献上品とかお宝とか ◆レイさまへ! キリ番88888雲雀切甘夢+微裏 無口なんじゃない。 話すのが面倒くさい質なんだ。 …私はいつもそう頭で繰り返して、彼の無愛想ぶりをやり過ごそうとする。 朝の挨拶以外、彼が私に話し掛けてくれることなど、滅多にないんだから。 だからそうでも思っていないと、自分が本当に彼の彼女なのかすら、忘れてしまいそうで──…… 「ひ、雲雀、くん!」 慌てて話し掛けようとしたものだから、つい裏返った声が出た。落ち着け、落ち着け私。 彼はそんな私を不思議そうに見つめた後、遅ればせに「なに?」と応えた。 いつものことながら、彼のその獰猛な(よく言えば切れ長できれいな)瞳に見つめられると、謝りたくなる。 「…ごめんなさい」 「何が」 「や、用もないのに名前呼んじゃって…」 「…」 私を鬱陶しそうに眺めたあと、しかし彼は何も言わずにまた資料整理に戻った。 はぁあ…私の意気地なし。 馬鹿馬鹿。今日こそ、雲雀くんから「好き」って言ってもらおうって決めたのに。(付き合ったら少しは愛情表現してくれるかなって思ったのに。) まぁ…彼が何も言わずに傍に置いてくれていること自体が、私への好意なんだろうけどさ。 手繋いだらもっと触れたくて、今度はキスしたくなって…みたいに、ハードルをひとつ越すごとにまた新しく高いハードルを越えたいと思うのは私だけなのだろうか。雲雀くんは、私と付き合って傍に居さえすれば、それで満足なのだろうか……。 考えると、あ、ネガティブシンキング。憂鬱になる。 そんな独りどんよりを壊すみたいに、少し焦って部屋の扉が開かれた。 反射的にドアの方を見る。 「あっ、ヒバリさん!頼まれていた資料、探してきました!」 …あ、女の子。 見たことない子、だ。 し、しかも、なんだ? このいつにもない親密そうな雰囲気は?あの雲雀さんに、恐れることなく対応している! 「ん、早いね。ご苦労様」 しかも誉められてるっ! (ああ羨ましい…。) 女の子はニコッと笑ってファイルを彼に手渡すと、またいつでも呼んでくださいね、と部屋を出ていった。 部屋は、また静寂を取り戻す。 私もあんな子みたいに華やかな雰囲気でフレンドリーに彼に接してみたい。 それで「ちとせは仕事が早いね」って誉められてみたいなぁ。 ……って、私、よく考えたら、雲雀さんから仕事なんて頼まれたことなくない? 急にうわあっと自己嫌悪の波が押し寄せてきた。 私ってそんなに頼りないだろうか。ダメダメかな。だって雲雀さんが困ってるような様子なんて……、も、もしかして私が気付けてないだけ?やだやだ、それってもう彼女失格……っ! ちらり、と彼を見ると彼もこちらを見ていたらしく、顔を背けるところだけがたまたま見えた。 そんな、そんな嫌そうに避けなくたってさぁ? 「…ねぇ、雲雀くん」 「なに」 「わ、私のこと、さ、……好き?」 「……」 ちょっとヤケになって聞いてみた。 雲雀くんはこっちを見たまま固まってしまっている。 もしこれで「別に」なんて言われたら怖いな、なんて思いながら。きっとこれって、後ろにオバケがいるかも知れないのに、逃げるより後ろを振り返っちゃうのと似てるんだろうな。 「………うん、」 「え?」 思わず聞き返してしまいそうになるほど小さく、特に彼の低音では余計に聞こえにくい返事が、微かにした。 でも彼自身は全然照れてる素振りもなくって、むしろ私だけが、なんでかな、目の辺りが熱くって顔が火照ってるみたい。 直接「好き」って言ってもらったわけでもないのに。 「ど、どこ?どの辺が好き?」 つられるように調子に乗って聞いてみる。 「どこでもいいでしょ」 「そ、そりゃそうなんだけど…っ」 「好きになるのに理由なんてない、って君が言ったんだよ」 「それも、そうなんだけど……」 好きになるのに理由はいらないけど、でもそうなると、嫌いになるのにも理由がつけられなくなるから。 