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献上品とかお宝とか
◆トマ子さまへ!




「雲雀+10微甘夢」








私が未熟だった所為もあるし、彼がそういう性格だった所為もある。


「いらない。」


…これで何度目だ。

いや、何年目だ?


「で、でもみんなにあげてるし…、」

「だから、いらない。」


彼はつっけんどんに、私の差し出した箱を押し返す。

雲雀にも気に入ってもらえるように、黒地の包装紙に紫のリボンで結んだのに。


これで、私がこのファミリーに入って9年、九回目の拒絶だ。
毎年毎年クリスマスになると、ファミリーの守護者のみなさんには細やかなクリスマスプレゼントを差し上げている。
大抵は食べ物やお菓子。
邪魔にならず、残らないもの。


「これ、消耗品だよ。」

雲雀にあげているのは、使い捨てリング。
彼は波動が強すぎて三流のリングではすぐに壊れてしまうから、使い捨て。

一応、彼に合いそうなデザインのリングを選んだものの、どうせ一回きりなのだし、邪魔にはならないと思うのだが。


「だからいらないって、分からない?」

呆れるようにため息をついて、また資料に見入る。

屋敷に入るためにわざわざ着物まで着用したのだが。
草壁さんは私と目が合うと申し訳なさそうに苦笑する。
それがいっそう、惨めだった。


どうして彼は、一回きりの使い捨てリングをもらってくれないのか。
どうしてこの細やかなクリスマスプレゼントすら、受け取らないのか。


それはどう考えても、私が草食動物だから。

同じ雲の波動を持ちながら、やはり彼には、足元にも及べない。
一緒に戦いに行っても、お荷物になってしまうのだ。


「ねぇ、今度ファミリーのアジトに乗り込むんだけど、君も来るよね?」

すごく雑魚だから、君でも大丈夫だと思うけど。


彼はプリントを机に置き、熱い緑茶をすする。

攻め込みの、お誘い…!

戦いに行くんだ。
彼に仕事を誘われたのが嬉しくて、思わず憂鬱な気分が吹っ飛んだ。


「じ、じゃあ、雲雀の背中を守らせてくれるの?」

相棒として認められた?


「勘違いしないでよ、僕の背中は誰も守れない。」

朗報かと思えば、ドン底。

山本に言わせればツンデレらしいけど、残念ながら彼の成分表にデレの文字はない。
(33%が孤高、33%が秘密、33%が秩序、残り1%が小鳥だ。)


「そーだよねー…」

私ごときに彼の背中を守る力があるかどうかくらい、分かるだろう。


決行は明日だ。
ボスとお話でもしにいこうかな…、と部屋を出ようとしたとき、雲雀からお呼びがかかった。


「それさ、」

どれさ?

「そのプレゼント、いつも毎年どうしてるの?」

ああ、リング。

「捨てるのも勿体ないから、私が使ってる。」

同じ雲の波動だし。

そんなことが聞きたかったのかとため息をついて部屋から出る。
早く着物を脱ぎたい。
苦しいんだよ、コレ。



─────……



早く相棒として認めてもらえないだろうか、密かに、願望だった。

着替えを済ませ、屋敷から出ようと脱衣室の扉を開けば、…うわっ!

いつからそこにいたんだ、雲雀。


「さっきの、もらってあげる。」

君に使わせても弱すぎて、リングが可哀相だからね。


8年ほど前から急激に伸びた背丈。
…あくまで、上目線。
はいはい、どうぞお受け取りくださいませ。

九度目の正直。
やっと、もらってもらえた。
この調子で相棒にしてもらえないかなー、なんて思いながら、就寝。


明日こそがんばるぞー!



─────……



彼に教えてもらった、鈍器の使い方。
目を閉じないこと、一瞬でも周りが見えなくなったら死んでしまう。
トンファーは打つ、突く、払う、絡める、攻防一体の武器。

咄嗟に判断して、一番的確な方法で相手を倒す。
故に、高度な知力が必要なのだ…。

相手の目を見る、相手の目を見る……何度もそう呟きながら、怖さに震える足を隠した。


「…始めようか。」

彼の一言で、私たちの周りに集まった悪漢は一斉に駆け出す。
まるで刑事ドラマ。

トンファーをもっと合理的に、もっと効果的に。

敵の持った鉄パイプを受ける、ビリビリと骨にまで振動する痛み。
雑魚でこれほどの力なんて、雲雀と戦ったγってどんなやつなんだろう。

緊張で口の中がカラカラだ。雑念が入ったせいか、隣から違う敵の攻撃を受けそうになって、あわてて左手で受ける。

後ろで、パァンと何かが弾けるような高い音が鳴った。


「?」

旋棍を回転させて相手を殴り、ダウンさせてからチラリと彼に視線を送る。


「あ…」

砕けたリング。
パラパラと散る欠片。


「だから嫌だったんだ…、君からもらったものを一度で壊してしまうから。」


呆れたようにため息。
手加減したつもりだったけど、やっぱり割れちゃったよ。
忌々しそう眉をしかめる雲雀。


「…そ、」

そうだったの?

言いかけて、ああ、ここが戦場だと思い出す。
目の前から鉄パイプが降ってきたからだ。


「……ッ、」

痛い。
ちゃんと受けたけど、やっぱり女には男に適わないところがある。…力だ。

ひとりの男に構っていられない、けど、適わない。
雲雀に勝てないと分かった敵たちは、私に襲い掛かってくる。


がら空きの背中を、狙われた。


「……くっ、」

だめだ、間に合わな…っ


ドンッ、背中に衝動。

だけどそれは痛いというより、どちらかというと何かとぶつかった…?


「あ…、」


雲雀が、私のすぐ後ろにいた。
お互いに背中合わせで、欠点を補うように。


「雲雀、自分の背中は誰にも預けないって……、」

彼が来てくれた心強さに戦いの直感を研ぎ澄ませながら、話し掛ける。

敵側の壊滅も近い。


「そうだよ、僕の背中は誰にも守れない。」


彼の倒した敵を横目で捉え、自分も武器を繰り出すスピードを上げる。

ふっ、と笑い声にも似たような吐息が、彼の口から漏れたような気がした。


「でも君の背中は、僕じゃないと守れない。」


パリン、とまたリングの弾ける音。


最後の一匹を仕留め、私は息を切らしながら、彼は旋棍に付いた血を払いながら、辺りを見回す。

敵は壊滅。

私はボスに無線を飛ばし、任務遂行を報告する。




私が未熟だった所為もあるし、彼がそういう性格だった所為もある。


二人は互いの欠点を補い、時々、背中を預ける。


「ちとせ、来年から僕以外の守護者にプレゼントあげるの禁止ね。」

「ええ?どうして?」

「どうしても。」

「理由になってないんだけど…、」

「じゃあ、もう一緒に仕事しない。」

「わ、分かったよ!」


私に彼の背中を守る力はない。
けどその分、どこかで彼を、支えてる。



──────────……



君の背中を守れるくらい、君は弱くていい。



continue…


トマ子さまへ!
40000キリ番
「雲雀+10微甘夢」
でした!

ももも申し訳ありません!
なんて子供っぽい雲雀…っ、+10になってない…。

ありがとうございました!


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あきゅろす。
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