献上品とかお宝とか
◆YUZUさまへ!
「雲雀転校夢」
"似非初対面"
「今日から転校してきた、…雲雀恭弥くんだ。」
校長先生が直々に、私を会議室に(一人で来いと)呼び出した。
「…………。」
「…………。」
待っていたのは気の弱い3年生の担任教師と、
気の強そうな…、否、目付きが異常なほど悪い男子生徒ひとり。
うちの学校はブレザーなのだけれど、肝心のその彼は真っ黒な学ランに身を包んでいて、さらには真っ黒な髪が首元まで隠していた。
「先生…、なんで既にそんな遠くにいるんですか。」
私は、部屋の出入口付近で挙動不審にも冷や汗を流す可哀想な先生(52)に問い掛ける。
顔面蒼白ってまさにこのこと。寿命がちぢんだって顔してる。
「い、いや。私のことは構わないから!」
はやく、その子の相手をしてやってくれ!
先生はもう止めるのもあわれになる程、霜の降りた髪をプルプルと震わせていた。
「いや、相手ってなに?」
睨み付けてくる転校生から目を逸らさないまま、後ろの先生に尋ねる。
(だって目を逸らしたら負けだって何かで言ってた)
「…………頑張れよ。」
「はっ?」
と思って振り返ると同時。
がちゃっ、かちゃん。
ドアの勢いよく閉められる音と、鍵を勢いよく締められる音。
…まさかの先生脱走。
いや逃亡、どっちだって一緒だ。
まぁ予想はしていたけれど、でもやっぱり、こんなのあんまりだ。
私は不機嫌に眉を寄せて、もう一度彼に視線を戻す。
「………。」
「………。」
依然として彼も私を睨み付けたままで、二人は突っ立ったまま。
変な沈黙に足の痺れが増す。腰まで痛い。座りたい。
「…、私は田中ちとせ。生徒会長。」
よろしくとまでは言わず、無愛想にそれだけ言って、私は横の椅子に腰掛けた。
「そんなの、知ってる。」
さっき説明されたよ。
低い…ような高いような。
アルトっぽいバス。
初めて彼の声を聞いた。
「あ、そ。君も座れば?」
と、私から3つ離れた彼に一番近い椅子を指差したところ。
「………?」
「………。」
ご丁寧にも、何故だか私の隣に座られた。
羨ましいにこの上ない白い肌と、見事なまでのコントラストな漆黒の髪。
転校の緊張の色すら見えない強い眼光。
おしいなぁ。
あれでもうちょっと目付きがやわらかかったら、きっと君はジャニーズのトップに君臨してんだろうに。
頭の中で独りごちてチラッと目線を彼に投げれば、丁度彼も同じような状況にあったらしく、ぱちっと合った目を嫌そうに逸らされた。
…妙な沈黙だ。
なんで私たちは会議室のど真ん中で無言なんだろう。
…いや、初対面なんだから当たり前なんだが。
「…あのさ、」
とりあえずは私から口火を切ろう。
きっとああ見えて、もしかしたら緊張してんのかも。
と、思ったけれど。
「……何。」
彼は話し掛けられるのも嫌そうに(鬱陶しそうに)少しだけ顔をこちらに向けた。
(畜生、こっちはアンタに気ぃ使ってんのに!)
「いや、なんで転校してきたのかなーってさ」
まぁベタな質問ではあるけれど。
彼はやっぱり、そのベタな質問に不快感を示した。
「なに、馬鹿なことを。」なんて言っているよう。
少し考えるような素振りを見せたあと、
「…ある人を追ってきたんだ。」
と、下手に首を突っ込めないような理由をあげた。
…だれ?
誰を追ってきたんだ?
え、まさか恋人か?
ぶはっ、見えねぇー!
って言いたい、言ってしまいたい!
