狐の嫁入り
Β
彼女の名前を知ったのは、それから数分後のことだった。
バタンと乱暴に閉められたドアの音で我に帰り、絶対に逃がすものかと追い掛けるが姿は無く。
仕方なしに応接室に戻り、頭の中の記憶だけを頼りに彼女の顔から生徒を特定。
(証明写真はたいてい映りが悪いものだけど、彼女はまるきりそのまま映っていた。)
瞳の色は普通だったし、頭の上に耳だってない。勿論ながら金色の毛並みの尻尾も…。
当たり前だ。
人間に、しかも僕の並盛中学校の生徒にそんなものがあるはずない。
あれは…もしかしたら夢?だったのか。
だったら何故、夢の中の彼女は僕にあんなこと?
…どちらにせよ、
彼女が人間であろうとなかろうと、夢であろうとなかろうと、
一度は呼び出す必要がありそうだった。
僕は生徒名簿をそっと閉め、綺麗な夕陽を背に降る雨粒を、眺めていた。
――――――――――……
「どうして呼び出されたのかは…分かるね?」
「……ま、まぁ…、」
次の日の学年登校日、僕は宣言通り彼女を呼び出した。
応接室は常にクーラーで涼しく設定してあるけれど、彼女の額はうっすらと汗ばんでいる。
どうやら、彼女にも昨日のことは自覚があるらしい。
…つまりそれは、あの事件が事実であることを、明確にしているわけで。
罰を与えるべき生徒に黒革のソファーを勧めるのは癪で、取り敢えずは僕のデスクの前に直立不動で立たせておいた。
「昨日のあれは…一体どういう事なの。」
かなりの睨みを効かせてみると、彼女はそれに肩をすくめながら、不貞腐れたような表情を浮かべる。
「それは…、雲雀くんが、あんまり美味しそうだったから……、」
「…おいし、そう…?」
聞き慣れない言葉に首を捻る。美味しそう?僕が?
頭に蛆虫でも涌いてんじゃない?
どうやったらこの少女には僕がハンバーグか何かに見えると言うのだろう!
全く説明になってない。
「君には一体、僕が何に見えてるの。シュークリーム?オムライス?」
馬鹿にしたように婦女子が好んで食べそうなものを並べてみれば、それに唖然とする彼女。(…田中ちとせ、って名前らしいんだけど。)
「お、美味しそうっていうのは…、」
えぇと、そういう意味じゃなかったんだけどなぁ…。
じゃあどういう意味。
うぅんと…、
食べてしまいたくなるっていうか、こう…、香り立つっていうか。
香り立つ?今度は紅茶?
僕は日本語の使い方を知らない彼女に少々焦れったさを感じながら、意思の疎通がはかれない苛立ちを露にした。
昨日は僕の唇を舐め回したくせに、今日はボヤボヤとものをハッキリ言わない子だ。
腹立たしく苛立たしい。
「とりあえず、昨日の事は悪かったですから…、」
勝手に完結させようとしている彼女。
その宥めるような手つきは何?僕にどうどうって、馬扱いしてるの。
……彼女に与えるべき罰を考えていた。
単に咬み殺すだけでは飽き足らない。ぐちゃぐちゃにしたところで、僕に与えた屈辱は消えない。
そう、まずは咬み殺すのはお預けだ。お楽しみは最後に限る。
「って事で、私は帰りますね。そろそろ授業が始まりますから…。」
僕が無言で考え事に浸っていたのをいいことに、どさくさに紛れて部屋から逃げようとする君。
「待ちなよ。」
まだ僕は、肝心なことを聞いてない。
びくっと跳ねる相手の肩。まるで警察に見つかったコソ泥みたいな格好で歩みを止める君。
そう、僕はまだ何一つ、一番重要なことに触れていない。
僕に対しての非礼は、まぁメインと言えばそうだけれども、詳しく言えばそれはデザートのようなもので、決してメインではない。
もう一度デスクの前を指差して、彼女を呼び戻す。
どさくさ作戦が失敗したからか、しょぼんと肩を落としている君。
(ふん。君は昨日のあの行為が、口頭注意だけで済むと思ったの?)
僕は、居心地悪そうに佇む彼女に、こう訊いた。
「…君は、何者だい?」
「へ…、?」
途端に、ヒクッと引きつる彼女の頬。
どうやらやはり、少しは動揺というものをしているらしい。
「ぁ、な、何を……、」
「分かった、質問を変えよう。」
「…」
「君は、人間なのかい?」
「…!!」
推理小説でいえばそれは、謎解きだ。犯人に向かって探偵が「あなたが犯人なんじゃないですか?」と訊くとき。
その言葉は疑問形だけど、響きは確信に満ちている。
「ど、して……、」
心底驚いたような相手の表情に、ゾクッと優越感にも似たものが背中に走る。
自分でも気付かぬうちに、口元には笑みが浮かんでいた。
不覚だ、という悔しげな表情が相手に浮かぶ。
途端、ドアの方に駆け出す彼女。…どうやらひとまず退散しよう、とでも思っているらしい。
「…っ、」
しかし、それを行動に起こすには少し遅すぎた。
…彼女の首元に当たる、僕の武器。
(これは痛いよ。切るだけのナイフと違って、僕のは抉りとるからね。)
「さあ、答えてもらおうか。」
「…っうぅ、」
ドアノブに伸ばした手が引っ込められる。
諦めたのか、肩が脱力して落ちると共に、ハァとため息が聞こえた。
「話す、から…、」
トンファー下ろして…。
か細い声。
僕に楯突いておきながら彼女は、全く自分を守る術を持っていないらしい。
怪しい耳やら尻尾を除けば、どうやら中身は普通の中学生だろう。(いや、肝だけは人並み以上か。)
ゆっくりと鈍器を下ろしてやる。けほっとむせ込んでいたから、また僕は無意識に興奮して首を絞めてしまっていたらしい。
「座って。」
彼女にソファーを勧める。
話はきっと、長くなる。
――――――――――……
ねぇ君は、何者だい?
continue…
と、いうね。
えぇ、何とも中途半端な終わり方!ここの管理人は何をやってるんですか?巡ってきますか?六道輪廻。
なに、宿題ができてない?
馬鹿ですか。宿題は7月中に終わらせる!これ鉄則でしょう!自由研究?ハッ!この情報社会に何を腑抜けたことを!読書感想文だってキーボードを叩けば検索できる時代ですよ。技術家庭科は…、そうですね、君みたいに不器用な人はミサンガでも編んでいたらどうですか?食べ物やフェルトを無駄にするよりマシでしょう?
…おや、どこぞの馬鹿のせいで貴重な後書きタイムがもうエンディングですか。
皆様は、もう宿題を済ませましたか?何なら、僕が直々に貴女の家にお邪魔して手伝う、という方法もありますが?
…嫌ですか、そうですか。
クフン…。
べ、別に泣いてたワケじゃないんだからね…!
ではまた次回、お会いしましょう。
……クフン。
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