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学園天国!
さ、最低だ!







「ひ、ば…?」

「……」

「おい…!」

「………」

「ひ、雲雀…っ!!」



─────…



「では優勝者を発表します!」

ステージに立っている鬼太郎。マイクを持った司会者のひとり。
ハロウィンパーティーの、仮装大賞…。

校則の厳しい私たちの学校で、各々の個性を存分に発揮できる日こそ、今日なのだ。

廊下では何度がルルーシュとすれ違い、教室には一護やら織姫やら。

いや、ううん。
2組のジャイアンは完成度高かったなぁ。
って、そうじゃなくて。


「優勝は、1組24番!」

ハートの女王様です!

司会者がそう言うのを、ぼんやりと聞いていた。
なんでも男のくせにハートの女王を選び、しかもそれがまた似合っていたところに点数が入ったらしい。

私は、そんなのまるで興味が持てなくて。
(いや、これが去年ならそうはいかなかったかも知れないが。)


じわじわと発熱してくる、彼の噛み跡に。

満喫できないハロウィンパーティーを、終えたのだった。



─────…



「…チッ、」

だれもいない廊下に響くくらい、大きく舌打ち。

あンのヤロー。
よくも私に傷なんか負わせやがって。
応接室に着いたらとっちめてやる。
(まず銃で眠らせて、その間に縛って、それからそれから…)

「…………ハァ、」

そうは思うものの、まだ違和感の残る肩に、何故彼がこんなことをしたのかが気になってしょうがない。

所有物……
その言葉がひどく心にのしかかる。
私は彼にとって、物になってしまったのだろうか。
良きライバルだと思っていたヤツにそう思われるのは、つらいことだ。

「……」

私は嫌な予感が当たらないようにと願いながら、応接室の扉を開いた。



─────…



…朝から、身体が怠い。

こうも不自由なのは、春に桜で起こしたアレルギー以来だ。
…クラクラする。目眩にも似た症状と、熱。


「は……ぁ、」

頭が割れそう。
覚束ない足取り。
それでもいつもどおり、学校に向かう。

風紀を乱さないため、僕の並盛を守るため。

必死に平常を装って、街中でも気を張って、なんとか応接室まで辿り着いた、のだが。


「……っ、」

こんなときに、ああ、タイミングが悪い。
…ちとせが来た。


「やぁ…」

自分でも嫌気が差すほど、覇気のない声。

前々から彼女に対して、他の女子生徒と同様の扱いが出来ないということに気付いていた僕は、今の状況があまり良いものであるとは思えない。
(だって彼女は、有力な風紀委員候補だ。)


風邪……なんて。

草食動物を咬み殺せないなら、なにも面白くないじゃないか。

(前の風邪はまだよかった。草壁が代わりに風紀を守っていてくれたから。)
(でもその草壁も風邪で休みなんて……。)


目の前がブラックアウトしかけて、慌てて首を振る。

「僕は今日一日、応接室で過ごすよ」

まだ大丈夫、だと思っていた風邪の具合が、思ったよりよくないらしい。

彼女が来てからなおさら熱が上がったらしく、身体が重い。

次期部下候補の前で倒れるなんて失態はしたくない。
…でも、誰もいないよりはマシかな…。


そう思った矢先に、離れて行きそうになるちとせの影。
追うように、僕の手は意思に関係なく、伸びていた。


「な………」

気付けば彼女は、僕の腕の中にすっぽり収まっていて。

「……」

あれ、なんで僕、ちとせにこんなこと……。
(これも惚れ薬の所為?)
(それとも風邪で?)


