献上品とかお宝とか ◆ももねこさまへ! 77777キリ番雲雀裏夢 「ああっ、どうしよう!」 隣で薬の確認をしていた先輩が突然叫んだので、私はびっくりして肩を跳ねさせた。 「どうしたんですか」 「どうしたもこうしたも無いわよ!今日が何の日か知ってる?」 「え、あ…、ホワイトデー…ですか、」 「そう!それよ!ああどうしよう!六道先生は誰にお返しするのかしら…っ」 「は、はぁ…」 六道先生かぁ。 まぁイケメン?って言ったらイケメンの部類に入るんだろうけど。 私は隣の眼科の不敵な医者を思い出して、眉を寄せた。噂によると彼、男も女も馬も電柱もイケちゃう位の性倒錯者らしくて。(雲雀先生も一度狙われかけたとかそうでないとか……) 隣の芝生は青い…っていうかショッキングピンクなかんじだよなぁ。 「ちょっと、手、止まってるわよ?」 「あ、は、はい!」 「それよりアンタ、バレンタインに誰かにあげなかったの?」 「え?あ、ええ、まあ…」 正確には「あげた」のではなく「奪われた」だ。展開が読めていたので予防線として持っていった手作りチョコレート。買った物だと色々厄介。念には念を入れて…彼には入れすぎな位に念を詰め込むべきだ。 「ちとせ、何か忘れてない?」「………」「本体を食べちゃってもイイんだよ?」「ビターチョコレートにしました」「よろしい」……って、さ! ね?ホラね?やっぱりくるでしょ?ほらねー。 催促…する割に、自分からは決して"チョコレート"と言わないその根性。食べられるのも甘いのもチョコレートだけで充分! 「アンタねぇ、若いんだから、もっと楽しまなくてどうするよ?」 「あ、はは……」 「笑ってるとすぐ婚期逃しちゃうんだから!」 「ですよねぇ…」 って、理系女に結婚もクソもないよなあ。 なんて柄にもなく自分のウエディング姿を想像してみたけど、純白のドレスはいつの間にか白衣のナース服に変わってしまって、ベールはナース帽に変わっていた。 隣にいたタキシードの新郎さんも、白衣だった。 …寒気がしたのは、きっと気のせい。 ─────… 期待?いや、予感だよね。悪いほうの。 彼のことは分かってる。 ホワイトデー?何ソレ、美味しいの?だ。 私はいつもよりテキパキ仕事をこなす彼の後ろ姿を眺めた。 「ちとせ、なにボーっとしてるの」 暇なんだったらコンビニでチョコレート買ってきて。 雲雀先生はパタパタ、とスリッパで小走りになる。 今日はすごく忙しいんだ。 花粉症やら、風邪やら、季節の変わり目やらで、免疫力の低い子供たちは一発アウト。とくに今日は男の子が多くて、待合室は怪獣の叫び声や飛行機の飛び交う音がごちゃごちゃに入り交じってる。 「こんなときにチョコレートですか…」 いえ、これも仕事ですからね。パシリでも時給1800円は有難いですよ。 私は自分の財布を手に取っ…「これで買えるだけ買ってきて」……ではなく、雲雀先生から一万円札を受け取って、裏口から外へ出た。 外は最近、日差しが暖かい。 「……」 「おや…、」 こんにちは、隣の白衣の天使さん。 …素直に、うへぇっ、と思った。 お隣の眼科の先生だ。 どうやら休憩中らしい、彼の手には、私の今から行こうとするコンビニのレジ袋が握られていた。 「貴女も何かお買い物ですか?」 「ええ…、チョコレートを買いにそこまで」 耳たぶを触った。なんだろうこの人と話していると、何故か威圧されているような気がしてしまう。 「そうですか」 僕もチョコレート買いに行ってました。と、六道先生は笑った。 怪しくて仕方ないなぁと思うのはやっぱり私だけなんだろうか?隣の庭のショッキングピンクな芝生。 「女性を買い物に行かせるなんて、紳士として許せません」とか六道先生なら真顔で言いそうだ。 「今日はホワイトデーですしね」 よかったらこれ、どうぞ。 