学園天国！
その獣を眠らせろ！
シューティングゲームが好きだった。
飛び交う敵、
上がるスピード。
死角を探して狙い撃ち…
――――――――――……
「待て田中！」
「だれが待つか！」
「とまれ！」
「草壁がとまれ！」
「とまらないとお前……、えーと…、」
「考えてないのかよ！」
全速力で走った。
廊下を走った。
周りは私たちの気迫におされて道をあける。
(某トロル映画猫型バスの「木が避けてる！」って感じで。)
「たのむ止まってくれ！」
「やだね！」
「でないと私が委員長の餌食に…っ！」
「勝手になってろケツ顎！」
私はぐんぐんと彼との距離を離していく。
ウドの大木が、図体でかぐてトロいんだよ！
へへーんだっ！
なんて草壁にあかんべーをしていれば、前方不注意でドスン、誰かにぶつかってしまった。
「う"…っ」
反動で後ろにしりもちをつきそうになったけれど、それは目の前の相手に抱きすくめられたおかげで助かった。
鼻腔に、石鹸の香りが掠めるまでは。
「ワオ…君から僕に抱きついてくるなんて、どういう風の吹き回しだい？」
「…」
「やあ草壁、追い詰めご苦労様。」
「っはぁ…っ、い、委員長……っ」
「……」
ゾクリ…、背中に触れた彼の手から、悪寒が走る。
「それじゃあちとせ、風紀委員入会の手続きをしようか…」
頬に添えられた手に、さぶいぼ。
「うわぁあっ」
思わず私は目の前の目付き最悪な彼に向かって、手を振り下ろしていた。
「私に触るなぁ！」
手刀は彼の首もとに命中。
ふらりと身体が揺れ、その場に倒れる相手。
寝息をすぅすぅと立て始め、幸せそうな寝顔。
はぁはぁっ、と切れた息を正す。
くるりと後ろを振り向き、草壁とその愉快な一味たちにニッコリ笑い掛け。
「Are you ready?」
覚悟はいいかい？
なんてシューティングゲームの始まりみたいな言葉。
ブレザーの内ポケットにあった銃……
くわしくはリボルバーを模した空砲を取り出す。
「ちょ、田中…っ、」
「問・答・無・用！」
まずは草壁にひとつ。
空砲だから物理的攻撃はできないけれど、多少の音は鳴るだろう。
パァン！と乾いた音。
体育祭の空気ピストルほど大きな音はでない。
相手にこの音が聞こえれば充分なのだ。
「う…っ、く……くぅ、」
草壁が倒れる。
撃たれたフリをしているわけでは、ない。彼にそこまでのノリの良さとユーモアは求めていないのだ。
「ぐぅ…ぐぅ、」
また寝息をたてはじめた奴が一人増えた。
「よし、」
私の性能は良好だ。
他の風紀委員にも空砲を構え、パン、パン、パン。
連続して音を鳴らす。
シューティングゲームが好きだった。
逃げ惑う敵、素早い動き。
ボタンを押すだけ、引き金を引くだけで、相手はバッタバッタと倒れていく。
「うっ」
「くっ」
「ぐぁっ」
「すぅ…」
思い思いの叫び声をあげ、寝てしまう。
一分もしない間に、廊下は爆睡する風紀委員で埋め尽くされた。
「やれやれ…」
こけた拍子に切ったのか、草壁の頬に切り傷。
ふう、仕方ないなぁ。
その切り傷にも一発、空砲を向けて鳴らした。
パンッ…、少し出た煙が掻き消えるころには、彼の頬の傷は元通り。
いつもどおり彫りの深い顔が現れた。
「……、」
この銃もだいぶ私に馴染んできたな…、
鎮静化できる不思議な力。
相手の気を鎮め、傷の修復を助ける力…。
私は空砲をブレザーに仕舞いながら、委員たちを避けて廊下を通ろうとして、
「どこいくの？」
…捕まった。
後ろから、手が使えないように掴まれたまま抱きすくめられる。
「ひばっ、起きて…！？」
「詰めが甘いよ。」
…雲雀恭弥。
入学当初から何かと私に付きまとっては、風紀委員会に勧誘してくる変な男。
「触るなばかやろう！」
「ワオ、僕にそんな口を利くのは君くらいだよ。」
「離せ！」
「嫌だと言ったら？」
「永遠の眠りにつかせてやるよ。」
「ワオ、冗談だよ。」
ぱっと手を離す彼。
立場は断然私が有利なはずなのに、なぜか彼の挑発的な笑みに、負けているような気分になる。
そこで、予鈴が鳴った。
「ちっ、」
「早く行きなよ、遅刻したら生徒指導だからね。」
言われた言葉に青ざめて、くるりと踵を返す。
次は英語。
たしか新任の外国人教師が来るとか何とか。
「君は必ず風紀委員会に入れてみせるよ。」
後ろから投げ掛けられた言葉を無視し、教室へと走った。
――――――――――……
スクールヘブン。
ここは彼の支配下なのだ。
continue…
お試し連載。
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