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学園天国!
お菓子をよこせ!








「Treat or Treat!」


「…お菓子かイタズラか、でしょ」



─────…



今日は何の日?

オレンジと黒と、蝙と蜘蛛と魔女と……
フランケンに狼男、ドラキュラに猫娘。

ああ今日は、年に一度のハッピーハロウィンではありませんか!


「……ふ、」


朝からトクトクと、クリスマスが近いこともあってか、やけに動悸がする。

にんまり、と自分でも気味悪いほど、私は一人で不敵に笑っていた。


スキップせんばかりの足取りで応接室に向かう。

ポケットにもカバンにも。
至るところに隠されたお菓子たち。毎年なんだ。


この日ばかりは、いつもはスカスカのカバンも、はち切れんばかりに膨らむ。
衣装やら、色々。
衣装ってなんだって?


それは彼が一番よく知ってるだろう。
今日、雲雀恭弥に「今日は何の日?」と聞いたならば、彼はムスッとしながらもこう答えるに違いない。


「…並盛中恒例の仮装パーティー。年に一度の、僕の苛々がピークになる日だ」ってね。

どう足掻こうと、彼が彼である限り、この行事がなくなることはない。
これはあくまで「並盛中恒例」の行事なのだから。

風紀委員会が学ランを着て生活しているのと同じ、
これも「伝統を重んじる」彼には決して、どんなに不愉快でも、止められないのだ。

故に生徒たちは、この日のことを密かに「雲雀封印の日」と呼んでいる。


部屋に入れば、朝からもうすでにぐったりした様子の雲雀恭弥。

「イカれた格好をした群れなんて見たくもない。僕は今日一日、応接室で過ごすから」

…それが彼の言い分。
不要物のチェックも出来ないし、校則違反も咬み殺せない。
苛々しすぎて罪のない生徒全員を半殺しじゃ、いくら雲雀だってお咎めを受けるはずなのだ。


「そうか…残念だな」

口からは当たり前が如く台本通りの言葉がつらつらと出てくるが、所詮私は大根役者。
感情なんてこれっぽっち、ノミの心臓くらいもない。


「ちとせはいいよね、群れを見ても苛々しないんだから」

「ん、まぁな。苛々する奴もいるけど、お前ほど酷くはない」

「………」


彼はこんな日もやはり学ラン。仮装なんて滅多、世界がひっくり返ってもいたしませんとも。


「じゃ、私はこれで」

狼男のヤローと勝負しなきゃなんないから。


そう言って応接室から出ようと、ドアノブに手をかけたとき。


「!」

何故か私は、雲雀恭弥の腕の中に、いた。


「な………」


後ろから包まれる、という表現があっているのかもしれない。
一瞬びくりと肩を震わせてしまったものの、驚かされることには慣れていた。
すぐに冷静に戻る。


「…どーしたってんだ、」

熱でもあんのか?

ため息をつきながら茶化し半分に尋ねれば、肩口に置かれた彼の艶ある髪が首を擽る。
ちがう、と言いたいらしい。


「じゃあなんだよ…、」


これも惚れ薬の効果か?

雲雀恭弥が、あの風紀委員長様が、誰かに自ら抱きつくなどといったことが、今までにあっただろうか!


「…狼男って、誰?」

幾分、いつもより声が小さい気がするのは、多分今の体勢のせいだ。


「狼男?ああ…ゴクデラ、かなんかって言うやつだけど……」

お前は知らないだろ?

少し首を捻って彼に向くが、顔を埋められいては目など合うはずもない。


「………あいつか…、」

彼が、小さいため息をついたのが分かった。

風紀のチェックでいつも引っ掛かるからね。僕もとうとう名前を覚えてしまったよ。

彼が覚えるほどということは、相当だ。
煙草ピアスベルト髪色学校生活態度。
全部に該当している生徒も、これまた少ない。


「ゴクデラが、なんだよ」

気に食わないってか?
別に大丈夫だよ、無理矢理お前に会わせたりなんかしないって。


「別にそんなの心配してないよ」

はぁ、と目を伏せるような短いため息。

腕時計を確認して、今がパーティー直前10分前だと知る。
ああ、忙しい。


「……仮装パーティーが終わったら、…………ね」

「…あ?」

ぼそぼそ、と彼が何か言ったような気がする…が。

仮装パーティーが終わった、なに?
顔見えないから聞こえづらいぞ。

首に後ろから回された腕に、力がこもる。
オイオイ、もしかしてこのまま、私を本当のゴーストにしようなんて、思ってないよな?