六道先生はポケットからキャンディを取り出して、私に手渡した。小さくて普通のキャンディ。苺味。 「え、でも、あの…」 私、バレンタインとか何も……。 言い淀んでいると言いたいことが分かったのか、六道先生がクハハと破顔する。 「もちろんです。お返しは3倍返しにしなくてはいけませんから」 休憩の合間に食べてくださいということですよ。 では、診察時間が迫っていますので。 …優雅に会釈した彼は、堂々と正面玄関から病院内に戻っていった。なるほど、これは人気があるはずだ。 あの歳であそこまで優雅な立ち居振る舞いが出来る男性は少ないだろう。しかも美形ときたら特に。 …いや、変態レッテルはこの際抜きで。 手のひらで少し温くなってしまったキャンディを口に放りこむ。 彼の消えていった病院の扉をぼうっと眺めていて、気付いた。 「………あっ、チョコレート!」 ─────… 「随分遅かったね」 「も、申し訳ありません…」 そう、気付けばもう、お昼の診察時間を過ぎていた。 看護師さんたちは各々で昼食をとりに行っている。 大きなチョコレートバックを二つも下げてヘトヘトになっている私は、余程マヌケに見えた。 「…折角まじめに仕事してるのに」 「……はい?」 いや、いやいや、仕事はわざわざ真面目にするもんじゃないですよ。真面目にするから仕事なんです。 と喉まで出かかったけれど、言わなかった。 何故かは知らないが、私のために仕事を熱心に取り組んでくれたようだったからだ。 「ちとせ、こっちきて」 「はい」 だから…、ちょっとだけ、キスだけ、なら……。 椅子に座った先生のために少しだけ腰を曲げる。いつもと違う見下ろすアングルに、少しドキッとした。 「…ん、」 今回は後頭部も押さえられてないから、掠めるような軽いキスで唇が離せる。 …それでもやっぱり雲雀先生の唇って、病み付きになっちゃいそうな感触。ずっともっと触れておきたいと思うのは、単なる私の欲望なんだろうか。 彼の物足りなそうな表情に弱い。それってなんとなく、猫に鰹節をあげるのに似てる。欲しそうにするからあげたくなるのに、一瞬だけ焦らしちゃう感じ。 ほら、鰹節、もっと欲しがって見せてよ、って。 「ちとせ…」 「…仕事、しましょう」 「まだ休憩時間だよ」 「…っでも、」 「大丈夫だから」 「………」 早くも10秒で焦らしは終わり。 一体何が、大丈夫だと言うのだ。あと20分ほどしか、休憩時間なんてないのに。 唇を離しても至近距離で見つめ合ってしまっていると、それはキスしてるより私たちの雰囲気を煽ってくる。先生はそれも分かっていて、わざと私の手を離さないんだ。 「今からなんて…、無理、です…」 「大丈夫、」 君が協力してくれるならね。 先生の言葉の語尾が消え入りそうに小さくなったのは、きっと、しゃべる必要がなくなったからだ。 先生の吐息が唇を擽る。 「ん…っん…」 「…ッ、……」 「先生…、?」 でもそれはすぐに離された。まだほんの少ししか触れていないというのに。先生の舌に触れたかどうかのような一瞬で、ぱっと口が解放されたのだ。 「どう、したんですか」 「……苺の味がする」 そこでハッとした。 やばいー、さっき食べた苺味のキャンディだー…。 先生の眉間に寄った皺は、久しぶりに見た。 「勤務中にお菓子?」 「あ、いや、これは…」 チョコレート買いに行かせたの誰だ。デスクの上のお菓子の山に視線を流して、彼が諦めてくれるのを待つ。…いや、期待した。 諦めてくれないかなぁと願っただけだ。 腕を引かれて彼の首裏に回されたので、それが叶わなかったことを悟る。 「言いなよ…、君は勤務中に何をしてたの?」 先生にナニをされそうになってます。……というのは冗談として。 「チョコレートを買いに行ったときに、貰って…」 「誰に?」 