。

身体もまた大きくなり、何だか逞しくなったような気がする。

無造作に伸ばされた髪…

顔つきもどこかしっかりとしている

唯一変わってないのはその笑顔か…

自分の心はまた将臣で溢れていくのがわかる…。

何故思い出すのはこうも簡単なことなんだろう。


『感動の再会のところ…すみません。
君が将臣殿だね。僕は弁慶。危ないところ助かりましたよ。』

背後で2人の様子を見ていた弁慶が話に加わってきた。

『未麻の…』

男か?と聞きたかったが…

将臣は何故かそれを口にしたくなかった。

弁慶は未麻の横に立つと、さりげなく未麻の腰に手を回す。

まるで自分のものだと主張するかのように。


えっ…弁慶!?

未麻が弁慶を見上げようとしたのと同時に、将臣が未麻の手を引いていた。

3人の中で微妙な空気が流れる。

未麻が堪えきれなくなり口を開こうとした瞬間、その場の雰囲気を壊す者がいた。

九郎だ。

背後からいきなり怒鳴り声を上げる。

『未麻、お前は何を考えてるんだ!突然いなくなる奴があるか。
お前に何かがあったらと考えるだけでも生きた心地はしなかったんだぞ。』

「九郎、ごめんなさい…。」

話したいだけ話すと九郎はハッと我に返った。

『べ、弁慶…お前が一緒だったのか…。それにそっちは…』

『九郎、相変わらず騒々しいですね。
こちらの方は未麻の弟ー』『有川将臣だ。』

弁慶を遮るようにして将臣が名乗った。

『お前が…』

未麻の

想い人か…。

九郎は偶然聞いてしまったあの晩の話を思い出していた。

『俺はー』『九郎です。』

九郎が名乗る前に弁慶が紹介してしまう。

『名ぐらいー』『分かっていますよ。名乗らせろ!とでも言いたいんでしょう?残念でしたね。』

弁慶はいかにも申し訳なさそうな顔をしてみせる。

『未麻がここで世話になってる奴らだな。
サンキューな。』

「ありがとうっていう意味なの。」

慌てて未麻がフォローする。

『未麻、お前はこの辺りに住んでんのか?』

まだ邸に行ってもいない未麻だから、将臣の問いにどう答えていいのか分からず九郎を見た。

将臣には未麻がこの2人に依存している姿がどうも面白くなく思えてしまう。

『いや…遠くはないが…会うなら神泉苑がいいだろう。』

九郎は将臣の意図を察したのか、そう提案した。

『じゃあ、明日会えるか?久しぶりに近況報告でもするか。じゃあ、悪いが俺はこれで失礼するぜ。』

そう言うとさっさと背中をむけて歩き出してしまう。

「将臣!?」

未麻の声にも振り返らず手だけ振ると、将臣は本当に行ってしまった。


所詮こんなもんなんだよね…。

望美だったら

もっと喜んだの?

ただ未麻は見送ることしかできずにいたのだった。



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