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献上品とかお宝とか
◆紗弥さまへ!


"Camouflage"






…学校までの通学路。


「あっ!雲雀さぁん!」


隣の友人が大きな声を出して、私は目を泳がせた。

前方に捉えたのは、友人が呼んだ通り、幼なじみの雲雀恭弥に違いない。

彼のトレードマークである学ランの黒が、この真新しい住宅街とは違う世界にいることを示している。


「おはようございますっ」

私たちを見つけて近づいてきた彼に、心臓が高鳴る。頬が火照る。
しかし私とは反対に、隣の友人は元気よく雲雀に挨拶をするのだ。

「やあ、おはよう」

彼が友人に微笑んで挨拶するのを見て、少しだけ悪い感情が心に生まれてしまった。

ちとせもおはよう。
彼が私にそう言うけれど、私は上気した頬を見られないようにするのに必死。

俯きながらコクンと頷く。

それが、精一杯の挨拶だった。



「雲雀さんって、どんな映画を見るんですか?」

彼女は躊躇うこともなく、彼と楽しそうに会話をする。

「…そうだな、僕はアジア映画が好きだよ」

私の隣に友人、友人の隣に雲雀。
私は特に会話に入るでもなく、ぼんやりと空や行く先を見ている。

……、私もアジア映画が好きなの!、その一言が言えない。恥ずかしくて、彼に軽くあしらわれてしまうのが怖くて。

「本当?私も好きです!
金城武とかいいですよね」

「…そうだね、僕もその監督は好きだよ」


彼と友人の話す声に、
ズキンズキン、痛くて悲鳴をあげる心。
どうしても普通に話せなくて、まともに顔も見れなくて。


彼がそばにいるだけで、
私の胸はこんなにくすぐったくて甘いのに。

その笑顔も
その声も、
小さな仕草さえ…
私に向けられたものじゃないという事実がこんなにも


くるしい。



――――――――……



「私、ダメかもしんない」

今朝の事、いままでの事を考えるとどうにも駄目だ。

下校中に出会った幼なじみ2号の沢田綱吉を無理矢理、自宅へ強制連行。

母へただいまを言う事すら時間が勿体なくて、ツナを自室まで引き摺り上げた。


……で、始まった訳なのである。恋愛座談会。
(別名;愚痴&相談会)


「そう言われれば確かに、雲雀さんってちとせより、ちとせの友達とよく話してるね」

…性質上、彼は嘘が吐けない。故に素直で、故に残酷なのだ。

「…やっぱダメ…」

このままじゃ、私の友人と雲雀が……。

…考えただけで、怖くなった。

彼が遠くへ行ってしまう。
手の届かない高い場所。
眩しすぎて見えないほど。

なのに、
私にそれを止める力は無い。


「…でもさ、おかしな話だよね、それ」

「…なにが?」

「ちとせも好きなんだろ?その金城武って」

「…まぁ」

「ちとせの友達は洋画が好きだって言ってたのになんでだろ」


……言われると、そうなのだが。
でももし友人が私の趣味を、偽って自分の趣味だとしていたなら……、
偽ってでも、雲雀と趣味を合わせたかったという事で………。
つまりは彼が好き、という事で、。


「…私、だめだよ、やっぱり。……雲雀の事、」


…………。

彼を嫌いになるくらいなら

いっそ忘れてしまいたい。

そのまま夜になって、
ずっと明けなければいい。


気付いたら目で追っていて、気付いたら好きだった。

街を散歩するときはいつもめかし込んで、彼に会っても大丈夫なように。

テレビを見てても
空を眺めても、
音楽を聞いている時さえ、

どこかで彼を捜してた。


大好きなあの人。


時折、自室の窓から学校を眺めて、

この景色の中に彼もいるんだと泣きそうになった。


大好きなあの人。


もう、届かない?

諦めるしか、道はない?



「それは、ダメだよ!」

ツナが急に張り上げた大きな声に、うっかり湯呑みを倒すところだった。

…現実に引き戻されて、
まだ感覚がボンヤリした頭で2号の言葉を聞く。


「そんな所で、止まっちゃダメだ!ちとせは誰より、本当は頑張ってる!」

ツナは興奮のあまり立ち上がる。テーブルが揺れて、湯呑みの中身に波が立つ。


ちとせは頑張ってる。誰より誰より。
…頑張り屋の君に、まだこんな事を言うのは間違ってると思うけど…。

でも諦めてほしくないよ!

俺がチャンスは作るから、ちとせはその強い気持ちを雲雀さんに伝えなきゃだめだ!


―――――――――……


なんて、半ば押され気味にここへ来た。

どうにかツナの申し出を断ろうとしたけど、
伝えてこい!といつもにもない迫力で言われたので、ならばやってやろうと今日に至る。



校庭の隅の、校舎側にある桜の木の下。

日曜日で誰もいなくて、
その所為か、もうすぐ春なのに息は白くなった。

天気予報では雨だったのに
見上げれば透き通る青。
見下ろせばジンクスで履いた黒のローファー。
…こんなジンクスなんて、これっぽっち役に立たないのは、誰より私が知ってる事なのに。



「…ちとせ?」


彼がきた。
ぽっかり空いた胸の隙間に淋しくなり、彼の声が聞こえてもすぐには反応できなかった。


「…赤ん坊は?」

尋ねる彼の声に、
ああ、私の事なんて本当に眼中に入ってないんだと、改めて悲しくなった。
(どうやら2号は、赤ん坊をダシにしたようだ。)


