風紀委員長様!(完) 献上せよ! 私の雲雀嫌いには、限りがなかった。 それは私の友人を、お決まりの「咬み殺す」で伸されてしまったことから始まり、 「君、今日から風紀委員だから」という雲雀直々の一言により悪化していく一方だったのだ。 そして、……… 『ちとせは、応接室に入る際、チョコレートを雲雀に献上すること』 この応接室前に貼られた紙によって、私の怒りは最高潮まで上り詰める。 腕の脇に抱えた紙束がしわになるほど力が入った。 バシンッ 「雲雀っ!これは一体、どーいうつもりっ!」 ドアを破らんばかりに部屋へ押し入った私は、即座に雲雀専用のデスクに手を叩きつけた。 「うるさいな。見て分からないの?」 雲雀は今どき古風にも鉛筆で書類に記入していて、私の行動が理解できないとでも言いたげにこちらを見ている。 とうてい私には、彼の行動の方が理解できない。 「分かるわけないだろ!」 私はデスクの上に、朝から見飽きる程見てきたソレを置く。 ドサッと重々しく机が揺れた。 置いた紙束にはひとつ余さずこう書いてある。 『ちとせは登校後すぐに応接室へ行き、雲雀にチョコレートを献上する事』 ………。 「見たままだけど」 それで?チョコレートは? 平然と聞いてくる雲雀に、殴りたい衝動をグッと堪えて言った。 「なんで、学校中に、こんなもの貼るの…?」 仮にもあんた、風紀委員長じゃないのか。 チョコなんて学業の妨げだろ!って正論を述べたら、 「別に、ちとせから僕へのチョコレートのみ許可だから」 あっさり、委員長の自覚を捨てやがった。 というか雲雀流に秩序を曲げたというのが正しい。 あんたには毎度毎度、呆れるというより腹立たしいというより大っ嫌いだ! 勝手な自分でココアをいれて飲む。あ、僕もいれて。って誰がいれてやるか。 はぁ…朝から疲れる。 登校してからのみんなの視線が痛いと思ったら、なんとこんな馬鹿らしい張り紙がしてあったんだ。 急いで回収したけど、きっとまだ残ってるはず… 「それで、チョコレートは?」 雲雀は、ボケーと考えていた私にちょっと眉をしかめて聞いた。 答えなんて、決まってる。 「持ってきてる訳ないでしょ。何の為にチョコなんか」 ツンと横目で彼を見やれば、 あ、すごい不機嫌になっちゃった。でも構わない。私は雲雀のこと、大っっ嫌いだから! 「今日、バレンタインなんだけど」 怒って彼が言う。 …は、? 何をおっしゃる兎さん。 ばれんたいん、だぁ? 「馬鹿にしないでよ、それくらい知ってる」 むぅっとして返したら余計に機嫌が悪くなった。(へへん、イイ気味!) でも、そんな気分に浸れたのも束の間で… 一瞬にして雲雀は、機嫌を良くした。妖しい笑みを口に張りつけて……。 「そう。じゃあ…」 にやぁっと笑った雲雀に、思わず後退り。これはヤバイぞ、地雷を踏んじゃったみたいだ。 雲雀は立ち上がって私に近づいてくる。 (ひぃっ) よく見たら、もう後ろ壁じゃん!的な状態で。 さらに笑みを濃くした雲雀はこう言った。 「咬み殺す、しかないね」 瞬間に私の顔はグィと持ち上げられてしまって、 がぶりっ そんな音が聞こえそうな感じで、口に咬み付かれた。 (あ、…?) よく考える暇もないままに後頭部を押さえられて、もう一方の手で目を隠されてしまう。 「ん゙ん゙っ!?」 やっとそれがキスだと分かったときには、雲雀の舌が私の口内に侵入を果たしたあとのことだった。 「は、はぁ…ふぅ」 「…甘っ、」 頭の中ぐちゃぐちゃで、気付いたら床にへたり込んでしまっていた。 雲雀はというと、それを面白そうに屈んで眺めていて。私は腹が立つやら照れるやらで、挙げ句の次のセリフに顔面蒼白になった。 「ちとせ、バレンタインは好きな人に想いを伝えるチャンスなんだよ。」 ……! この男、人の口の中で散々暴れ回ったくせに!(まずあやまれっ) バレンタインが好きな人に想いを伝えるチャンス? んなもん、乙女なら誰だって知ってる。 それとも何か? 私が、あんたに想いを伝えるとでも? (生憎私はあんたにそんな綺麗な想いは持ってない) ね、早く言っちゃえば? なんて嫌いだけどそんな格好いい顔でいわれたら… 余計に恥ずかしくなって、きっと私の顔は今とても真っ赤だろう。 (だって雲雀、くすくす笑ってるんだもん) 「ごちそうさま、チョコレートの代償ちゃんと貰ったからね」 にやり、そんな音が聞こえてきそうなほど、雲雀は嬉しそうに口角を上げた。 …しまった! あ、ああ……、ウソ!? 私のファーストキス…。 頭まっしろ。 ふと彼がいなくなったのに気付いて辺りをみれば、もうデスクに戻って仕事を始めていた雲雀。 「来年は、手作りがいい」 ちゃっかりそんな要望まで言われて、私の朝の怒りは極限なる恨みに変わった。 「〜〜っ!帰らせてっ」 「いいよ」 あら。意外にあっさり早退許可をもらってしまった。 落ちたカバンを手にとって さぁ、帰ってワラ人形を…! あ、立てない…。 (腰ぬけたっ!?) ―――――――――…… ファーストキス? そんなの僕だって同じ。 continue… 第一段!雲雀と風紀委員になる、でした! 大丈夫ですか? 私、間違ってません? ではまた次回! [次へ#] [戻る] |