自分の奇怪な行動に考えを巡らす間、ちとせは離してと微かな抵抗を見せる。

それがどうも僕を拒絶しているようで、気に食わない。
別に拒否されて悲しいとかそういう女々しい感情じゃなくて、ちとせの興味の対象が僕以外に向いていることに対して、だ。


「そんなに僕から離れたいんだ……?」

試しに訊くとやはりそのようで、君は肩をすくめる。

彼女の口から出てくるゴクデラという単語。
あんな草食動物と、なにを勝負する必要がある?
(僕ですら君と戦うのなんて早々出来ないんだから)

まさか僕があの草食動物以下の扱いを受けるなんて。

もちろん頭にきているから咬み殺したいのは山々なんだけど、どうも今の僕の身体では無理な話らしく。

代わりに半ば彼女に寄りかかるような形で、腕に力を込めた。


「ど、どーしたんだよ…、ほんとに急に……」

震えたような、君の声。
どうしたもこうしたも無いよ。
君が僕以外に構ったりするからいけないんだ。
身体が重い。
ちとせがいなくなったら、今にも倒れそう。
(だからどこにも行くな、なんて。)

…そんなこと、僕に言えるはずもなくて。


早く戻ってきて。
言ってから、なんて僕らしくない科白だと思った。

別に君に気付いてもらいたいわけじゃなくて、とくに理由なんてないけど。

強いて何か挙げるならば、君が見ていいのはゴクデラじゃなくて、僕だけってこと、教えたいから。
(なんでって訊かれたら、…それは困る。)


くすぐったい、と捩られた君の身体。
ふ、と目を開くと、視界に飛び込んできたのは彼女の首だった。
魔女のマントの重さに引かれるようにして、首元が露になっている。


(これだけ何も穢れのないちとせの肌に、なにか僕だけの印を残せたら…)
さぞかし、気分がいいことだろう。

ちとせはその印を見る度に僕を思い出して、僕だけを考えてくれたら。

頭の中はそんな可笑しな思考ばかりで埋められた。


でも気付けば、ちとせは何故かとんでもなく怒ってる。

「ばか!過剰なんだよ!」

ギリリ、と睨まれるが、言われても意味が分からない。
過剰?血の気が?
ちとせに何かした?


バタン、と閉められたドア。
なんとなく咥内に広がる、誰かの血の味。
(僕の血じゃない。これはもっと……、甘い…?)


そう認識しかけたときに、支えの無くなった身体はフラリ。
彼女を怒らせた理由が全く理解できないまま、僕の視界は霞を帯びて消えていった………。



─────…



ドアを開けようとしたときに、まず。
何かが引っ掛かったんだ。


扉の前に大きな荷物でも置いてるみたいな、妙な開きにくさ。

私は最初、雲雀恭弥がふざけてるのかと思って、ちょっとむすくれて声を掛けた。

「おい?私だよ、田中ちとせだ」

でも返事はないし、荷物も依然として無くなった様子はない。

「開けるぞー…?」

そろりそろりと慎重に、扉の隙間から部屋の様子を伺う。
(これで雲雀がぬいぐるみとおしゃべりしてたりしたら私、これからどうやって彼と接すればいいんだ。)

…不安。応接室で待ってるって言って、誰もいなかったらどうしよう。

荷物を押しながら開けるために、少々力を入れて扉を開ける。


──ズリ、ズリズリズリ…
と荷物が絨毯に擦れる音がして……、


「うわあっ!!!」


正体を確かめて、
びっくり。

なんと人間じゃないか!
しかも噂の張本人!
雲雀恭弥がぶっ倒れてる!

な、なにが起こった!?


「ひ、ば…?」

おそるおそる呼び掛ける。
が、相手は死体と化したかのように動かない。

「……」

「おい…!」

また悪い冗談か?

「………」

いや、ちがう。
微動だにしない、ぞ…。

「ひ、雲雀…っ!!」


そのときになってようやく、ことの重大さに気付く。

雲雀がぶっ倒れてる!!

ああどうしよう!
ま、まず救急車…?
いや、でも死んでたらもう意味ないぞ!
わ、私が第一発見者!?
ズリズリ引きずっちゃったけど、それで死んだりしてないだろうな……?

