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自由配布跡地











ただただ一日の始まりが、今までにないくらい、いとおしく感じる毎日。








─────…







町外れの停留所。
AM6;32発、隣町行きのバス。
そこにはいつも、静かに読書をしてバスを待つ彼女がいる。この半年、僕は毎朝遠回りをして、わざとそこを通る。彼女は隣町の中学校に通う女子生徒である、と言うこと以外、僕は何も知らない。

…自分でも気付いてる。
どうしてだか僕の一日は、一目彼女に会ってからではないと、始まらないような気がするから。

…初めて彼女を見つけたのは、たまたま修理に出したバイク屋にバイクを取りに行ったとき。ぽつんと一人でバスを待つ彼女に、何故か興味が湧いただけ。

朝は肌寒いけれど僕は厚着しない主義なので、今日もいつもと同じく学ラン。(なんてったって並盛の学ランは全てにおいて優れているからね。)

普段から人通りの少ないそこは、朝の所為もあって、よけいに寂しい。
彼女の白い息だけが、まだ暗がる空間にぽっかりと浮かび上がった。僕はその隣ギリギリを通る。

「…」

どうにかして話し掛けようか、と思ってみて、自分にはそんなこと出来るわけがないと思い直す。

僕は立ち止まったりしない。
立ち止まる、というのは、すごく勇気のいる行為だ。
(……誰?いま僕に勇気がないって思ったの。)
そういうことじゃない。
用事もないのに立ち止まる、ということ。いや用事はある。彼女に話し掛けるという目的が。
でも僕は、彼女とは初対面に近いといってもいい。
知り合いでもないのに話し掛けるなんて、群れる草食動物を咬み殺す時以外にしたことがない。出来ることなら彼女には、僕を怖い存在だと思って欲しくない。
……なんて、今まで散々に最強と恐れられてきた僕が言えることじゃないけど。

僕は彼女を知っていたとしても(名前も知らないけど)、彼女は僕の存在自体知らない可能性が高い。
……いや、確実に知らないだろう。
(、何か苦しい…)

だから僕は今日もいつものように、彼女の横を早足で通り過ぎる。
これでは、気付いてほしいのか気付いて欲しくないのか分からない。

…それでもどうしても、彼女の近くに来ると、早足になってしまう。気付かれないように通り過ぎたい。
だけど、少しでも、僕の存在に気付いてくれたら。

いつもは出ない溜め息に似た白い息が、僕の口から零れた。
今日も昨日と同じように、僕は学校へ向かう。







─────…







おかしいな、と思ったのは、彼女が停留所に来なくなって3日が経ったあとだった。
一日目は風邪かと思った。
二日目はしつこい風邪だな、と風邪に腹が立った。
三日目になるともう、居ても立ってもいれなくて、彼女について何も知らない自分にも腹が立った。


そして、今日。
四日目の朝。
今日も彼女は来ていない。

(もしかして、引っ越…)
いや、無い無い。無い。
…無い、よね。無いはず。たぶん無い。
嫌な考えはとにかく削除。咬み殺す。

僕はいつも通る停留所のすぐ横をゆっくり歩いて、
少し、立ち止まった。
彼女がいないと、用事がなくても立ち止まれる。

いつも通り、この場所を通り過ぎるだけなのに、どうして彼女がいない朝は、こんなにも、……寂しい。

自然と眉根が寄った。
彼女がいつも座っているベンチ。彼女のスペースは空けて隣に座ると、余計に、彼女のいない空間が虚無になって、今までどれだけ僕が彼女に支えられていたかを知る。



誰もいない学校に来て、僕は、どうしようかと思っていた。いくら僕とはいえ、むやみやたらと個人情報を探ることはできない。
はじめは市庁にでも行って彼女について調べようか、とも思ったけれど、そもそも彼女がこの並盛の人間かすらも分からない。

とにかく、僕はただ、待つことしか出来ない。






─────…







今日も停留所は、彼女がいなくて淋しそうだ。
僕は何をするわけでもなくまたベンチに座る。
ヒヤリ、とした冷たさが、プラスチックからズボン越しに伝わる。

ここ数日、彼女のことしか考えていないような気がする。どうして僕は、名前も知らない彼女の心配をしているんだろうか。

もし、また会えたら。
そのときは絶対、逃がさないように。
……でも、いきなり住所を訊くのは無しだよね。
まずは僕のことを、知ってもらいたい。もし、怖い存在だと思われても。少しづつでいい。もう半年も見つめるだけだったんだから、それくらい、なんともない。


「……ぁ、」

そう思ったとき。
後ろから、小さな声が聞こえた。
気のせいかと、一応振り返ってみると。

「…!」

こんなにちゃんと、彼女を見る機会はなかった。

……いや、それより。
この四日間、ずっと会いたくて堪らなかった、彼女が、そこにはいた。

よく分からないけれど急に頬が熱くなって、僕は弾かれるように立ち上がった。


「ぇと…、…いつもここを通って行かれる方、ですよね?」

「……う、ん」

僕のこと、知ってたんだ。
(また…苦しい)

「隣、いいですか?」

初めて聞く彼女の声に舞い上がっていた僕は、とにかくわけも分からずに頷く。

…この場から逃げたい。
もう、何か、充分だった。
彼女がいただけで、声が聞けただけで。

…だけど、さっき、自分で決めたから。次、彼女に会えたら。絶対、逃がさないって。
じゃりっ、と僕の靴裏を砂が滑った。


「…おはよう、」

心臓がひっくり返りそうに痛い。
だけど彼女は、笑って返してくれる。


「おはよう、…雲雀くん」










Golden Weeeek!!
(そういえば、GWで学校休みだった)
(君のことばかり考えすぎて、学校のことなんてすっかり忘れてたよ…)










─────


フリー配布
(2009/5月末まで)
英国紳士につき腹黒

GWのスペルは和製英語らしいです。この時期、朝でも白い息なんて出ねぇよ!という突っ込みは敢えてナシの方向で。


*引き渡し所*




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あきゅろす。
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