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自由配布跡地
僕に甘える?








そりゃ、さ。

恭弥は優しいし、私のことすごく頼ってくれるし、

甘えてくれるし、風紀の仕事だって信用してくれる。

してくれるんだけど…、



――――――――……




「私だって、甘えたい年頃なのになぁ…」

恭弥のいない応接室で、ツンと唇を尖らせて言う。

ガンガンにかけられたクーラーに身震いを起こしながら、ベストにできたシワを伸ばした。


…お昼、応接室、一人。

風紀の資料整理を任されて、小さくため息。
恭弥は校則違反者を咬み殺しに行ったきりで。

(でも決して私だけには仕事させない。私が頑張ってるときは、恭弥も頑張る。紳士的な彼。)


さぶいぼが立つ。
クーラーのかけすぎだ。
分かっているけど、緩めない。
…だって今クーラーを弱めてしまえば、この炎天下の中群れを咬み殺しに行った恭弥が帰って来てから暑い思いをするだろう。

…それだけは避けたい。

彼、暑さにことごとく弱い人だから。
(つまり機嫌が悪くなる。)

この前はそれで被害に遭った二人組のカップルが病院に担ぎ込まれたとかどうとか。
裁判にならなかったのが幸いである。
(二人組でダメなら私らはどうなの。)


「ふ…ぅ」

資料が一段落ついて、トントンと机で束を揃える。
…よーし、とりあえず目標までは完了…っと。


応接室の扉が急に開いた。


「…あ。」

「ただいま、ちとせ。」

「おかえり恭弥。」


彼がやっと帰ってきた。
学ランの襟元、少しだけ見えるカラーに、赤黒い何かがべっとり付いている。
…大方、草食動物の血なんだろう。

慣れたといえば嘘だが、もうさほど怖くもない。

…そういうとこが、女の子らしくないんだろうな。

もうちょっと可愛く血を怖がれたらなぁ。
大丈夫だった?って、ハンカチでおでこの汗拭いてあげたりとか、きゃあって何もないとこで転んでみたりとか。

守ってあげたい…っていうか甘えさせたくなるようなかわいくて弱い女の子。

…もっと器用に、立ち回れたらいいのに。


なりたいポヤポヤした子になれなくて、甘えたいのに素直になれない。

どことなく雰囲気が頼れる存在なんだって友達が言ってた。
…嬉しいけど、ううん。
そうじゃなくて、本当は、もっともっと恭弥に甘えたいんだ。



「…資料整理おわった?」

恭弥がおでこにうっすら浮かんだ汗を拭く。
(ほんとはそれ、私がやってあげたかったんだけど、タイミングがうまくつかめなくて。)


「うん、今日の分はね」

にこって笑いながら済んだプリントを渡す。
…可愛い女の子なら、「ごめんね、もうちょっとで終わるから!」って言うはずなのになぁ。


「そう、やっぱりちとせは仕事が早いね。」

ありがとう、って彼が清々しげに受け取って、隣の黒革ソファーに座る。
今日は機嫌がよろしい。


「…うん。」

なんだか今日は機嫌いいんだね!なんて調子よく言えないから、曖昧に相槌を打っておく。

こういう女の子らしい仕草は、苦手だ。


「…どうしたの。」

今日はちとせ、なんか元気ないよ。
恭弥が心配そうに顔を下から覗き込む。


って、恭弥の所為だもん。
恭弥が甘えさせてくれないからだもん!
私だって、恭弥にぎゅうしてもらいたいしなでなでしてほしいしちゅうだって…

…なんて虫酸が走る。
口が裂けても言えるものか。そんな事。

…本心では、あるけども。


「なんでもないよ。」

って無理に笑って、仕事して疲れちゃったからちょっと寝るね、ってソファーの腕に頭を乗せた。

…乗せようとした。


肩が外れるかと思うくらいにいきなりぐいっと引っ張られて、
気付けば頭が乗っていた。
…恭弥の膝の上。


「あ、ちょっと…!」

うわ、なんてこと!
なんて、なんて、なんて恥ずかしいことを…!

あわてて起き上がろうとする私の頭を軽く押さえつけて、ポンポンだなんて宥められる。

「いいから、じっとして」

まるで諭すみたいな口調で、四の五の言わせないようだった。

おとなしく、恭弥の膝の上に頭を預ける。
特に筋肉質ってわけでもないのに、脂肪がない…。
うらやましいほど理想的な足だった。


「……、」

「こういうの、したかったんでしょ?」

「!」

彼が、なんでも知ってますよ的な目で私を見下ろす。

恥ずかしいけど話し掛けられたから恭弥の方をちらっと見てみる。

ぱちっと目が合えば恥ずかしくてすぐ逸らしてしまった。
あぁもう、彼は何でもお見通しなの。


「…だって…、」

恭弥が、悪いんだよ…。

拗ねたみたいにまた向こうを向いたけど、ちょっとだけ彼のシワないズボンを掴んでみる。

「今日は甘えん坊だね。」

恭弥がそういったと同時くらいに、ほっぺに甘い感覚を感じた。
それが彼の唇なんだって遅れて理解して、恥ずかしさに身を縮める。



「おやすみ。」

「……ぅ、ん…、」

「ほっぺた赤いよ。」

「……気のせい。」

「じゃあもうキス一回してもいい?」

「だめ!」




―――――――――……



今度は僕が、飽きるくらい抱き締めてあげるよ。




continue…

なんちゃって(笑)
恥ずかしいー(*/ω\*)
フリー配布です!
よろしければどうぞ!

By「英国紳士につき腹黒」
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あきゅろす。
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