ぶつぶつ…何度かぼやきを聞いたあと、彼がゆっくりと、言った。



「……戻って、きて」


「…は…?」

「だから、仮装パーティーが終わったら、もう一回…応接室に来なよ」


今度ははっきり聞こえた。

『モドッテキテ』、そう聞こえたのは、気のせいか。

あり得ないよな、あの雲雀が誰かにお願いなんて。
応接室に来なよ、それでこそ鬼の風紀委員長ってモンだ。


「わかったよ…ちゃんと行くから、今は行かせてくれ」

早くしないとパーティーが始まるんだよ。

早く早くと、ドアノブを持つ手に焦りが出る。


「そんなに僕から離れたいんだ」

またぎゅうっ、とされた。

それには今度こそ、驚きに身を縮めるより他ない。


「ど、どーしたんだよ…、ほんとに急に……」

心配になってきた。
あれほど強気で短気な孤高の浮雲が、どうした。
まるで子供みたいじゃないか!(どっかのヤブ医者にまた変な薬なんか盛られてないといいけど)


「終わったらすぐだから」

「………、ッ!?」

彼が言い終わるか終わらないかの間際で、首に痛みが走った。


「い、いてッ…オイ!」

なに噛んでんだよ!

歯を立てられた感覚。
気付いていないらしいが、彼は意外と犬歯が尖っているのだ。


「……ん?」

「ん?じゃねーよ!なんで噛むの!?」

お前、ドラキュラの仮装もしてないくせに!

噛まれた箇所を手で押さえると僅かに湿っていて、ぬるりと何かが指に触れた。


「!!」

こ、こいつ!

ほんとうに微量ながら、血が出ていた。
すぐにでも止まるだろうが……


「ばか!過剰なんだよ!」

とにかく、戦闘仲間に油断して怪我を負わされたことへの屈辱が、勝っていた。

ばかと言ったその言葉は、気を抜いていた自分へ向けた言葉だったのかも知れない。


「………、?」

まだ自分のしたことが分かっていないらしい彼を睨み付け、私は応接室の扉を、バタンと閉めた。



─────…



「ちとせちゃん、それ………、」

「んぁ?」

笹川京子、という学校のアイドル的存在の彼女が、私を指差していた。
…なにやら照れた様子で。

「どした?」

なんか変か?
と自分の格好を見る。
普通に、ベタに魔女の格好だが。

(京子ちゃんは可愛く天使の仮装、となりの黒川花はリンクして悪魔の仮装だ)


「へーえ!ちとせもやるねぇ!」

ニヤニヤ、と笑いかけられるが、なんのことだかさっぱりだ。
……そういえばさっきからチラチラとこちらを見てくる生徒もいたような?

笹川の指差す先、左頬のあたりを手で軽く擦ってみる。
なにかついてる?


「ちがうわよ!コレよ、コレ!」

とんとん、と軽く触れて示されたのは、さっき雲雀に噛まれたところ。

あ、また出血してる?

言う前に、黒川花がしゃべりだした。


「いやぁ、ちとせってこういうこと疎いだろうと思ってたけど、まさかキスマークを堂々とつけてくる日が見れるなんてねー!」


「……ぇ…、」


"キスマーク"……

たしかに、彼女はそう言った。
キスマークキスマークキスマーク………??

えーと……、


…………、


「え!」

あわてて手で覆う。
キスマーク!?
な、なななな。
何事だっ!

「やだぁ、付けられたの気付いてなかったの?」

よっぽど集中してたのねぇなんて、今の私の耳には届かない。


問題は、コレがヤツの…
雲雀恭弥の仕業によるものだということだ。


ナイナイナイナイアリエナイ………………………。

彼にそんな…キスマークをつけるつもりがあっただろうか?

走ってトイレに駆け込み、鏡を覗く。
たしかに小さなかさぶたを覆うように、赤い鬱血の跡が見えた。

「………、」

彼にこんなことをする理由が、あったろうか?

所有印とも呼ばれるソレは、何より、私と雲雀の最も嫌うもののひとつなのに。


だから彼は、私を自分のモノだとか、所有物だとか、そういう扱いをしたことがないと思っていたのに。
自分もいやだから、人にも物扱いはしないと。
せめて草食動物扱いなのだと、言っていたのに。


「…なんてこった……、」

Oh,my god!!
叫びたい気分だった。

彼に噛まれた跡が、熱を持ち始める。
どくんどくんと打つ心臓の鼓動がなにを意味するのか、今の私には到底、分かりそうもなかったんだ…。



──────────……



とにかく応接室へ…






continue…



続く…みたいな。
原作で探してみたのですが、雲雀の歯を描いた絵がなかった。全部、大体前歯までしか見えないんですよ。
なんか雲雀の歯が意外と尖ってたりしたらかわいいなぁと思って、捏造しました。夏はアイスキャンディーの棒まで食べちゃいそうになった経験があるとかね。咬み殺すのセリフそのままに噛み殺せそうとか。モスカみたいに。
おしゃぶりを噛みちぎった経験があるとか。コンビニで買ったやつで、ストローでジュース(牛乳が好ましい)を飲んでるとストローの先がぐしゃぐしゃになっちゃうとか。カワイー!←


誤字脱字、辛口評価、
お待ちしております。




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あきゅろす。
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