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過去拍手や短編
雨の日、晴れる心


雲雀SS+10設定


"雨の日、晴れる心"





…どうしたものかと、私は今でも悩んでいる。

部屋でひとり、バリバリと窓ガラスを叩く雨音に急かされながら、カーペットへとまた手を這わせた。

(見つからない……)

どうしよう、なんて涙目になりながら溜め息を吐いた。

原因は、言わずと知れた先ほどの電話だけど。

………

「、今日の夜、9時に学校の前にきて」

「え、なんで…、あ!
ちょっと待って!私むり!用事があるの」

「いいから来て」

「駄目だってば!行けないよ!」

「…じゃあ待ってるから」

ぷつん、

つーつーつー……

……………。


あンの気まぐれ猫め…。

それじゃなくても私、焦ってるのに…
(早く、見つけなくちゃ)

彼からもらった、
ピンクダイヤの婚約指輪。


あの、照れ屋で意地っ張りで寂しがり屋で、
なのに誰より独占欲の強い人。心は誰より弱い人。

その彼が、
意を決して、私を選んでくれたこと、印。

今でも思い出す。
それは丁度、今日みたいなどしゃ降りの雨の日。

憂鬱になりながら家を出た私を、玄関で待っていた彼。とうぜん傘なんて差してなくて、寒そうに肩を震わせながら、滴る学ランの袖を握ってた。

どうしたの、と驚いて尋ねる私に、びちょびちょのまま抱きついてきて、
君が好き、
それだけ言って、無理矢理に指輪を渡して行ったの。

それはもう驚きというより唖然に近い。
ただただ、渡された指輪の意味を考えて、考えて、

次の日にはケロリとその件を忘れていた彼にうっすらとだけ殺意。(笑)

君がほしい。だから、
約束だよ。

言ってやったり、という感じの自信満々な顔。
私がソレを返すはずがないという確信があったらしい。
もちろん、その確信はアタリだったけど。


…、と、ああああっ!
指輪!
ついつい昔の事を思い出しちゃって頭飛んじゃった!

時刻は既に10時過ぎ。

どしゃ降りの、雨の日。


流石にもう待ってはいないだろう、と思うのだけど。

胸騒ぎが納まらない。

彼が待っていたら?
この雨の中、ずっと?

…恐ろしい。
確実に、死ぬ。


ぶるりと肩を震わせて、
背中に走った悪寒を振り払う。

一度だけ、行ってみよう

でないと次の日が危ない。

見つからなかった指輪を置いて、私は赤い傘を差しながら、暗い雨の夜へと歩きだした。


――――――――………

「きっ、恭弥!?」

…やはり彼は、いた。

当然いつも通り、傘も何も差さずに。

短く切り揃った前髪がペタンと額に張りついてしまっていて、やっぱり滴るスーツの袖を握ってた。

慌てて傘に入れてあげる。

「…………、」

無言で向こうを向いた彼が怖い。ごめんね、と小さく謝ってみる。

「…遅かったね」

彼の一言一言が痛い。
でも、
すいません、指輪探してたんです、なんて言えない。

…申し訳ないから。

彼と私との印を無くしてしまったから。


「…別に、怒ってない」

心の中を読まれたかとドキッとした。

君が来てくれたから、僕うれしいよ、
彼はそう言って私の頬に付いた雫を拭う。

「手、だして」

その言葉に、どうしよう指輪の事バレたのかも…と思ったが、素直に謝ろうと震える左手を出した。


……はめられた、指輪。


「…えっ、」

それはあのピンクダイヤではなく、透明に輝くダイヤモンドの指輪。

「…あ、あの…」

「知ってたよ、指輪の事」

無くしちゃったんだろう?

だから、新しい指輪。

「…っ、ごめん…」

「…あと、」

これは、君の忘れ物…


左手に出された、ピンクダイヤの指輪。

「…あっ!」

それは間違いなくあのピンクダイヤの指輪だった。

「…僕との約束を忘れ物にするなんて、いい度胸だよね。」

言葉は怖いのに、見上げた彼の顔は、涙が出そうなくらい優しかった。


「…さて、そろそろ約束を果たしてもらおうかな。」


――――――――……

大好きな君の事、
ちゃんと知ってるよ。

―――――――――……

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