と、口はモゴモゴ動こうとするのだけれど、なかなか「初対面」という壁がそれを止めようとする。
「そ、そうか…」
もうこの話題はやめよう。
いつか絶対聞いてしまう。
(で「プライバシーでしょ、咬み殺すよ」なんて)
(うわ、ついつい幼なじみだった子の口癖が。)
「…聞かないの?」
隣の彼は意外そうに目を開いた。…ああそうしてると、本当に君はジュノンボーイ系の顔立ちだな。
「なにが?」
「…誰を、追ってきたの、とか。」
「…(いや実はすっごい聞きたいんだが。)それはプライバシーだからね」
あえて見栄を張って、この学校の生徒会長らしい優しさと人望をアピールしてみた。
ふはは、これで彼が「田中さんみたいな格好いい人になりたいんだ!」とか言ったら殺人的に可愛いと思う。
「…ふぅん。」
彼はつまらなさそうに、ため息とも落胆とも取れないような声を出した。
…そういえば今さらだが、私の幼なじみの名前は何だったか。
たしか彼みたいな、ちょっと癖のある柔らかい髪だったなぁ。
なんてあやふやな幼い頃の記憶を探りながら、幼なじみの彼は遠くに引っ越してしまったんだっけと思い出した。
「私にも、幼なじみがいたんだけどねぇ…」
昔の事をひとつ思い出すと、それら他の思い出もポロポロと沸き上がってくる。
「……、」
彼はだまって、私の話を聞いていた。
…格好いい子だった。
ちょっぴりみんなより吊り上がった瞳とか、なのに誰よりも私に優しいとことか、…。
昔は馬鹿だったからなぁ。
結婚しようね!なんて軽々しく約束したりなんかして。
……そのくせその子、さっさと遠くに引っ越しちゃって!…きっと忘れてんだろうなぁ、私のこと。
ぽつぽつ、寂しいくらいに静かなこの部屋に、私の言葉だけが断片的に響いた。
「…今、何してるかなぁ?その子。」
話終えて、ありきたりな終わり言葉で締めくくる。
いや、本当に今何しているのかは気になっているのだが。
…彼はというとそのありきたりなつまらない話に対し、意外にも熱心に聞き入っていた。
少々腑に落ちないといった顔をしながら、まぁそれも初対面だから仕方ない。
(きっと「何で僕にそんな話をするの」とか)
「……で?」
彼が続きを催促する。
いや、ご要望にお応えできず申し訳ない。
続きなどない。だって私は、その子の名前すら覚えてないんだもの。
「悪いけど、続きなんてないからね。」
「いや違うよ。君は、その子が好きだったのって聞いてるの。」
「あー…、」
なる程。
「でも私、好きだったかもしんないけど、その子の名前すら覚えてないし…」
正直に理由を話せば、ものすごく不満げに顔を背けられた。
だって仕方ないだろう、もう10年以上前の話だぞ。
彼の顔だって、特徴ばかりであやふやだ。
「まぁ、そんなことどうだっていいや。学校には早く慣れてね。」
私はもう話題を変えようと思い、「さっきから思ってたんだけど、君ってジュノンボーイ系の顔立ちだね」とか言ってみる。
…あからさまに不愉快な顔をされてしまった。
(ここで照れながら「ばかじゃないの…っ」て言ったら殺人的に可愛いと思うんだけど。)
「…ほんとに、覚えてないんだね。」
彼は私に顔も向けず、正面の遠い窓ガラスの外を眺めながら言う。
…覚えてないとは何のことか。
「…ま、君が転校生だってことは覚えておこう!」
なんて冗談まじりに返せば、キッと私の方をその恐ろしい程の吊り目で睨んでこう言った。
「…馬鹿にしないでよちとせ。咬み殺すよ。」
「………、」
―――――――――……
君が僕の許嫁だと知るのは、それから1分後。
continue…
はい、YUZUさまキリ番8000リクエスト「雲雀転校夢」でした!
えぇぇ転校してきたのに幼なじみとかアリかよ!
と思われましたらごめんなさいっ!
お書き直しいたします故!
こんな駄文でよろしければどうぞお受け取りくださいませ!
ありがとうございました!
ではまた次回!
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