[携帯モード] [URL送信]

学園天国!
山本をとめろ!








「クフ…クフフフフフ、」


まだ諦めてませんよ、田中ちとせさん、雲雀恭弥くん!


量が足りないのなら、たっぷり飲ませてやるだけです!
(秘密の実験、ちゃっかりちゃんと見てました。)


別の実験台を用意しましょう。クフフフ!

三角関係…というのも、
なかなか乙じゃありませんか。




─────…




カキィン…!

澄み渡る空に響く金属音。
真っ青を切り裂いて、ぐんぐん突き進む白い点。


その下では、どろだらけになりながらも黄色い声援を集める青年がいた。


「っしゃ!ホームラン!」

「ちきしょーっ、山本の奴またやりやがった!」

「ははっ、わりーわりー!」


「きゃーっ、山本くんカッコいーっ!」

「サンキューな!」


黒髪短髪の野球少年。

汗もこーゆー爽やかな少年がかくとキラキラするもんなんだな。

私は何故かぼんやりとその少年を眺める。
手元には「人間観察記録」と書かれた用紙。

静まり返った、ひとりきりの教室。

六道先生の言葉を、思い出す。



─────……



「…閃きました!」


「またバカなことでも思いつきましたか。」


「山本武のモテる秘密を探りましょう!」


「どうぞご自由に。」


「いえ、田中さんが協力してください。」


「どうして私が…、」


「おや、いいんですか?草壁くんのケーキ食べたことバラしますよ。」


「……協力しましょう。」


と、いうわけで。
私は彼の観察記録をつけている。


朝はギリギリに登校。
沢田綱吉獄寺隼人と行動。
野球部所属、放課後はもっぱら誰もいなくなるまで練習している。

補足を付けるならば彼は、いわゆる「好青年」というやつで。
成績は直感で中の上。
男にも女にも、その屈託ない笑顔と爽やかさ、持ち前の明るさでかなりの人気者……だ。

記録をつけはじめて早三日。


「あ…、」


噂の、六道先生を発見。


運動場、野球部の練習している横を、白衣姿で堂々と歩いている。

すごく目立ちますねそれ。目に眩しいくらいの真っ白ですね。わざとですか?


(私はといえば部活に所属しておらず、暇な放課後をひとり、教室で人間観察なんぞしながら潰している)


「きゃっ、六道先生…!」


女子たち騒然。

野球部のエースと美形教師の板挟みで、心拍数は異常な数値を刻みだす。


女たちのキャイキャイとした黄色い声以外、上の教室からはよく聞き取れない。


「……5時32分、」

六道先生と接触。


何やら話している様子。

流れるキラキラの汗を輝く白いタオルで拭き取る爽やか少年と、
どこか妖艶な雰囲気ただよう知的な教師の会話に、一体どんな話題があるというのか。

気になるところであるが、残念ながら私の耳は凡庸な人間並みだ。


あ、山本武が笑ってる。
笑い方まで爽やかって、こいつにはベタついたところがないのか。


「……─、…はははっ」

「クフフフ…」

笑い声だけが聞こえる。



先生が、何だろう白い…、ペットボトル?だろうか。
スポーツドリンクとか…、駅伝の水分補給所に置いてあるアレ。
を、彼に渡す。

……ん?

先生が何やらこっちの方を指差して……、
…あ、
指先につられてこちらを見上げた山本武と、目が合った。


「……、」

ニカッと笑い掛けられる。


…なるほど、どおりでモテるワケだ。

(こんな笑顔を向けられた日には、きっと一般婦女子のハートははち切れんばかりなんだろうな。)
(…私は一般婦女子に分類される人間ではないが。)


六道先生も彼に続いて私の方を振り返り、見たくもない、あの不敵な笑みをお浮かべになった。
(オイオイ…)


これは、やばいぞ?


なにやら先程から胸騒ぎが止まらない。



山本武は六道先生が立ち去るのを見送ったあと、また私の方を見上げる。


彼なりに気を遣ったのか、大声は出さず、私に向かってブンブンと手を振っただけだった。
勿論、爽やかな笑顔で。


「……。」


5時50分;六道先生より受け取った、栄養ドリンクとみられる水分を補給。のち再び練習へ戻る。


機械的につらつらと文字を並べた。

冬が近くなったせいか、まだ6時だというのに、空は半ば紫のベールを被っていた。


そろそろ、練習が終わる。



─────…



「ふーぅ……、」


6時30分、部員が全員帰ったあと、グラウンド整備。

さすがは野球少年。
誰も見てなくても、裏表がないから真面目にやってるなぁ。
(いや、私が見てるけど。)


教室には、彼の席にエナメルバック。

きっともうすぐ来るだろう。
先生に押しつけられた「人間観察記録用紙」の下部、「対象者への疑問点」という部分を埋めるため、私は哀しくも対象者に選ばれてしまった山本武を待った。



─────…



「…お?」


軽快な足音が聞こえたかと思えば、ガラッと引かれるドア。

お待ちかねの人物、山本武の登場である。


「あれ、田中、まだ残ってたんだ。」


「あー、うん。」

(六道先生に厄介な仕事を任されたおかげでね。)


「そっか、」

それだけ言って彼は、そそくさと帰宅の準備をする。
…心なしか元気がなさそうに見えるのは気のせい?



