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再会
もちもちした食感にこのとろりとしたたれが

またよく合っている。

未麻は嬉しそうに団子を頬張ると、ほいほい食べていく。

ふとその時だった。

目の前の人込みに目をやると、黒い人物が目に飛び込んできた。

あれは・・・弁慶!?

弁慶の黒の外套に間違いない。

あんな人はそうそういないから。

未麻は思わず団子屋を飛び出し、弁慶と思われる人物を追った。

あまりの速さに九郎は遅れをとってしまっている。

その人物は人にぶつかることなく、颯爽に人込みの中を歩いていく。

慣れない人込みだが、未麻も負けずについて行った。

何故ここまでに弁慶に会いたいのか

自分でも分からないが

会いたかったのだ。


もう直ぐ追いつくというところで、その人は小道に入っていってしまった。

「あ・・・つ」

未麻も急いで小道に入ったが

・・・そこにはもう誰の姿もなかった。

「そんな・・・」

そこで未麻は九郎を団子屋に置いて来てしまったことに気がついた。

やばい・・・こんなに歩いてきてしまった。

ちゃんと九郎と所に戻れるのだろうか・・・

不安でいっぱいになり、途方に暮れてると誰かに腰を持っていかれる。

一瞬、弁慶かと思い振り返ったが、その希望は敢無く打ち砕かれる。

「おい、まだ幼いがいい遊び相手になりそうだな。」

「おっ、顔は上玉だぜ。」

いかにもいやらしそうな人相の悪い男達が未麻を両挟みするように立っている。

動こうにも腰をしっかり掴まれていて、びくともしない。

これではせっかく習った剣だって通用しない。

「可愛いお嬢さんはどんなお味がするのかな?」

男の1人が未麻を押さえつけ、もう1人が未麻の顎をとると顔を近づけてくる。

「うろたえている目もなかなかなもんだぜ。」

嘗め回すようないやらしい目つきで自分を見てくる。

こんな所で・・・それもこんな男共に・・・

恐怖と、悔しさと、悲しさで涙が溢れてくる。

ザッシュ

顔を近づけてきた男が行き成り目の前で倒れていく。

『君達みたいな汚い野郎が触れていい女性ではありませんよ。』

その聞き覚えのある声と話し方で未麻は見ずとも誰か分かっていた。

未麻の目の前には薙刀を構えた弁慶が立っていたのだ。

いつもの様な笑みはない。

「弁慶!」

『おい、てめえ・・・。俺の相棒に何しやがる。
この女がどうなってもいいのかよ?』

男は未麻を抑えている腕に力を込め、空いている方の手で未麻の首に短刀を押し当てる。

さすがの弁慶も未麻に剣を突きつけられたら、闇雲に動きようもなく様子を窺っている。

一瞬、弁慶の瞳の色が変わった。

それはあまりに瞬時なことだったので、未麻にも、その男にも分からなかった。

『彼女の心配するよりも、自分の心配をした方がいいんではないでしょうか?』

弁慶がそう言うなり、未麻は自分を押さえつけていた力が緩んだことに気づいた。

何が何だか分からなかったが、無我夢中で未麻は弁慶に抱きついた。

「弁慶・・・怖かったよ・・・」

いくら剣の腕もよく、いつも強気な未麻だが

相当怖かったらしい。

弁慶の腕の中で俯いたまま、未だに震えている。


『これからは自分の女に怖い思いをさせねぇようにな。』

未麻の背後で誰かが話しているが、今の未麻の耳には届いていない。

弁慶は自分の目の前にいる鎧を着けた男を見た。

この察しがいい男は自分と未麻が窮地に立たされているのを瞬時に読み取り、男に気づかれぬよう背後に回っていてくれたのだった。

弁慶は何故かこの男が気になった。

知り合いではないが・・・・藍色の髪

藍色の瞳・・・

まさか・・・・っ!

弁慶は試さずにはいられなくなった。

弁慶はわざと未麻の名前を甘い声で囁く。

それも名前がその男に聞こえるようにはっきりと。

『未麻、怖い思いをさせてしまって本当にすみません。』

そう言うなり未麻の頬にそっと両手を添え、その唇に自分のそれを重ねた。

それと同時にその男が声を上げた。

『おい・・・未麻・・・未麻なのか!?』

目の前にいる女は自分の記憶の中にある姉、未麻、よりも背丈は低かったが、同じような艶のある漆黒の長い髪をしている。

未麻は突然見ず知らずの男に名前を呼ばれたことにも驚いたが、それよりもそのどこか聞き覚えのある声に自分の耳を疑った。

まさか・・・・

互いがそう思っていた・・。

未麻が振り返るとそこには

雰囲気が幾分変わってはいたが、

あの将臣が鎧姿で目を丸くして

立っていたのだった。






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あきゅろす。
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