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狐の嫁入り
Ζ








草壁はヘマするわ
運動会の練習やらで外は騒がしいわで、

…いらいらする。



――――――――――……



「…おはよう、雲雀くん。いただきます。」


「待って待って、ちょっと今の会話可笑しいよね。」


「………いただきます。」


「…良い度胸だ。」


朝からイライラしてるっていうのに。


僕はソファーにゆったりとくつろぎながら、目の前に置いた自家製ブレンド緑茶をすする。
お茶請けにはドライフルーツと南瓜の種。


「お腹空きました。昨日みたいなのさせてください」

「全力で拒否。」

何だって朝っぱらからそんな破廉恥なことをしなくちゃならない。

僕だっていつもいつもああいうのしたいとか、そんなの、思ってるわけじゃないんだから。
(いや、今のじゃたまには思ってるみたいだ。)

昨日のは、アレ、…ほら、君を振り回したくて。
それだけだよ。
ほんとに、それだけ。


苺のドライフルーツを口に放り込んで、熱いお茶を流し込む。あ、あつッ。


「ケチ!減るもんじゃないでしょ!」

「いや減る。男としてのプライドが確実に減る。」

ちょっとまた舌がヒリヒリしたけど、それは秘密にしておいて。
またソファーの背もたれにふぅっともたれかかった。


「じゃあ雲雀くんからしてよ!」

それなら男としてのプライドは大丈夫でしょ。

どさっと僕の隣に座る君。


「…そういう問題じゃない。」

お茶請けに伸ばしてきた彼女の手を、パシンと叩き落とす。
ああ、僕の静かなる早朝のティータイムは何処。


「授業に出てきて。」

ここは授業をサボらせるための場所じゃない。


どうにも機嫌の悪い僕は、彼女にきつめに言い放った。ぶぅ、と不服をもらす君の頬が赤い。
…群れるのは嫌いだ。
(とくに今は。)

はやく出てって。

…ツンとそっぽを向いた、けど。


「べつに、そんな、そんなに怒んなくても…、」


…ぎょっとした。

突き放したつもりだったのに、君の声が、いまにも泣きそうだったから。


でもそんな焦りを見せたくなくて、何してるの、なんてまた冷たく言ってしまって。

言うつもりなんて無いのに、君が泣きそうだと思えば思うほど、口が勝手に動いてしまう。


「僕は君のご飯でも何でもないんだけど。」


「そ、そんなこと…、」


「もういいよ。勝手に誰かからもらえばいいでしょ」


「ひばり、くん…、」


「こっちだって、…迷惑、なんだから。」


「……っ、」


彼女から顔を背けているから分からないけど、背中から押しころしたような嗚咽が聞こえる。
ちょっとしゃっくり混じりの。

あ、これは完全に泣かせた…よね。

ああ、泣かせちゃった。


「…っ、ひ…っく、」

ちらっと気付かれないように横を盗み見る。
目元は手の甲で隠しているけど、頬を伝う涙はとめどなく。


「……ぁ…、」

何か言おうとしたんだけど、いい言葉が思い浮かばない。
泣かせておきながら、慰めるなんて。


「ふ…ぇ、…っぅ」

どうしよう。
泣くな、なんて間違ってるし、ごめん、なんて僕は言えない。

そっと、流れる涙に指を伸ばす。
触れたら嫌がるかな、とも思ったけど、そんなことより君の涙を止めたくて。

なんでだか分からないけど、ちょっとだけ心臓の奥の方が痛かった。


「……、」

触れた君の頬は、思った以上にずっと柔らかい。
赤くなって熱い頬を、涙が冷やしていた。

この涙、僕が流させたんだ…。考えると、嬉しいような悲しいような気持ちになった。
(涙の原因が僕で嬉しいなんて、どうかしてる。)


「…田中さん、」


どうしよう、謝るべきなのここは?
ああでも謝るなんて、僕が間違ったことをしたみたいじゃないか…。
エスケープする生徒に指導してただけなのに…。


「わ、私…っ、ごめんね…っ、」

雲雀くんのこと、怒らせちゃった…。

涙はさらに溢れる。
僕の指先はびっしょり濡れてしまってるのに、なぜか不思議と嫌な気分じゃなかった。


「…そんなの、いいよ」

冷えてしまった彼女の頬を温めたくて、手のひらで包み込む。


そこでいきなり、彼女が立ち上がった。
行き場をなくした手は、ゆるゆると下にさがる。


「もう、わたし、ここには来ないから…っ」

言われた言葉に、僕も弾かれたように立ち上がった。


「そんなことっ、」

だめだよ、と言おうとして、疑問符。
なんでだめなんだ。


「絶対、絶対こないから…!」

扉に向かって早足で歩いていって、今にも出ていこうとする。
今彼女を行かせてしまったら、もう二度と、どうやっても会えない気がした。


「まって…っ!」

君の腕を掴む。
あ、廊下に人が。
(こんなに取り乱した僕を見られるなんて。)


でも君を行かせたくない。


ああもう、どうにでもなれ。

ぎゅうっと目を瞑って、引き寄せた君の唇に、自分のを押しつけた。
あ、…あまい。

ちょっとだけカチッと歯が当たったけど、まわりに人もいたけど、
言えないごめんの代わりに、少しだけ長い間キス。


絶対こないだなんて、絶対だめだから。


「…ひ、雲雀くん、人が見て…っ!?」

おろおろとしだした彼女を部屋に引っ張りこんで、唖然とする廊下の生徒たちをひと睨み。


「草壁、始末して。」

立たせていた草壁に命令して、今度はヘマしないでねと睨む。



彼女には、極上のハーブティーをいれてあげるつもりだ。




――――――――――……



この痛みはなんだろう。




continue…

ちょっと聞いてください、ちとせさん!
千種の作る酢豚、パイナップルが入っているんです!
どうなんですか、酢豚にパイナップルだなんて。
しかもパイナップルはもう切ってあるやつじゃなくて、まるごと果実を果物屋さんで買ってくるんです!
おかげで黒曜センターの台所はパイナップルの匂いでいっぱいで……。
どうにも千種からは殺意を感じますね…。
今度はあなたが僕に料理を作ってくれませんか?
……え?クフフ、料理が上手じゃなくても大丈夫ですよ。僕が料理して差し上げま……
「骸さま、ご飯が出来ました。」
た、タイミングよすぎませんか千種。
「大丈夫です。早く来られないと、俺ももう一度包丁を使わなくてはいけなくなるのですが。」
い、いきます。すぐ行きますからそれは待ちなさい。

ではみなさま、またお会いしましょう。

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