「……山本武は、いつもこんな遅くまで一人でグラウンド整備してるの?」

…質問@
彼の性格が本当に良いものであるかどうか。

露骨にこんなこと訊けないので、彼の反応次第で〇×を付けさせてもらおう。

彼は照れたように頭に手をやる。
爽やか少年のウブな一面。


「うわー、見られてたのかぁ…」

まぁ、たまにだけどな!


そういいながら、ここ三日ずっと遅くまで残ってるじゃないか。
とりあえず質問@は〇。


「ふーん。野球、好き?」

質問A山本武は本当に野球好きか。


「おう!野球は最高だぜ!甲子園で優勝!」

ガッツポーズなんてつくりながら、目をキラキラさせて話す彼。

…どう見ても〇だな。
この笑顔の裏には何もないだろう。
野球好きというのは嘘偽りない事実。


そして、質問B

野球少年は汗くさくないのか。


「………。」


これは、どういう?
私にこれを訊けと?
「山本くんって、汗臭くないの?」ってか?

あンの変態教師が!
匂いフェチか!

さすがにこれは訊けない。
しかしこのままでは、草壁との友情に亀裂が…。


いや、

この爽やか野球少年と、
ゴツくてむさ苦しい風紀委員長補佐の、なにを比べる必要がある?


どっちもほしい。
奴との友情も、自分への良きイメージも。

こうなれば仕方ない。


少々のことは我慢だ。



「あれ?山本武、ゴミ付いてる。」

欲張りな私の、思いついた最高の手段。

「自分で確かめる」。
そうだよ、これなら彼にも何も思われずに、解答欄を埋めることができるじゃないか!
…我ながら天才だと思う。



「えっ、どこ?」

ほらのった!
キョロキョロと自分の服を見回す山本武。
あるはずないよ、架空のゴミだから。


「背中だよ。待って、取ってあげるから。」

そう言って席を立ち、彼の方へ向かう。

何故か微かに、ドキドキしている自分がいた。


「え…っ?あ、あぁ、頼む…、」

山本武もどもる?

私の足音だけが教室に響くから、よけいに二人きりだと実感させられているような気がした。


「えーと、」

言いながら、少しだけ鼻を近付けて匂いを嗅いでみる。

あ…、すげぇ…。こいつは匂いまで爽やかなんだ。
シャンプーみたいな、鼻腔にすぅっと馴染む心地いい香り。


つ、と背中に触れてゴミを取るフリをすれば、微かに彼の肩が震えたのが分かった。


………おや?
(あれ、なんか六道先生の顔が唐突に浮かんだけど)


「山本武?」


耳が赤いような気がするんだが気のせいか?

まだ外はそこまで寒くないが……。


「あ、ゴミとれた?」

口調は普通だ。

「うん、とれた。」

「サンキュー!」


しかし彼から一歩離れて見ると……、

やっぱり赤い気がするんだがなぁ………。


「あ、えと…田中、」

名前を呼ばれた。

「あ?」

「あ、の…、スポーツドリンク、ありがとな!」

「…へ?」

スポーツドリンク?
なんの話だ。


「理科の先生が、渡すように頼まれたって…、」

理科………。
その言葉を聞いて、いやな予感がした。
理科の教師は学校に3人いるが、彼と接触した理科の教師は、私が知るかぎり、1人だ。

…六道先生。


「あ、うん…まぁ。」

ここはもう、うやむやにしておこう。

……、
今度会ったら絶対とっちめてやる。


「あれ飲んでから、なんかプレー良くなったし、」


…ん?


「それで気付いたら、田中のこと考えてて…」


ちょっと、なんだか雲行きが……。


「オレらしくないなって思ったんだけど、オレ…」


わわわっ、ちょっと、
ええ?

だめだめだめ!
そんなの、だって駄目!
私にはもう……、


ガラッ─


「ちとせいる?」


「え?」

「あ………、」


タイミングが良いのか悪いのか。

そこで彼の言葉を遮るように、「ヤツ」が現れた。



──────────……



野球少年の苦手分野。



continue…



シリーズ化することにしました。
たいてい一話完結の、
設定として「惚れ薬の実験台」であること「ヒロインがちょっと特殊」なことを知っていただいていたら読める作品にしていきたいです。

学校だるいです。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!