「…あ、のさ…」

声が震える。
いままで普通の会話すら殆んどしたことがないのに、
いきなり愛の告白だもの。

さっさと済ませて帰りたかった。


心臓は今までになく跳ね回り、息切れを起こしそうだった。


「…なに」

彼の不機嫌そうな雰囲気によけい、胸が締め付けられる。


たった一言。

嗚呼
ごめんなさい神さま。
ごめんなさい。

罪を、犯します。



「……好きでした」



それだけ言って、
彼の反応が怖くて、
その場から逃げ出した。


振り返る必要はない。
彼は決して、追い掛けてきたりはしないから。


涙が溢れて仕方なくて、

空を見上げた。

先ほどと変わらない、

透き通る青。


私の心みたいに、
 からっぽだった。



…神サマは気付いてる。

私が罪を犯したとき、

すこしでもその罪を軽くしようとして、


今までの彼への気持ちを

過去のものにした。

偽った。嘘だった。


涙は止まらない。

…泣けない自分の為に空が泣くのなら、
今の私はその逆だった。

泣けない空のために、
私が泣いた。


空は透き通る青だった。


――――――――………



目が赤い。
…腫れてしまった。

それでも私は学校へ行く。それこそ、昨日のは冗談だよ!なんて言えたらいいのに。


友人は相変わらず友人。
朝は相変わらず朝。

ただ彼がいなかった。
いつもの曲がり角を曲がっても雲雀はいなくて、友人が残念そうに愚痴を溢す。

ただそれに頷いて、目の赤みに気付かない友人に感謝する。



―――――……


ピンポンパンポーン、

「田中ちとせ、至急、応接室へ来い」

ブチン、

愛想も何もない、ただちょっと怒ったみたいな放送。
図太い低い声。
たぶんそれは、風紀副委員長・草壁のものであると推測される。


…クラス中から集まった妙な視線が気持ち悪くて、足早に応接室へ向かった。


不安と恐怖と焦燥が胸に渦巻いて消えないのに、

足はスキップをしそうな程軽やかに、彼のもとへと向かっていた。


――――――……


「……何でここに来たか、分かる?」

部屋に着くなり雲雀は、
私をソファーには座らせず、床に寝かしつけた。

……もちろん、私の上には私を睨む雲雀が乗っかっていて、ぎりりと手首を押さえつけている。


正直、痛い。

だか今はそれより彼の質問に答えなければ、金輪際、痛いと思うことすら出来なくなりそうだ。

「……き、のうは…」

思い出すとまた涙が浮かぶ。
透き通る青が甦る。


ごめんなさい、嘘です。
と言いたかった唇に、ほんのり温もりを感じた。

彼の匂いが、こんなに近くにある。

涙は、重力に従って耳へと垂れて冷やした。



「…自分勝手でしょ」

「………、、」

先ほどの温もりが、まさか彼の唇なんじゃないかと頭が理解したとき、ようやく事の重大さが分かった。


「…あ、え、…ええ!?」

一気に頬に血が昇る。
ぽろぽろ涙が止まらない。


「僕が、何のために毎朝、あんな所でずっと待ってたと思ってるの」


……彼は胸の痛みに耐えるように顔を歪めて、唇を噛んだ。
そんな初めての彼の表情に、驚いた。

それを見られたくないのか、彼は私に、勢いのまま口付けてくる。


まるで食べられてしまうかと思った。
飲み込まれてしまうかと思った。

私の魂も心臓も、
心も、気持ちも涙も。


彼の舌が私の舌に触れて、無理矢理絡めとってしまう。
こんなに近くに彼が。
私、彼に認めてもらえたんだろうか。
眼中に入ってる?

あなたの瞳に、
私は映っているの?


「んっ、ふぁッ…は、ぁ」

「ん、んんっ」


流れる涙が、
息の出来ない苦しさからか
嬉しさからか分からない。

私のものか、
彼のものかも分からない。


ただ好きです。

それだけです。


……ただ、彼が、



「好きです…、」



長い長いキスが終わって、唇が離れて、向かい合ったとき、言った。一言。



彼は笑ってこう答えた。



「やっと現在形だね、」



無駄な言葉はいらない。

君の友人が、君の趣味を偽っていたのも知っていた。

だから本当は、一番きみと話が合うのも知っていた。

ただ君が、
僕のことを見るたび逸らす視線が怖かった。

嫌われてる、
それが一番怖かった。

だけど君といたくて、
君の友人と話をした。

沢田綱吉が君に手を引かれているのをみて苦しくなった。

明かりの付いた君の部屋にある二つの影が苦しかった。

……次の日はその沢田綱吉に呼ばれて、桜の木の下。

待っていたのが君で、
嬉しかった。
恥ずかしかった、
怖かった。

だから赤ん坊はと尋ねた。


……君の言葉が、

昔の事だけど、と言っていた。

どうして今さら。

どうして過去の事なの?

まさか沢田綱吉とうまくいったから?


考えれば考えるだけ
そうとしか思えなかった。


ただ君の腫れた目をみて

その涙が僕のものならいいと思った。


好きすぎて怖くて、

壊れてしまう前に、
君に会いたかった。

きっと声が震えるだろうから、草壁に行かせた。


昨日は、
言い掛けた唇が、
その先が怖くて、
口付けた。

どうかお願い。

誰より僕の傍にいて。



好きです。


それだけです。



ただ彼女が、


「…好きだよ、」



――――――――……



今日もまた、
 透き通る青の日。




continue…

キリ番3000紗弥さまリクエストの「雲雀甘夢微裏」でした!
……微裏ではなかったですよね…orz

長かった…永かった。
今までに誇る最長記録でございます。
達成感!!゚+。(*′∇`)。+

リクエストいただきありがとうございました!

何かありましたらこちらまで……(´`)



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あきゅろす。
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