なにか好きの理由がないと不安だって言ったら、我儘になるのかな。 「でも、私、だから、ちょっと不安…っていうか…」 意識したつもりもなく熱い涙が頬を伝った。さっき火照ってたせいだ。やばい、と思って咄嗟に下を向く。 これには流石にただ事じゃないと察した彼が、机を離れて私の傍に来る。いつもなら嬉しいけど、今回は泣いてることを知られそうで怖い。 とまれとまれ、涙。 「手、」 顔を覆っていた手を急に掴まれて、びくりと肩が震える。反射的に顔を上げてしまった。 ……あ、ちょっと、怒ってる…(気がする)。 「目とか」 「め?」 いきなり目って何? と思った瞬間、目の下にキスが落とされる。(やばい、また心臓が、跳ねる。) 「涙も、髪も」 なんだなんだと思っている間にも、おでこやらほっぺやらにキスの雨。 涙は一気に引いてしまったけれど、心臓が全然大人しくなりそうにない。今度は私が固まる番だった。 「…唇もね」 「!」 わ、わわ、それ、それは、このパターンでそれは…! 目を閉じる間もなく、唇が触れ合う。うわぁ。 「僕の好きなとこ。…全部教えてあげる」 至近距離で目と鼻の先で、好きな人がそんなことを言うものだから、私はもう頭がパンクしてしまって、口をパクパクさせた。 「あ、え、ぅ…」 しかも顔が真面目だ。 真顔で「好きなとこ」にキスされるのは、心臓にとても悪い。なぜって、すこしでも表情を崩してくれたならまだ、からかわれてるのかも、って思えるけど…。 そんな真面目に言われたら、どうしよう、ドキドキしちゃって……。 「んむっ…」 えっ、また唇に…? しかしその疑問も束の間に、後頭部に手が回される。 あ、あれ…。 「!、ふ、っん…」 無理やり歯を割って入ってきたのは、なんと、ああ、雲雀さんの…っ! 「…舌、も好き」 ぷぁっと口は解放されたものの、開いた口は塞がらない。何故だか瞼が重くってトロンとしてしまって、しかも彼の言葉があまりに官能的なものだから、不謹慎にもキュンとしてしまう。 ガクン、と視界が揺れた。 「わ…っぁ、」 そこで初めて、自分が座り込んでしまったことに気付く。 気が抜けたのか力が抜けたのか、腰が抜けたのか。 とにかくカーペットの上にへたりこんだ私は、唖然として上にいる彼を見上げた。 「まだまだあるよ」 「へぁ…?」 きっと冷静なときの私なら彼が何を言っているのか分かっただろう。 でもきっと、今の私は冷静じゃない。彼は一体何が「まだまだある」と言っているのか。 私の目線に合わせてしゃがみ込んでくれた彼に不思議そうな顔を向けると、また唇にキス。 キスなんて、滅多なことではしないのに。(まだ数えるほどしか…たしか3回くらいだったような。)そう考えると今日は、一気にカウントが回った気がする。 「名前、呼んで」 「ぁ、雲雀、さん…」 「ん、…もっと」 「雲雀さん、雲雀さん…」 「ずっと、呼んで…」 ぎゅ、と抱き締められた腕に、こればっかりはもう魔法としか言い様がなくて、愛しさが込み上げてくる。 名前って不思議だ。 朝の、名前を呼んだことだけで謝っていた自分が記憶に遠い。もしかしたら雲雀さんは、もっと名前を呼んで欲しかったのかも。 「ちとせの全部、」 「ん?」 「好きだよ」 「わわ…っ」 耳元でそれは反則っ! だから仕返しに、私だって言ってやるんだから。 「大好き、…恭弥」 背中に回した手、ずっと離さないでね。 One more!! (あ、あの、)(何?)(さっきの女の子って…)(ああ、草壁の妹?)(えぇえ草壁さんって妹いたんですか…!)(副委員長が風邪で休んだからね) ───── キリ番88888雲雀切甘夢+微裏…でした! ああもうスランプ感がプンプンと……。 申し訳ないです。リクエストしてくださってありがとうございました! [*前へ][次へ#] [戻る] |