風紀委員長様!(完)
どうしても
ちとせが、応接室に来なくなった。
ずっとずっと待っていたんだけど、やっぱりちとせは来ない。
来なくなったのはもう、三日ばかりも前の事。
「ちとせ…」
はぁ、深いため息がもう、僕すら聞き飽きるほど虚しく、何度も静かな応接室に響いている。
やっぱり、ちとせはいない。
もちろん来ないなら自分からいけばいい。
…いいのだけれど。
「僕だって君なんか必要ないよ、だなんて…」
言い過ぎたかも…、という言葉の続きは、ぐぅっと飲み込んで。
コンコン、控えめにきたノック音に体をびくつかせた(なんて、僕らしくない)。
「入って」
顔を出した緊張と焦燥を、出来る限り声に出ないようにと努力した。
「し、失礼します…」
入って来たのは草壁。
ちとせじゃないなら用はない。
まったく、僕は今とっても機嫌が悪いのに。
「やぁ、運が悪かったね。咬み殺してあげる」
「え゙!?ヒィッ!」
…本当に君はタイミングが悪い。
僕は挨拶もそこそこにソファーから立ち上がり、早速草壁を咬み殺し始めた。
それでもすっきりしない、胸の中の焦燥感とモヤモヤ。
そもそもの事の発端は、三日前の彼女のセリフからだった。
「風紀委員会を、辞めさせていただきます」
「え」
…あまりの驚きと衝撃に、「咬み殺されたいの?」などといった脅しまがいのセリフすら出てこず、僕は彼女の次の言葉を待っていた。
「はい。契約書に、ちゃんと書いてますからね」
ピン と細くて長いちとせの指が、突き出された風紀委員会契約書の規約を指していた。
「第十八条、風紀委員になったものは、契約日より三ヶ月の間は辞めないこと。ただし規約の三ヶ月が終われば、契約者は資料提出のみで辞めることが出来る……」
「あ…」
忘れてた。三ヶ月が経てば、自由に辞められることなんて…(ちとせには「卒業まで有効」と書いた契約書にするつもりだった)。
「忘れていたでしょう」
ちとせは、鬼の首でも取ったかのような誇らしげな顔をして、さらにこう付け足した。
「私はあなたの事、大っっ嫌いだって。」
「………。」
…それが、決定打だったと思う。
人に嫌われるのには慣れていたけれど、ここまではっきりと言われた事はなかった。それも、自分から風紀委員に入れた女の子になんて。
あまりに唐突な攻撃は、僕の心に治らない傷を負わせる(人はそれをトラウマというのだろうけど)。
結局、僕はそこでつまらない見栄を張ってしまった。
「僕だって、君なんか必要ないよ」
彼女も少し目を見開いて、(ちょっとショックそうだった気がしたけど、それは僕の自惚れかも)部屋から早足で出ていった。
そういう訳で、僕は三日間という一生にも近しい長い時間、ちとせに会っていないということ。
僕は、草壁だったソレ(あ、救急車よべるくらいぐちゃぐちゃだ)を一瞥したあと、やっぱり我慢できなくなって応接室を出た。
向かったのは勿論、放送室だ。(さすがに直接ちとせの教室には行きにくい)
――ピンポンパンポーン…
「…ちとせ、今すぐ応接室においで。…来ないと、分かってるよね」
動揺が声に、出ないようにはしたつもりだ。
僕はブチン、と主電源を切り、応接室へと向かおうと放送室のドアを開けた。
「ちとせ…っ!」
思ってもみないことだった。
応接室においで、と言ったのは僕だけど。
……―ちとせに、応接室に着く前に会ってしまった。
びっくりして、彼女もびっくりしていた。
ここで僕は、すこし言い訳をしておく。
僕は余裕がなかったんだよ、本当に。
心の準備ってものが出来てない内に会ってしまったからと、三日間も会えなかった寂しさと(僕らしくない)、やっとちとせが見れた嬉しさで……―。
「ぅわっ!ひ、雲雀っ!」
ちとせの制止なんて聞く余裕もなしに、抱きついてた。
「ちょ、ちょっと…っ!」
まぁ、僕の方が背は高いから、抱きつく というより抱きしめる といった方が正しいかもしれない。
「雲雀っ、やめ…、んんぅっ」
強引に彼女の唇を奪って、久々のちとせの感触に、すっかり我を忘れてしまっていた。
気付いたときには、僕は学校の廊下で、ちとせを犯す手前まできていて。
「ちとせ、ちとせ……っ」
放心状態で真っ赤になったちとせを、バカみたいにずっと抱きしめていた。
犯す手前といっても、まぁ押し倒してた程度だったし、だからもちろん彼女の肌なんて見てない。(ブラウスに手は掛けてたけどね。)
正直、自分でも自分の行動に驚きだった。
冷静に考えれば、僕は学校でなんて事をしようとしていたんだと思った。
まさかちとせが、酸素不足で死にそうになるくらい激しくキスしてしまっていたなんて、僕は本当に僕らしくない。
ぐったりしてしまったちとせを、応接室まで運んだ。
continue…
続けるつもりはなかったんですが。
なにやら長い………!
すいません、ちょっとだけ続きます。
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