「………六、道先生に…」 「ふうん…」 ああ大変だ。 先生の声のトーンが「怒ってます」って言ってる。 ガサガサ、と私が買ってきたばかりのレジ袋を漁ったかと思うと、ミルクチョコレートを取り出した。 「……不愉快だね」 「ご、ごめんなさい、あの…これからは…」 「゙これから゙は無いよ」 「っ…」 彼が口にチョコレートを含む。食べてる?のかと思ったけれど、それはすぐに違うと分かった。 唇が重なると、流れ込んできたのが甘いものだったから。 「っ…は…、ッん」 「消してあげる」 「えっ…、ぁ…んっ、せんせ…っ」 何て言ったの? 聞きなおそうと思ったけど、先生の舌の動きに気を取られて忘れてしまった。 チョコレートも…、普通に食べたらきっと美味しいんだろうけど、今は甘味しか感じない。甘いの。 「ぁ…、先生…」 「ん…」 唇についたチョコレートを舐めとる彼の動作があまりに煽情的だったから、少しキュンとしてしまった。…不覚。 スリット部分から先生の手が這い上がってきたので唇を離そうとしたけれど、何故か、離れない。離そうとすれば余計に絡み付いてくるような。 「あ…ッや、先生待っ…、…んんっ、」 「は…ッ」 流石に先生も息が切れたのか私が半裸になるころにはやっと解放してくれた。 でも口のなかはまだ甘い。 身体を反転させて先生の膝の上に座らされた。 うわ、この、体制は…。 「…っ、あん…ッ」 「ワオ、なんて声出してるの…」 出させてるのは誰だ! 本日2度目の怒りを感じるも、後ろから回された手のおかげで反論できない。体制のせいでもろに掴まれてるんだもの。さっきからの雰囲気も相まって、彼の指先の動きひとつひとつに感じてしまう。 空いていた左手が下に伸びた。 や、やばい、今のまま、やられると… 「ん…は、ぁッ!やぁ…っ」 腰が大げさに跳ねた。 ゆっくりと中に入ってくる彼の長い指が、焦らされているようで、すごく、頭の奥がジンジンした。泣きそうに視界が滲む。もう何がしたかったのかも分からなくなるほど。 抱きしめられながら抱かれるのって、こんなカンジなんだろうか。 頭の意識も一緒に彼に持って行かれそうになったとっき、その音は鳴った。 ──ポーン…ポーン… 「………」 「…あっ、」 小児科の壁に掛かったハト時計。1時を告げる時報。 パタパタパタ、と、小さな足音が掛けてくる。 「ひばりせんせー…っ…」 「いっ…!?」 「………」 鍵を掛けてなかったのか…! お得意様(通院に得意もなにもないけれど)の、美代ちゃんが、開け放たれた扉の前にいた。 呆然と、憧れの「ひばりせんせー」とその膝の上に跨る半裸のナースを幼い大きな瞳が捉える。 「美代ちゃーん?」 遠くからお母さんの声、診察時間が始まって待ちきれずに彼女は走ってきてしまったのだ。 私は慌てて先生の上から退いて、カーテン裏の控え室に駆け込んだ。心臓が飛び出そう。 改めて、ここが病院であったことを思い出す。 「もう、美代ちゃんったら…」 「ママー、ひばりせんせーが…」 「美代ちゃん…、早く診察しようか」 何もなかったかのように診察を始める先生だけど、さっきまでの余韻が抜けきっていないのか声が少し熱っぽい。 とにかく今はお預けだ。 (って…、それじゃ私が焦らされてるみたい) 「今日は残業だよ」 誰に言ったかも分からない彼のその言葉が、どうしてだか嬉しく思えた。 美代ちゃんゴメン… (あんた、そのクマどうしたの!) (あ、ちょっと徹夜で残業を……) (っ全く!やっぱり雲雀先生ってダメよね!) (あはは……) ───── 77777キリ番雲雀裏夢でした! 遅くなってしまいまして申し訳ありません…っ しかも本番ナシ…ごめんなさい! ももねこさまに捧げます! [*前へ][次へ#] [戻る] |