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過去拍手や短編
涙は女の武器…
雲雀SS



"涙は女の武器…"




私のどこが好き?
だ、なんて。

ベタな質問だけど。
私にとっては世界の全てに等しい質問なの。


「…雲雀くんは、私のどこが好きなの?」

「今更だね」

「…うんまぁ…、」


私が言葉を濁すと、彼はため息をひとつ吐いて、それでもペンを走らせながら答えた。


「君は泣かないからね」

「……………、」


その言葉に、あぁやっぱりかと悲しい気持ちになるのを、雲雀くんは知らない。

「そうだよね…、」


少々苦笑いぎみに笑って、汗をかいてしまった手を擦り合わせ、もう一度黒のソファーに座り直す。

何度目だろう。
あの時の事を思い出すのは。

…………………――


「お前って、泣かないからイイよな!強いよ!」

「あはは!私、涙腺ないのかもね!」


……なんて。

ばかみたいだ。


「…お前さぁ、可愛くねぇんだよ。別れようって言っても、涙ひとつ溢さねぇしよ!」

「………、あんたなんか、どうでもいいからよ」

「……。あぁ、そうかよ!じゃあ勝手にしてろ!」


…………私に、

泣かない強さが好きだって言ったの、誰よ。

すぐ泣く女よりずっとイイって、言ったのに。


…前に付き合っていた男の子は、弱くてすぐ泣く女の子と付き合い始めた。


……私は、。

泣かないから好きだと言われ、
泣かないから嫌いだと言われる。

どれが真実でどれが嘘かなんて、あぁ本当に。

どうでもいい事なんだ。


――――――――……


私はそれでも、恋をする。

好きな人のため、好きな事のため。


彼が好きだと言ってくれた唯一を、
私は最後まで守っただけ。


…今度の彼は、
いつまで私に、飽きないでいてくれるんだろう。


――――――――……



「ちょっと、」

「………………、」

「ねぇ、聞いてるの?」

「…………………、」

「……ねぇ!」

「ぅわっ、ビックリした!…ご、ごめんなさい」

私は感傷に浸りすぎていたみたいで、彼の呼び掛けに気付かなかった。

彼は不機嫌そうにため息を吐いて、紅茶いれてと顎をしゃくる。
私は…、うん、わかった。と弱々しく笑ってソファーを立った。

それでも頭を回るのは、
暗い過去ばかりで。

…いつも不安でいるしかない。
……だってまた、貴方だって飽きるのでしょう?

泣かなくて可愛げの無い私に………。


―――――――――……



「…別れ、ようか」


……彼の言葉は、やっぱり付き合い始めてさほど経たないうちに発せられた。


「……………。」

あぁまた、また。

また、
飽きられてしまった。


目の奥がじぃんとして熱いのに、
鼻から突き抜ける、込み上げるような気持ちが溢れるのに……、


「…そうだね。」


なのに。


…私は涙が出ない。


出せない、出し方なんて、

とうに忘れてしまった。



「…君はやっぱり、こんなときも泣かないんだね」

彼の言葉が突き刺さって
心臓は悲鳴をあげて、

あぁ血が出そうなほど唇を噛み締めないと、
壊れてしまいそう。


でもだって。

…だって貴方が、
泣かない私を好きだと言ってくれたから。

泣かない強さが、好きだと言ってくれたから。


「泣かないよ」



「……そう、」

いま僕は、
すごく泣きそうだよ。



雲雀くんは深く俯いて、長く垂れた前髪が顔を隠す。

私はそれを、気付かれないようにスカートを握り締めながら、見ていた。


「…だって、私、わたし…、貴方のこと、なんて…」


震える声を無理やり正常に戻して、言葉を続けようと口を開く。



貴方と見た桜が好きでした

貴方と行った公園が好きでした

貴方と買った万年筆が好きでした

貴方と……私。


貴方が、大好きでした

こんな短い間だったのに。

せめて最後まで、貴方の好きな私でいたかった。

泣かない私で、いたかった。


スカートを握り締めた手の甲が濡れた。

制服に黒い染みができた。

頬に溢れた何かが流れた。


「……っ、ごめん…っ」

最後まで、貴方の好きな私でいれなくて。


だって私には…、

貴方との思い出が、
大きすぎる。


「…ほんとに、わたし……貴方なんてどうでも…、っいいから…っ」


俯いて肩を震わせて、
出来るだけ声と涙が出ないように。つとめた。


しかし突然、思い切りの衝撃が身体に感じられて、
暖かくなった。


「……あっ、…」

「……っ」

雲雀くんが、私のことを、抱き締めてくれたから。

雲雀くん雲雀くん雲雀くん………。
やっぱり大好き。
ドキドキするよ。
こんなに、悲しいよ。


肩のブラウス越しに、冷たい感覚。

…もしかして、雲雀くん。


「な、いてるの…?」



「………う、ん。…すごく嬉しいけど、悲しい…」




あぁもしも、

神さま。いるならば。


私、わたし
泣いてもいいんですか。

あなたの涙は誰のものですか。あなたの涙は誰のためですか。

もう一度、

ちゃんと気持ちを伝えたならば、

この人と、ずっと。



――――――――……

泣いてくれて嬉しいよ
泣かせてしまって悲しいよ

ごめんね。

―――――――――……




……続編、作ろうかなぁ。

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あきゅろす。
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