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自由配布跡地
Merry XXX'mas

微裏(表現はありませんがヤってます)




サンタって、信じる?

信じるなら唄って、
あの合言葉……。




─────…





「サンタは、いるわよ」


酒臭いしゃっくりを上げながら、私は徳利を掴んだ。


「唐突だね」


向かいで一緒に飲んでいた同僚は、それでもさほど驚いた様子もなくお猪口を手に取る。……なに、入れてもらうつもりなの。

「んー…」

…注いでやるつもりなど、無かったのだが。
入れ物が差し出されれば、満たしてやるのが道理というもので。


「手元、フラついてるよ」

「わぁってるわよっ」


酔っ払っていることを遠回しに言われて、カチンときた。
注いでもらってる立場で何を言うっ。(…と、注がされてる奴が何を言う。)

仕方ないじゃないの、ねえ。あんたも私と同じくらい飲んでるくせに酔わないし、ザルなのよ。……と、おお、危ない溢しかけた。

相手に注ぎ終われば次は自分で、並々と注いで呷って、また注ぐ。……あ、無くなった。


「すいませーん、おかわりくらさーい、っ」

「…まだ飲む気?」

「ばぁか!今日はクリスマスイブだろぉがぁ…」

「……」


うまく開かなくなった瞼を擦る。

飲んだっていいのよ。
高級料亭みたいな処に来てるわけだけど、別にだからって個室なんだから、迷惑とか掛かんないじゃない。雲雀以外。


「だから嫌なんだけど」

「フン…」


別に、適当にタクシーでも放り込んどきゃ適当に帰るわよ。


「……で、さっきの話の続きなんだけどっ」

「さっきの話?」

「サンタ様の話よ!」

「……君のボケはさばき切れないよ」

「……あ?」

「別に。続けて」


目が合うと逸らされた。
なによ、絡み酒だからって付き合えないって言うの。
今日、お互いに背中を預けた相棒に。

…でも何だっていいわ。

今宵は聖夜よ。ファミリー殲滅の罪が無くなるわけではないけれど、同僚と飲みながら仕事を愚痴るくらい許されてもいいと思うのよね。


「そう、サンタ。いるのよサンタは」

「へぇ」

「…信じてないわね?」

「生憎」

「ま、いいわ。じきに嫌でも信じなきゃいけなくなるんだから」

「…楽しみにしておくよ」

私が自信満々に胸を張ると、彼は呆れ混じりのため息を付いてカンパチのたたきに手を伸ばす。……あっ、その一切れは私が狙ってたのに!
ぶすっと膨れながら箸に挟まれたカンパチを睨むと、その可哀想なカンパチは彼の口…には向かわず、私の目前に差し出された。


「……」


なんのつもり、と言うと、彼は返事の代わりにカンパチを私の唇に押し当てる。
……つ、冷たいんだけど。

「ん、むぅ…」


戸惑いつつも口を開けると、カンパチを箸ごと突っ込まれた。


「…本当に酔ってるみたいだね、ちとせ」

「餌付けか」


どうやら酔っていることを確認する作業だったようだ。
この野郎。どこまでもナメた野郎だ。(そんなんだから嵐の守護者にスーツ焦がされるのよ。)


「もう、話を逸らさないで……」

「君がカンパチを睨むからでしょ」

「む、ぅ……」


掴んだ徳利をやんわりと上から押さえられて、これ以上飲むな、と忠告される。
いやよ、この話が終わってからも飲むの。


「でね、サンタは、私たちのとこに来ないだけで、実際に存在するのよ」
「テレビでもよくやってるでしょ、何百歳かの老人がフィンランドやノルウェーにいるって」
「赤い服は飲料会社の陰謀よ、ほんとは白いの」
「バレンタインだって牧師の名前に肖ったお菓子会社の陰謀なのよ」
「他の男にあげるくらいなら自分で食うわって話!」

「そういいながら守護者たちにはあげてたよね」

「それは、アレよ。…社交辞令よ」

「成る程、僕には社交辞令は必要ないって言いたいの」

「だって雲雀、甘いもの嫌いって言ってたじゃない」

「……」

「言いたいのはそうじゃなくて、だから、」
「つまりね、サンタは私たちには来ないだけで、ちゃんといるのよ」
「私はね、だからね、クリスマスは飲むべきだと思うの!」


今度は彼に止められる前に徳利を掴んだ。
とくとくとく…と小気味いい音を立ててお酒が満ちていく。
さ〜、今日は飲むわよ!