頭がショートしそうになるくらい、多分、動揺してた。
いつも冷静で、驚かされることには慣れてたはずなのに。


「ひ、ばり……」

とりあえず、生死の確認を。
そぅっと鼻先に指を持っていく。
微かに熱い呼吸があった。浅く、何度も繰り返すような。
失礼して彼の華奢な胸板に手を置くと、確かにトクトクと、幾分早い鼓動が波打っている。


「い、生きてる……」

そうとなれば話は早い。
救急車だ。

私は倒れた彼の横に力なく落とされた学ランを掴む。思っていたより重いそれのポケットを探り、彼愛用の黒い携帯を取り出した。


「110…じゃない、119か…?」

こんな、わたしが、ああ!
雲雀の、いつもとなりにいるやつの、救急車を呼ぶことになるなんて!

手は震えて動揺して頭がうまくまわらない。


「も、もしもし!並盛中学の応接室まで、救急車お願いします!」

ひ、ひとが………
彼が、雲雀恭弥が倒れてるんです!症状は分かりません、わ、私は田中ちとせです、ハイ……。ね、熱?あ、…あつっ!熱、すごい熱があります、ハイ。分かりました、出来るだけ早く、早く来て下さい!




─────…




10分ほどで行きます。
そう、病院の人は言った。
私は下手に動かすのもいけない気がして、とりあえずソファーまで運んだけど…どうすればいいんだ。

タオルケットと、足りないから私のセーターとブレザーも掛けて。
冷えピタ常備の応接室の冷蔵庫に苦笑しながら、奴の額に貼って。(貼った瞬間に「うぅん」と唸られた)


「……はぁ、」

悪いこと、したかな。
もしかしたら彼なりの…、SOSだったかもしれないのに。
分かってほしくて、私のこと噛んだのかも。


「ごめん、な」

気付いてやれなくて。
こいつが表現ベタだってこと、忘れてた。


まだ苦しそうに浅い呼吸を繰り返す彼の頬に、そっと触れる。


「……ん…、」

「!…雲雀!」

「……ぅ、」


雲雀が目を覚ました。
ふやけてちょっと赤くなった瞳。
焦点が合わないのかフラフラと宙を彷徨わせてから、私の方を見た。


「まだ無理すんな、もうすぐ救急車がくるから」

苦しかろうと思って外してやった、第二ボタンまでのはだけた鎖骨。
ちょっぴりついた寝癖、弱々しく上気した頬…。

(相変わらず、男のくせに羨ましい色気してんな…)
ため息混じりに冷えピタに手を乗せる。熱い。


「……ちとせ…、」

まるで縋るように私の名前を呼ぶ彼。ほんとに、普段とは別人……。


「あ?」

と、無防備にもポカンと口を開けて返事したことが、いけなかったのかもしれない。


「ちとせ、……ン、」

気付いたときにはもう、

胸ぐらを彼に掴まれているところで。


「 ! 」


抵抗、出来なかったんだ。


……キスされたこと。



「………ッ!」

当の本人はやっぱり分かってないのか、またコテンと気を失って(寝て?)しまって。


「救急隊、到着しました!」


入ってきたタンカと入れ違うように、私は応接室を飛び出した。





──────────……



すでに顔を出していた
独占欲。




continue…




ああー、とうとうしちゃいましたねー。
実際はもうちょい焦らそうかなと思っていたのですが、カップルほのぼの連載もイイかなって(*ymy*)

実はそれを嫉妬と呼ぶのだが意地張って認めない雲雀ん……(*´∇`)←
「僕が嫉妬?ありえないありえない、しかもよりによってちとせなんかに、そりゃちょっとは面白くないとか思うけど別に嫉妬じゃないしちとせのことなんか別にいいし僕は愚かな草食動物じゃないから嫉妬だなんてしないもん絶対ぜったいしないもん!」
みたいな!


誤字脱字、辛口評価、
お待ちしております。




ありがとうございました!


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