風紀委員長様!(完)
駄目却下論外。
「ひ・ば・り・さーん!」
「……。」
「………(あー)、」
来た来た。
また来たよ。
「私、風紀委員に入りたいんです!」
「……何こいつ。」
「風紀委員入会希望者。」
…そう、なのだ。
ここ数日、風紀委員への入会希望者が殺到している。
1日目は5人、2日目は25人、今日になるともう学年のほとんどの男女が押し掛けてきて大変だった。
…中には「昨日は断られましたけど今日こそ!」というリピーターまでいる。
(そして中には命知らずが「俺に風紀委員長の座を渡せ!」という奴まで。…入学早々、雲雀の餌食に。)
まったく、だ。
中学に上がったばかりの一年生たちは、なかなか最近になって学校に慣れてきたらしく、次は先輩たちの甲乙を付け始める。
主に部活などの部長がその対象で、「サッカー部の部長、超格好いい!」だとか「バドミントン部の部長ってキモイ!」だとかいう会話は日常茶飯事であった。
(つまり風紀委員への入会希望が多いということが、一体雲雀の何を示しているのかはもうお分かりだと思う)(あいつ、顔だけはいいからな。)
「……で?」
しかし今回のこの女の子は今までのどんな女の子よりもしつこくて、
…今までのどんな女の子よりも、命知らずだった。
「ですから、風紀委員会に入れてください!」
「だから駄目って言ったでしょ。」
「いいじゃないですか!」
「駄目却下論外。」
雲雀は自分のデスクに肘を付いたまま。
つーん、とそっぽを向いてまるで彼女を相手にしていない。子供っぽいのは彼が5月5日生まれだから。
「何で、駄目なんです!」
もうもう、命知らずというより勇者に近いか。
彼女(たしか齋藤さん)がデスクをバンバンと叩く様は、まるで一番最初の私にそっくり。
彼には不満で不満で不満。
顔を見れば不満しか浮かばず、声を聞けば苛々。
あり得ないほど強引に、私はここまで引っ張って来られた。
でも今ではそれに、ちょっと嬉しかった、り。
(間違えた間違えた。ごめん今のナシ!)
(でも…もしかしたら彼女も、彼が何処か遠くへ引っ張って行ってしまったら…なんて。)
「駄目なものは駄目。」
「どうして…!」
「だって君、女でしょ?」
彼は平然と、サラリと言ってのけた。
……え、まてまて。
何、理由は女だからなの?
え、まてまて!
そんなこと言ったら…
「じゃあ何で田中先輩はいいんですか!」
彼女はもうすごい剣幕で怒りだす。
そりゃそうなるでしょ!
私だって思った。
「…彼女は、いいんだ。」
言いにくそうに雲雀は言った。悪かったな、なんにも取り柄がなくて!
「何がいいんですか!」
負けじと彼女も言い返す。
「何って…、なんでもいいでしょ」
「よくありません!」
「ちょっ、ちょっと…」
このままだと彼女が雲雀を殴り兼ねない。
(いやそんなこと、彼が許すはずもないけれど。)
私はたまらずソファーを立って、二人の間に立った。
途端にキッと彼女が私を睨む。……女の子でも睨まれると怖いもんだ。
(いやなんてったって、彼女の怒りの矛先は私。彼に怒りながらも、実は私に怒っている。)
「どうして彼女はよくて、私は駄目なんですか!」
「……さぁね」
「答えになってません!」
「煩いな。君、よく猿に似てるって言われない?」
「雲雀、失礼でしょ。」
私が雲雀の前に手を出して制止すると、雲雀は「ちとせはそう思わないの」って顔で見上げてくる。
彼女は、いや、そんな私たちの行動に怒ったのか。
「〜〜〜〜っ!また来ますから!」
齋藤さんは女の子なのに額に青筋を立てて、バン!と応接室の扉を乱暴に閉めた。
「………。」
「…………。」
私と雲雀は顔を見合せる。
…また、来る、だって?
「はぁ…」
煩いのが増えた。
ちとせにしろあの子にしろ、僕の周りにはろくな奴がいない。
彼はまたハァとため息をついた。
…そのろくでもないやつを無理矢理風紀に入れたのは誰だ。って、余程言ってやろうかと思った。
「…雲雀って罪な男ね。」
「なにそれ?」
「分かんないならいい。」
「気になるでしょ。」
「気にしなくていい。」
私は雲雀をなんとかそれで押さえ込んで、紅茶いれようか、とカバンからお茶菓子を出す。
「じゃあいれて。」
彼はまぁ、すっかりご機嫌を直してルンルン。
(雲雀の場合、ルンルンとイライラの表現の違いなんてほとんど皆無だけど。)
ティータイム限定で用意されるぬいぐるみを取りに行った彼をよそに、
私は気付かれないように独りごちた。
「…じゃあ雲雀は、どうして私を風紀委員に入れたんだろう…?」
―――――――――……
…君だから。
それじゃ理由にならないかい?
continue…
嵐の予感!
…になってましたかね…。
いやぁ大変だぁ。
ではまた次回!
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