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学園天国!
どうなってる!








おかしい、おかしい。

こんなはずじゃなかった。

僕と君の間にあるものは、
こんな、こんなモヤモヤとしたものじゃなかったのに。


はっきりと、

「ライバルだよ」って、

言えなくなってきた──…







─────…






あの人の出ていった病室で、もう邪魔者はいなくなったはずなのに、僕は読みかけていた本をもう一度開く気にはなれなかった。


考えていた。


『ちとせが好きか?』
そんなことを、思っていたつもりはなかった。


いやむしろ今までの僕であったならば、僕は迷わずこう言えるはずだったのに。


「ちとせなんか、キライだよ…」


ニュアンスが変わってきてしまったんだ。

群れる草食動物に対する嫌いじゃなくて、あの人に対するきらいでもなくて…。

どれだけ手を伸ばしても触れられなくて、何故か僕ばかりが焦っているような気がして。


言い様のない焦燥感。
埋まらない虚無感。


それ以前に、途中で僕は、彼女を捕えることを拒んでいた気さえする。

もう一歩、踏み出せば確実に、ちとせをずっと、傍に置いておけるはずなのに。
どうして僕はそうしない?

まさか彼女を捕まえて、
それが、彼女を束縛することになるのを、畏れているのか。
彼女の自由を、そうだ、
彼女が「僕の傍にいる事」を望んでいなかったら。
僕の傍にいたくないと、言われるのが怖い?

僕が?


「…有り得ない、」


そうだ、そんなことは有り得ない。


好敵手として、そして実験台として。

今まで僕らの間にあったはずの完璧が、何故か僕の中でだけ、揺らいでいた。


ただの、僕が倒すべき相手であった彼女に、どうして僕はここまで執着する。


扉に控え目なノックが響いて、「委員長…」とか細い声が聞こえた。
薄く開いたドアの隙間から、見慣れたリーゼントが目に入る。


「入っていいよ」

僕は草壁に声を掛ける。
長い黒いフランスパンが続いたあと、ようやく彫りの深い本体が現れた。








─────…










「手に入れたいのか放っておきたいのか、分からないモノがある、」


これは僕から草壁への問題だ。
いつも物事を客観的に見ている人間ならば、多少の難題には怯まないだろうと。
草壁なら、何か解決になるような糸口を知っているかもしれない。


「は、はぁ…」

「でもその感情が意図的に誰かによって起こされているかもしれないとしたら、君はどうする」


自分なりに今の状況を簡略するとそうだった。

僕の感情の問題は3つ。


ひとつ、怪しい教師に薬を盛られる前から、僕はちとせに興味があったこと。

ふたつ、興味はあるのに、彼女の全てを知ることを拒んでいること。

みっつ、そしてそれのどこまでが、薬の効能であるのかということ。


薬の効能は、対で飲んだ相手と同時に恐怖感を与えるというものだった。
恐怖心からの動悸を、恋愛的動悸と勘違いさせると、奴はそう言っていた。


でも、その仕組みを教えてしまったら、誤解もなにもないじゃないか。

種の分かったマジックほど詰まらないものは無い。

それはあの教師なら、分かり切っていたはずなのに。
それがこんなニアミスを冒すだろうか。

草壁はその彫りの深い顔をさらに深くして、口を開いた。


「…表現が抽象的なので、回答しづらいですが……」

見舞いにと持ってきたフルーツバスケットからリンゴを取り出した草壁が言う。


「私が思うに…、それは、"禁断の果実"ではないかと思うのです」

神は最初の人間たちに「善悪の知識の木の実は食べてはならない」と禁じていました。

つまり、制限の柵を作られていたのです。

しかし柵を作られたことによってその向こうに見える果実はさらに輝き、なおさら果実を手に入れたいと欲するようになる。
最終的にその人間たちは果実に手を出してしまうのですが……。

全知全能の神、
柵を作れば人間がそうなることくらい、分かっていたはずだと私は思います。


つまり、委員長は意図的に誰かに柵を作られ、
さっきの話の流れでいいますと禁断の果実に手を出すなと言われ、
さらにその上で自らを制限しているのではないかと、思うのですが………。

出過ぎた意見、申し訳ありません……。


フランスパンが大きく上下する。
剥き終わったらしいリンゴを差し出され、僕は手を伸ばした。


…神などという存在を認めた覚えはないが、草壁の言った例えは確かに近いかもしれない。

僕は確かにあの教師から薬を貰い、彼女と対で飲み、そして自分に言い聞かせたんだ。


「ちとせを好きになってはいけない」…と。

いや、元から好きになるなんて考えてもいなかった。
ただ、あのムカつく教師をガッカリさせてやろうと、思っただけだった。


「明日には退院できるそうです」

「ん、そう」

「風紀委員全員が委員長の復帰を願っていますから」

「……熱いね」


僕は、僕の帰りを心待ちにしてワラワラと群れる黒の大群を想像して、思わずげんなりした。

しゃくっと小気味良い音と甘い味。
元来甘いものなど好んで食べているわけではないが、果物の甘さは良いものだと思う。

…明日、退院か。
ちとせのせいでまた騒がしい生活が始まるんだろうか。

そう思うと微かに、動悸がした。
違う、僕は「学校に行って草食動物たちに制裁」をするのが楽しみなんだ。
そうだ。
…そう、思うことにした。
(ん、あれ。何かおかしいな今のは。)


そこでふと、さっきまでの言葉がリピートされる。
林檎の甘さがジワリ、と口の中に広がった。

「食べてはならない」と禁じられた果実をその人間が食べたとしたら、

あの薬のせいで『好き』になってはいけないと制限を掛けてきた僕は、
彼女の全てを知りたくないと拒む僕は、


これではまるで、僕が…




君を好き、みたいだ。















また熱が出そうだよ…




continue…





誤字脱字、辛口評価、
お待ちしております。



久々すっきり書けた?
ような気がしなくもないような……。

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あきゅろす。
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