[携帯モード] [URL送信]

学園天国!
あり得ない!







「桜…、」

「そう、冬の桜。」



─────…



応接室に連れてこられてまず通されたのは、草壁すら入ったことの無い、もうひとつの応接室だった。

雲雀恭弥の雲雀恭弥による雲雀恭弥のための部屋。


「すごいな。こんな部屋、学校内の地図にもなかったのに。」

重厚感はそのままだが、幾分、本物の応接室より肌寒い。


本当にすごい部屋だ。

本棚で隠された扉が、デスクの引き出しの裏に取り付けられた彼のリモコンひとつで、自動的に現れるのだから。


「よくこんな仕掛け、学校にバレずに出来たな。」


感心したように部屋を見回す。
家具の配置ひとつひとつまで、すべて元の応接室と同じになった第二の応接室。
まるで何かの推理小説の種になりそうだ。


「まぁね。暇潰し程度で始めたら、こうなった。」

「……はは。」


それはそれは、
よーござんしたね。

暇潰しで忍者屋敷を作れるなら、お前、建設者にでもなればよかったのに。
きっとマニアックでコアな人たちに引っ張りだこ請け合いだ。


「私用のトレーニングルームも作ってくれよ。」

……とか何とか、彼の知能の高さと技術力に感心しつつ。


「見せたかったものって、もしかしてコレ?」

単なる自慢か。

あんたの頭の良さは、もう随分前から重々承知しておりますが。

呆れたようにため息。
…実際呆れた。


「まさか。こんなもの見たってちとせは喜ばないでしょ。」

そう言って今度は、照明スイッチの下にあるもうひとつのボタンを押す。

ウィ───ン、
機械的なノイズが聞こえたかと思うと、途端、視界が開けた。

窓のカーテンまで自動式。


「……お前って、極端な面倒くさがり?」

「趣味の一部だよ。」


めんどくさがりだというのを軽く否定しながら、彼は窓辺に寄って私に手招きをする。

どうやら、見せたいものは窓の外にあるらしい。


そっと窓に近寄り、覗き込む。


「う、わ……、」


ピンクピンクピンク。
薄桃色のオンパレード。
ふわふわした甘い色が視界いっぱいに溢れてる。

それはまさしく、


「桜…、」

「そう、冬の桜。」


彼は得意げに話す。


「随分前から蕾が付き始めててね、今日、やっと咲いたんだ。」

狂い咲き。
多分すぐ枯れちゃうから、早くちとせに見せようと思って。


「ふーん…、」

確かに、桜は好きだ。
花粉症の気がある私は、あまり近くに寄ることは出来ないけど。
(…あれ、じゃあわざわざここに連れて来られたのって、)


「教室にいなかったら君の家に呼びに行くつもりだったけど、」

家にいるより厄介なことになってたからね。

ふぅ、と横でため息が聞こえた。
おそらく山本武のことを言っているんだろう。


「でも僕が勝った。」

彼はくぃと口角を上げる。

微か、どうしたことか。
その横顔に一瞬だけ、変な動悸を覚えた。
息が詰まったので咳払いをする。


「…何か飲む?」


その咳をむせたものだと思ったのか、窓を離れる彼。
…お茶でいい?


「ゴホ…ッ、いらない、」

あわててヤツの腕を掴み、引き戻す。

………何だ?
どうした。

何で今日は、こんなに。
雲雀恭弥の様子が変だ。
いつもなら私を気遣うなんて絶対にしない。
本気で殴り掛かってくることだってザラじゃない。
なのに、なんだ。
一体どうなってる。

頭に極端な情報と思考が流れ込んできて、眩暈までした。


「言っとくけど、こんなもの見せたって風紀委員会には入らないぞ。」

彼がこんな風になる理由を、それ以外思い付けなかった。
私の能力が欲しいんだろ。
戦力にしたいんだ。


フン、と鼻を鳴らす。


「流石、勘がいいね。」


彼はクスクスと笑う。
作戦を見破られたのにも関わらず、その表情はどことなく嬉しそうだった。


「草壁の作戦だったんだよ。」

応接室と風紀委員長の良さを知ってもらうことが一番だって。

カーテン開閉のボタンを押して窓を隠しながら言う。


「あいつは一回咬み殺しておかないとね。」


そう言うヤツの目は、紛れもなく本気だった。


「……、」

草壁、憐れ。
不憫に思えて仕方ない。
ただ良かれと思ってしたことが、空回りに終わってしまうだけなのにな。


「ほどほどにしといてやれよ。」

私が相手なんだから仕方ないだろ。

草壁を庇うために少しばかり自惚れた言葉を言ったが、彼は「確かにね」と納得した。


そのとき、


───カサッ、

ビュンッ
パァンッ


二人が二人、咄嗟に武器を発動させた。

物音、それも意図的な。
彼の旋棍は壁を貫くかのように突き刺さっており、私の空砲はそれを隠すかのように硝煙を上げる。

誰か、この部屋にいる。


「なかなか、腕はいいじゃねーか。」


煙から現れたそれ……、
詳しくは、小さな人影が言葉を発する。

隣にいた彼が、息を呑むのが分かった。


「ちゃおッス。」


そこに現れたのは、紛れもない。


「リボーン…っ!?」


私の知人の元師匠、その人に違いなかった。


「赤ん坊…、」

彼が驚いて目を見開く。
どう考えてもリボーンを知っているかのような口振り。
そうでなければ彼が、いきなり現れたベイビーに驚いて口を利けないとは、考え難いからだ。


「二人とも一段と技に磨きをかけたな。」

まるで私たちの過去を知っているかのような。
いや、実際に私は知られているのだ。
彼とはもう長い付き合いになる。


「リボーン、どうしてココに……、」

「ある極秘任務でな。」

「ちとせ、赤ん坊を知ってるの?」

「うん、ずっと前に。」


イタリアにいたころ、とは言わずに。


「おまえら、コンビを組んだらどうだ?」

唐突に彼が切り出す。

「……コンビ?」

「なんの。」

「戦いのだ。」


私たちは顔を見合わせる。
こいつと、コンビ?


「あり得ない。」

「群れるのは嫌いだ。」


二人して出す答えは同じ。
こんな自己中な人間とコンビなんて組めるか。
足の引っ張り合いで破滅するのがオチだろう。


「…そうか、オレは結構、息の合うバディーだと思うぞ。」

「「どこがだ。」」

「そういうとこが、だ。」


「………、」

「……ちっ、」


私は軽く舌打ちをする。


「ファミリーへ入ることも考えてろよ。」

チャオチャオ。

途端にパンッと彼が弾けたかと思うと、中から白い鳩やらクラッカーの中身やらが飛び出した。

…元から人形か。


私がチラッと隣を盗み見ると、彼もこちらを見下ろした。

─結構息の合うコンビ?
あり得ない!


「…フンッ、」

そっぽを向くと、やっぱりなぜか動悸がした。


「ファミリーには入らなくていいから、風紀委員会に入ってよ。」

「いやだね。」


そうして秘密の部屋での夕暮れは、更けていくのであった。



──────────……



第一の作戦は失敗か。




continue…



誤字脱字、辛口評価、
お待ちしております!






[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!