私は嫌がる彼のお猪口に無理矢理お酒を注ぎ、溺れるように飲ませて飲んだ。


「じゃあ、ちとせは、サンタさんに何をお願いするの」


さすがに彼も気持ちわるくなってきたらしく、熱くなった頬を冷ますように手の甲を押し当てている。


「あ〜プレゼントねぇ」


そうねぇ、女の欲しいものなんて尽きることないと思うけど。車でしょ服でしょ指輪でしょバッグでしょ?パソコンでしょテレビでしょ一戸建てでしょ。でも今欲しいのはベッドかしらね、ボンゴレから支給されたアレ、ケチってるのかしらね。確かにフカフカだけどスプリングが足りないし、小さいわ。寝相が悪いの、私。だからキングサイズのベッドね。あとは新しいクローゼットも欲しいわ。服が入り切らないし、ウォークインクローゼットがいいわね。
それから〜……


「分かった、君はサンタを破産させる気なんだね」

「そうそう、そして力尽きたところを一思いに…ってオイ!違うわよ!」


人聞き悪いわねっ!
あ、すいませーん!熱燗もういっこー!


「…飲み過ぎてどうなっても知らないからね」


私の飲みっぷりを見た彼はもう止めることを諦めたらしく、またカンパチへと箸を進めた。


「クリスマスイブばんざぁあい〜っ!」

「ちょっと、座ってよ」

「さぁあ〜もっと飲むぞぉおい!」

「…ハァ。僕以外には迷惑かけないんじゃなかったの…?」


私たちはそのあと、店の人に追い出される明け方まで飲み続けた。




χχχ




目が覚めた。

それは、人生でワースト3に入るほどの最悪の目覚めだった。

自分の身体が正常な方向に向いているのかさえ分からないほどの、強烈な目眩。吐き気、頭痛。


「う"ぇ…っぷ、」


込み上げる嘔吐感を飲み込み飲み込み、ぼんやりした頭で考える。


今、何時だ…?


ちょうど頭を上げれば枕元に時計がある。短針はぼんやりと3の辺りを指していた。


「さんじ、か、…ぅぷ」


昨日が24日で、多分今日は25日だ。クリスマス。
確かボスは冬期休暇を全守護者くれてたはずだから、今日は休みだな。


そう頭痛の響く頭で考えて、またベッドに潜る。


潜って、ハッとした。



ココ、どこ!?



そろり、頭が幾分活性してきた状態でシーツから這い出す。

白い壁、白い天井、白いカーテンとその向こうの箱庭とか。

ホッとした。
見慣れた景色、だ。

ボンゴレの本部。
全守護者共通で支給される部屋。部下も上司も、平等に同じ3LDKの同じ構図の部屋を支給されている。

敵襲があったときに敵を混乱させるための、いわば仮住まいだ。ボンゴレにいるときの待機場所のようなもので、さして宿泊したりするためのものでもない。

「ん〜……」

じゃあ、雲雀は私をここまで運んで来たのか。
日本酒に飽きてビールや洋酒に手を出し始めた頃からの記憶が曖昧だ。

なかなか、やはり雲雀という男は面倒見がいいらしい。(たしかにタクシーにでも放り込んでおけと言ったのは私だが、ここまでする男だったとは……。)


ぐぐ、と足を伸ばす。


(…ん……?)


もう少し足を伸ばす。


(あ、れ……?)


まだ足を伸ばす、が、結局足がベッドの端にたどり着くことは無かった。


「………、」


まさか。


まさかまさか?

