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学園天国!
やっぱり効かない!








「…どうですか?」


「別に。」

「だな。」


゙惚れ薬゙を、飲んだ。

効果は、全く無い。


服用してからもうすでに、一時間が経とうとしているのに。


「やはり失敗でしょうか……、」

残念そうに先生はため息をつく。
いれてもらったココアは、もう二杯目が無くなろうとしていた。


「僕、そろそろ寝たいんだけど。」

スナネズミの入ったケースを眺めながら、彼は言う。

言っとくけど、スナネズミは草食じゃなく雑食だからな。
間違えても咬み付くなよ。


「そうですね…、お時間をとらせてしまってすみませんでした。」

一応記録を残しておきたいので、お二人はこの部屋でしばらく待っていてください。

先生はよろよろと立ち上がり、ふらふらと部屋を出ていった。


準備室はしぃんと静まり返る。
カサカサ…とスナネズミの走り回る音、サイダーみたいに気泡がぼこぼこ出てくる液体の音以外には、何も聞こえなくなった。


私も周りの実験器具を眺めてみるが、一体なんの液体やら、検討もつかない。

後ろを振り返って雲雀恭弥を見たけれど、彼はやはりスナネズミにご執心。

…そうか。
こいつ、もしかして小動物が好きなのか。
(そういえば校歌斉唱するあの鳥も小動物…、)


「ちとせ、これ見てよ。」

考え事の最中、いきなり彼が後ろを向いた。
何か知らないが、彼のこの嬉々とした笑みにはいつも何か落とし穴があるもんだ。


「なに?」

席を立って、一緒にスナネズミのガラスケースを覗き込む。
中には二匹のスナネズミが、お互いに構うことなく自由気儘に動き回っていた。

「あぁ、可愛いね。」

なんとなく彼の言いたいことが分かったので、わざとそれを逸らすべく、話題をふった。


「違うよ、そうじゃなくて。」

しかし彼には協調性がない。ふられた話題に答えるという能力を持ち合わせていないのだ。
故に私の努力も虚しく、


「この゙惚れ薬゙、これに使ってみようよ。」

手に持った錠剤。
いつの間に先生から拉致ったのか。

「……、」

否定しよう、それは駄目なことなんだぞ。
勝手にそんな薬を使うなんて、駄目なんだぞ。
そうは思ってみるものの、私たちが同じ薬を飲んでいる以上、この先が気になる。

もしかしたら、効いてしまうのかもしれない。
本当に効果がないなんて、言いきれないじゃないか?

思考ではYESとNOが乱闘を繰り返し、葛藤し、結局、


「よ、よし…やろう!」

YESが勝ってしまった。



─────……



「じゃあ…同時に。」

「おう。」


スナネズミをケースの端と端に設置。
何かの妨げにならないように、滑車は外へ出した。


「いくよ、せーの…」

「ほい!」


同時に、二匹のスナネズミに錠剤を与えた。
一匹にハート型、もう一匹にクローバー型を。

二匹は前歯でカリカリカリカリと削り取るように錠剤を食べていく。

もう少し警戒心があってもいいんじゃないか?
食べ物かどうかも怪しい薬なのに。
そう思うと動物がこうして食べているんだから、決して危ない薬ではなかったんだろう。

飲んでから、今さら毒じゃないことが分かった。


「……どう?」

「もう少しで食べ終わる。」

二匹は同時くらいに、その錠剤を完食。

途端、

「あっ、」

「!」

まるで何かの糸で縛られているように、対角線を全力で疾走するスナネズミ。

あぶない、ぶつかるぞ!
そう思った瞬間、お互いのスナネズミは目一杯その小さな手を広げ、
まるで押し倒さんばかりの勢いで、抱き合った。

「…」

「…」

…目が点だった。

いろんな異常に、脳の思考回路が爆発しそう。


「おい、こいつら…」


「うん、雄同士だ。」


「……。」


スナネズミのガラスケースには、元々雄が二匹しかいなかった。
勝手に子供を産ませないようにするためか、雌とは違うケースに入れられていたのだ。


「…これは、えーと…」

どういう実験結果になるのかな…?

動物の本能をねじ曲げる程の劇薬?
それとも同性にしか効かない限定薬?

どちらにしろ、この薬が二匹のスナネズミに異常な行動をとらせたのは、明白だった。


「…量が、多すぎたのかもしれない。」

雲雀恭弥は考え込むように人差し指を唇に当て、まるで研究者のように真剣な目付きで観察する。
白衣も来てるし、ゴーグルも。

こいつ案外、将来医者になったりするんじゃないか、と思った。


「僕らにはたった一錠の薬だけど、これにはアメリカのラージハンバーガーくらいの大きさだったに違いない。」

よくわからない説明。
その例えはあまり感心しない、と私は思った。


「つまり、それなりの量を飲まないと効果は現れないってこと?」

私は頭をフルに回転させて彼の説明を咀嚼する。


「そういうこと。」


理解されたのが嬉しいのか、彼はいつもより少し口角を上げて笑った。

私の前でここまでの笑顔を見せたのなんて、初めてじゃないだろうか。


「そ、そう…、」

いつもの挑発的な笑みじゃない笑顔なんて、おかしくて見ていられなかった。
ガラスケースに触れた指先だけが、熱風でも吹き付けたかのような感覚。

一体どうしたんだろう…。



─────……



「すいません、お待たせしました。」

記録も付けましたので、協力ありがとうございます。

なかば元気になった先生が、部屋に戻ってきた。


「あ…、」

さっきの実験!
報告を…、


「ちとせ、」

彼のところへ向かおうとした私の手首を、なんとも慣れた手つきで掴まれる。

はっとした。
そうだよ、この実験は秘密の…、二人だけの秘密。

先生に言ったら怒られるに決まってるのに。


「では、お二人とも、気を付けて帰りなさいね。」

ご丁寧に校門まで送っていただき、私たちは校門で、それぞれの帰路へ別れたのだった。



──────────……



僕らには効かないよ。



continue…



ヨーグルト?
いいえ、ケフィアです。

ケフィア?
いいえ、マフィアです。




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