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過去拍手や短編
珈琲好きの恋愛観



"コーヒー好きの恋愛観"






「…………ワオ。」


僕はそれこそ、ものすごいショックを受けていた。

なんていうのかな、あの……、雷に打たれた?っていうの。びびびっ、とキタっていうか。


「……すごい」


目の前にあるのは、一杯のコーヒー。ブラック。

まだ煎れたてで、カップの隣にはミルクとホワイトシュガー。


あたりにはコーヒー独特の、芳ばしいとも苦いとも思われるあの香り。


「よかったぁ!」

このコーヒーを煎れた張本人の彼女は、小さくガッツポーズを作る。

…応接室の横に作った隠し部屋、コーヒー専用のコーヒー室。


サイフォンのコポコポいう音と、コーヒーカップの触れ合うカチャカチャという音。安心するような。


「本当に、君が煎れたの」

僕は本当に、このポヤンポヤンした少女がこのコーヒーを煎れたのかと、まだ疑っている。

味自体はすごくしっかりしているのにクドくなくて、香りは上品で高貴な感じ。


…なのに、それをいれた彼女ときたら。

スカートはまさかの膝上、ブラウスは第三ボタンまで全開。

おまけにリボンでロングのツインテール。

…風紀として言葉もない。


……いや、しかし。

「…こんなの、飲んだことないよ」

僕は未だに動揺を隠しきれていない。…彼女が僕の隣のソファーに座る。


「えへへ、そうですか?」


「…うん、おいしい」


…これはカフェイン効果?
頭がぼんやりする気がする。(コーヒーって目が覚めるんじゃなかったっけ。)


僕は甘党ではないのでシュガーは入れない。
コーヒーの香りが落ちてしまうミルクも入れない。

…故に自然と、ブラックコーヒーを飲むようになった訳で。

無類のコーヒー好きが転じて、コーヒー専用のコーヒー室まで、(草壁には秘密で)作ってしまうほどになった。


…彼女も隣で、コーヒーを飲みだす。ミルクたっぷり、ホワイトシュガーもたっぷりと。(ああ勿体ない。)


頭のぼんやりはさらに酷くなる一方で。
なのになんだかまるで、ジェットコースターの落ちる寸前みたいな違和感が、みぞおちあたりにモヤモヤと。


「君、どうしてこんなに上手くコーヒーが煎れられるの?」


僕は先ぼどから感じていた違和感の正体を、彼女に気付かれぬよう探していた。


「……コーヒーの美味しい煎れ方、ですか?」

彼女のツインテールが揺れて、それに従って赤いリボンも揺れた。


……カフェイン効果はどうしたんだろう。
目は冴えるどころか、とろんとしてくる。

僕はさらにぼんやりしてきた頭を無理にしっかりさせて、彼女の言葉を精一杯に聞いていた。


「私はペーパードリップ式なんですよ、豆もオリジナルブレンドでね。」


「…うん」


「家が喫茶店で、小さい頃からよく作ってたんです」


「…そう」



…そうか、分かった。

彼女、何か違うと思ったら……
僕のこと、怖がってないんだ。

なんだ、成る程。
(今までにも何人か、僕を怖がらない人間がいたな)


僕はやっと問題の答えが見つかって、ホッと胸をなでおろした。

彼女はさらに続ける。


「…あ。あとは、雲雀さんに対する愛情じゃないですか?」


……その言葉に、
分かりかけた問題の答えは中断。振り出しに。

「………、」


何故って、
みぞおちあたりのモヤモヤは、未だに取れていないから。
それどころか増すばかり。

納得いかない。

ジェットコースターの落ちる寸前みたい。
妙な緊張感と動悸。


「どうしました?」

コーヒーカップを眺めながら、突然だまりだした僕に振り向く彼女。

…………。


まさか、もしかして。


……問題自体が
間違ってる?


「……なに、これ…」


「はい?」


「ジェットコースターが……、」


「じぇ、ジェットコースターですか?」


心配そうな彼女の顔。

飲みかけのほとんどミルクみたいなコーヒーを置いて、首を傾げてみせる君。

……………。


「……カフェイン。」


「カフェイン?」


「……………。」


そうだ。

カフェイン効果か。

彼女のオリジナルブレンドのせいで、カフェイン効果があやふやになってるんだね。そうだよね。

え、そうだよね?合ってるよね。なんなのもうこの感じ。コーヒーが喉を通らないなんて。


「…雲雀さん、大丈夫ですか?」


「……ん、大丈夫。」


「そうですか。」


君はまたぽやぽや、と笑ってみせて、その度にやっぱりジェットコースターの落ちる寸前みたいな気分になるんだけど、

それは君の、オリジナルブレンドのせいでしょ?


「雲雀さん、なんだか機嫌いいですね」

君はそんなことも知らずに、どこから出したのかケーキまで用意しだす。

でも僕はそれに怒らない。


「うん、…答えが分かったからね。」


「何ですか、それ?」


…君はもう一度、ポワンとした笑顔を見せて、そのきれいな瞳を僕に向けた。


問題と答え。

ジェットコースターと
カフェイン効果。


「…僕は、……」



――――――――……

きみの煎れたコーヒーの、
あやふやなカフェイン効果

―――――――――……

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あきゅろす。
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