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過去拍手や短編
初めまして


雲雀SS




"初めまして、愛してます"




「好き」


私が彼に出会ったとき、
彼が第一声に発したのは、その言葉だった。


親の都合で不運にも転校が決まってしまい、田舎からこの並盛中学へと転入したのだ。

………、彼に出会ったのはそれから、三日後の朝。

もちろん、彼が並盛町最強の風紀委員長だという事も知らなければ、
気に入らない奴は鈍器で滅多打ちという事も知らなかった。

…ただとにかくの第一印象は、「ひたすらに不気味」という事だけ。

人生の中で人は何度、第一声に好きと言われる事があるだろう。と、考えずにはいられない。


「…すいませんが私、まだ貴方の名前も知りません」

私は、私のことを後ろから抱き締めて離さない男性に言った。

彼の心臓は今にも飛び出しそうなくらいドクドクいっていて、熱いくらいの体温がやけに可笑しかった。


「僕は雲雀恭弥」

彼は簡潔に言う。
初めて彼の情報を知った。

「はぁ…、そうですか。では雲雀さん、すいませんが離していただけますか」

一応、転校してきたばかりの私は、誰に対しても敬語を使う。…無関心。

彼に抱きすくめられている事も、告白された事も。


「…それは出来ないね。
離したら君、どっかに行っちゃうだろう?」


「…そうですね、即座に逃げます」


「じゃあ離せないよ」

彼は困るような事ばかりを言う。
…最初の長い沈黙から、早一時間。彼が離せないというならば、きっとどこまでも離さないに違いない。

「…それでは困ります」


「じゃあ離しても、どこにも行かないでよ」


「それも困ります」


彼について分かった事がもうひとつ。
…ワガママで自己チューだということ。
無理難題すぎる。Sだろうか彼は。


「…愛してる」


「私は愛してません」


「…じゃあ好き?」


「好きでもありません」


体重をかけて抱きついてくる彼が重い。
それでも気を張って、姿勢を正して崩さない。


「…愛してる」


「先ほども聞きました」


「愛してる」


「…聞きましたけど」


「愛してるよ、」


「………あの、」


「君しか見えない。」


「…もう、いいです…」


…何度も何度も告白されているうちに、段々とおかしな気分になってきた。

彼の腕にこもる力だけが、ここを学校だと教えてくれている。

囁かれる度に耳にかかる、彼の吐息がくすぐったい。


「…ねぇ、」


「なん、ですか…」


「…ドキドキしてるよ」


「…当たり前です…。」


俯いた。
勿論、彼は後ろにいるわけだから、私の顔なんて見えるはずないんだけど。

気が抜けそうだった。
緊張して転校してきて、
誰も知らない人ばかり。

プライドばかり馬鹿高い私は、転校生だからとナメられたくなくて、見栄を張り続けていたから。


「……どうして、当たり前なの?」


「…こ、こんな事されて…ドキドキしない人なんて、いません……」

こんなに心だけで会話したのなんて、初めてだ。

…誰かと一緒にいて安心するという気持ちが、分かった気がした。


「ふぅん……。でも他の奴にこうされても、ドキドキはしないと思うよ」


「…どういう事ですか」


「君は僕が好きって事さ」


「…………、」


彼の心臓はまだドクドクいっていて、私の心臓もドクドクいっていた。
やたら熱い体温が、私にもうつったみたいだった。


「君だけ、愛してる」


……もしかしたら、
初対面で結ばれる人たちもいるのかもしれない。

私はまだ、どう答えようか迷っている。


背中越しに伝わってくる彼の体温が、何故か好きだと思った。


――――――――……

一目で君を、好きだと思った。

―――――――――……

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