これ、は。
このベッドの大きさは!


「きゃ──っ!」


キングサイズベッド!!

やったわ!ついに!
サンタさん?サンタさんなのかしら!それとも誰か別の人?
ううん、そんなことどうだっていいのよ、キングサイズのベッドが手に入ったのよ!

私は改めて起き上がり、そのベッドの大きさに酔い痴れた。……感激っ!
頭痛も目眩もぶっ飛んでしまっていた。


「これで私も……、ん?」


なにやら私の横に膨らみが見える。シーツの山かしら、と思うがそれには少し不自然だ…。

「?」

ぎゅ、と押す。


「…ん…ッ!」


明らかに、呻いた。


「……っ!」


まさか。


まさかまさか。
まさか、そんな。

こ、このチラと見える艶々の黒髪、ってぇえ…!!


「きゃ───っ!!」

「っ、頭に響くよ…っ」


何であなた裸なの!?
どうして私も裸なのっ!?

まさか、まさか!
そんなっ!!


愕然とする私をよそに、彼は先刻までの私のように機嫌悪そうな表情で起き上がってきた。
彼の胸元にぽつぽつ、と付いた赤い鬱血の跡は嘘だと思いたい。昨日までは無かったはず(彼の着物の着方は一々艶っぽすぎるのだ)のソレは、信じたくもないが私の胸元にもある。


「お早う。……いや、もうこんにちはの時間だね」

「ちょ、違うわよ!」


突っ込むべきところはそこじゃないわ!
私たちの今の状況でしょ!

何も身につけていない(だから下半身がやけに自由だと思った!)上半身をシーツで隠しながら服を探す。
服は私たちのベッドより数十メートル先のリビングのソファーに掛かっていた。(チッ!なんであんなところに!)


「ああ、そうだね」

「でしょう!?」

「じゃ、取り敢えず左手」

「…左手?」

「出して」


なんで左手だ?と考えながらも左側にいる彼に手を差し出す。
薬指に触れた冷たい感触。

それは、キラリ、と光った。


「………」

「あとは一戸建て買ってからでいいよね。色々と準備もいるし」

「は」

「ああ、勿論ウォークインクローゼットにするよ。それがいいんでしょ?」

「え、いや…あの、」

「なに」

「これは、なに…?」


なんなの、どういうこと?
どうして、彼は。
こんな、こんなの……。


「なにって……」

「……」


私が心底不思議そうな顔をすると、彼は少し拗ねたように唇を尖らせた。


「プロポーズ、なんだけど」

「……っえ!?」

「そんなに驚くこと?」

「や、だって、雲雀…」


そんな素振りひとつも…、言い掛けて、彼が表現ベタであることを思い出す。

何か文句あるの、と雲雀が眉を顰めた。


「何もない、です」


言っていて、可笑しくなってきた。なんであの雲雀が同僚の私に、裸で、しかもほっぺた真っ赤にしてプロポーズなんかしてんのよ。

クスクス、と笑うと、彼はそれに気分を害したようで「何が可笑しいの」と私の頬をつついた。その言動がさらに彼を幼くみせて、もう25にもなる大人が中学生のようにみえた。

実際、そうだった。
気持ちは、まるで好きな人から告白されたような、くすぐったくて照れくさいもの。なんで私は、もうすでに答えを決めているんだろう。


「……ちとせ、」


寒かったのかまた布団に潜り込んだ雲雀に呼ばれ、私も布団に潜る。ちょん、と触れた足先が恥ずかしくてすかさず離れると、まるで待っていましたと言わんばかりの反応で追い掛けてきた。


「……っ」


足を絡めとられてしまった。でもいまさら口に出すのも恥ずかしくて、知らんぷりを決め込む。


クスリ、さっきのお返しのように笑った彼が、
少しいつもより真剣な顔をして、こう言った。



「僕、サンタ信じるよ」



それは暗に、
彼の欲しいものが手に入ったことを示していた…。



















フリー配布(〜2008/12/31)


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