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風紀委員長様!(完)
アンタのせい!







ダルい………


目の前に積まれた資料の山に、熱いため息が出る。


もうダルいんだか、タルいんだか分かんなくなってきた。


(あったまイター………)


事の始まりはつい先刻のこと。

朝、なんとなくフラフラする足取りのまま、よろよろとリビングまで降りた。


(目がショボショボするよぅ………)


頭ぐるぐるでそんなことを考えて、

「アラ、どうしたの、赤い顔して……。」

ハイ体温計と母に渡されたモノを脇の下に挟めば。

ぴぴっ

「8度7分…、ひどい熱だわ。インフルエンザかしら」

案の定熱があった。

「大丈夫、学校…行かなきゃ……」

そう、インフルエンザなんかじゃないのは分かり切ったこと。

この前の、雪あそびが原因だ。

馬鹿みたいに日が暮れるまで遊んでいたせい…
まぁ元を辿れば雲雀が「雪だるま作ろう」とか何とか言ってきたせいだったりするけど。


「こんなに熱があるのに、行っていいわけないでしょう!」


…心配してくれた母に寝かし付けられたのをよそに、私は窓から学校へと向かった。


それは、雲雀に学校を休むことを許されていないからと、
アンタの所為で風邪ひいたんだよと文句を垂れてやるためだった。



でも。

「死ぬ……」

小さく死亡宣言までして、ボフンとソファーに倒れこんだ。

無理…文句なんて、とてもじゃないけど言えそうにない。

外から聞こえる男女の声だけが遠い。


黒のソファーに溜まった太陽の熱すら、頭に響いて煩わしいほどだ。


「ちとせ、何サボってるの?」

雲雀が倒れこんだ音に気付いて、頭をあげた。

うるさい、私は熱があるんだよ、少しは休ませろっ!


そう言いたかったけど口は、重くて魚の呼吸みたいにパクパクとしか動いてくれない。


雲雀が近づいてくる。

ああ、咬み殺すなら咬み殺せば。
どうせ私は、この高い熱の所為で逃げれないから。


自暴自棄になって、どっかりと仰向けに寝転がった。


「ちとせ…」

雲雀の声が降ってくる。

頭に響くって。頼むから……

ちぅっ


「!?」

驚いて目を開ける。
さっきまでの気怠さなんか、吹っ飛んだ。


「んっんっ…ァ、う」

雲雀の舌が、ぬるりと私の唇を這う。

間違えて文句を言おうと開いた口に、当然のように侵入してくる、自分とは違う熱い体温。


「ん、んぅっ…ふ、んぁ」

やめてくれ、苦しいじゃないか。

それじゃなくても涙目だってのに、酸素を求めても与えられない苦しさに瞳が潤む。


「…待っ…んんっ、は」

「ん、ダメ…」

まだまだ続く、長いキス。

もう、何で雲雀がこんなことしだしたのかも、私が本当に風邪なのかも、あやふやになってきた。


…だめだ、瞼が、重い…

いしきが、遠くの運動場に溶けるよう。


鳴りだしたチャイムだけが、唯一私の意識を必死に掴んでいてくれる。


けれど、
チャイムに手を離されたと一緒に、私は意識の淵へと転がり落ちていった。



―――――…

あれから、どれくらい経ったのか。

とうに日は暮れ淋しげに、雲雀のデスクに万年筆の影が伸びていた。


「ん…重ぃ」

いやちがう、体の怠重さとは全く異なるその重みが、私の体へと張りついて離れない。


さらり、くすぐったいくらい艶々の黒が、ブラウス越しに私の腕を撫でた。


「雲雀……」

紛れもなくその丸い頭は雲雀の頭で。

この狭いソファーの上、私たちは抱き合うように寝転んでいた。


(こいつ…)


意外と冷静にも、その状況を受け入れている自分がいる。

それは、肝心の相手が寝ているからかもしれない。
こいつが起きて私の顔なんか覗き込んでたときにゃ、きっと悲鳴ごときじゃ済まなかったかも。


のそのそと雲雀の腕から這い出し、さぁ帰る準備だとカバンを手にしたとき、

「ぉうあっ」

なんといきなり腕を後ろに引っ張られて、ソファーに逆戻りしてしまった。

むなしく宙を舞う、私のカバン。


いたい、と眉をしかめながら目を開けば、まだ眠そうなトロンとした瞳の雲雀と目があった。
(あ、ちょっと可愛いと思ってしまった…)


「ぉはよ…ちとせ」

はぁ、おはようございます。まぁもう夕方ですけどね誰かサンの所為で!

文句を垂れようとした口は、雲雀の指先によって塞がれてしまい…


こつん、当てられた額に、なんだと怪訝な顔をすれば。

「ん、熱退いたね」

「!」

その一言に、そういえば私は熱があったんだと思い出した。


「キスしてうつせば治るって、本当だったんだ」

「え…、」

「僕と一緒に寝てたから、あったかかったでしょ」

「………。」


その、ためだったんだ…。

いきなりキスしてきたのも、一緒に狭いソファーで寝てたのも………、

私の風邪を、治すために。


「え、でも雲雀にうつったら大変じゃん!」

そうだ、雲雀は並盛の秩序を守ってるのに!

「馬鹿じゃない?僕はそんな小さなものに負けない」

いや、あっさり解決した。


体のダルさは、いつの間にかなくなっていて。

「ちとせの熱、早く治してあげたかったんだ」

その代わり私の頬に、なかなか冷めてくれない熱を残していってくれた。


気付いてくれた君に、いっぱいのありがとう。




―――――――――……



でもちょっとだけ、ぼくの我が儘も入ってる。




continue…

いぇーい風邪ネタ!
ありがとう、ありがとう!なんかちょっと、文学的な感じ?でしたね…
いやちがうか。
あやふやというか抽象的というかね。
うん、とても楽しかったですっ(・□・*)

ではまた次回!


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