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アブノーマルライフ!
第九夜







「は…っくしっ!」

「……白紙?」

『ちとせ、風邪?』



─────…



こうなったのも一重に、
この双子のせいだ。


「あ"ー…さむっ、」

私は厚く巻かれた布団の中で身震いをする。
目は勝手にダラダラ涙が出てくるし、鼻はグズグズと詰まりっぱなしだし。

だからあの時、もうひとつでも傘買おうって言ったのに。
「もう二度と使わない傘なんていらない」だとか
「傘を買ったら高くつくから意味が無い」だとか、屁理屈ばっかりこねるから。


それで仕方なく傘すら購入出来ずに家に戻った。

キョウヤは肩で「濡れるから詰めて」と私を突き、
恭弥は「僕に近づくな」と手のひらで私を押し返す。
前に弾かれたり後ろに回されたりで、帰る頃にはびちょ濡れになっていた。


どうにか、一緒にお風呂に入りたがるキョウヤを恭弥に押さえさせ、
あわてて出たものだから更に湯冷め。
これで風邪を引かないやつがおかしい!


当然ながら私はおかしくないので風邪っぴき。


だるくて、身体に熱を閉じ込めたようなのにまだ寒くて足りない。
毛布にくるまってもくるまっても、一向に悪寒の消える気配はなかった。


「…薬。」

恭弥が部屋に入ってくる。ノックも無しに堂々と…ってところが恭弥らしいというか。

「ありがと…」

鼻声のがらがら声でお礼を言う。

「別に。」

恭弥が私のベッドの横に水の入ったコップとカプセルを置いた。
チラ…とこちらをみた彼の視線と合致する。


「………言っておくけど、僕にうつさないでね。」

「……」

風邪をうつす相手なんか選べるか。

なにかもう少し、もっともらしいことは言えないのか。
早く治してねとか、みんな心配してるよとか。
(別に心配をしてほしいわけでなく。)

「うつされたくないなら、早く部屋から出た方がいいよ。」

…そして拗ねているわけでもなく。
彼はそうだね、とくるりと私に背を向ける。


「僕まで風邪引いたら君の看病が出来ないし」

そう言って一度も振り返らず、部屋を出ていった。


「……、」

残された私はといえば。


「…べ、別に、ね…」

今のは、別にヘンな意味なんてない、だろ!
私の看病をするために風邪引けないとか、…うん。
ないない。
アイツに限って、無い。

ひとり悶々と、考えた。



─────…



『ね、キスしようよ』

「死ね」

そして危機。クライシス。
私は出来る限り身を縮めて、布団に潜り込んだ。
顔が逆上せたように熱い。(あくまで風邪で。)

でももう、これ以上ただの同居人に自分を渡すようなマネは、したくなかった。


『僕だってね、ちとせとキスしたくて言ってるわけじゃないよ』

「うそつけ」

『…風邪を早く治したいんだよ』

「…………うそつけ」

いや、半分ほんとか。
早く私の風邪を治して、また迷惑をかけようって魂胆なんだろ。


『誰かにうつすと早く治るって言うし』

「だからってキョウヤにうつしはしないよ」

『僕が風邪ひいたら、もちろんちとせが看病してくれるんでしょ?』

「そ、………しないよ」

そりゃ看病するよ、と言い掛けて、危ない危ない!
しないよ、しない!
看病するとか言ったらまた調子のるからなこいつ。


「もう……出てってよ」

風邪でダルいの。

毛布の中から消えそうな声で、懇願した。
二酸化炭素が充満して、さらに熱をこもらせる。
駄目だ、意識がフラフラしてきたぞ…。


『………じゃあっ、』

キョウヤの、拗ねたような怒ったような声。
彼は不貞腐れる以外に特技はないのか。


『じゃあ…、顔だけでも、見せて』

「……へ、」

え?
なんだ、そりゃ。
風邪を理由に迷惑をかけに来たのかと思えば、意外なセリフ。

呼吸がしづらくなってきたこともあり、私は鼻と目だけを、ちょこんと毛布から出した。
(口は用心のため防御。)


『やっぱり…まだ辛そうだね』

「ぅ、うん……」

ひやりと当てられた手のひらに、目を細める。
外気に触れて解放感。


『なにか、食べたいものとかある?』

「ん…、りんご…」

呟くように応えながら、思った。

どうしたんだろう、自分。
あんなに警戒してバリアしていたのに、キョウヤに少し優しくされただけで…、いや、いつも私を困らせてばかりのキョウヤが、あまりに大人に見えて。

病気は人を弱くするって、ほんとだな。

いつも以上に素直に応えてしまった私に自分でも驚きながら、目を閉じた。


『キスは、しないけど』

「……………ん…?」

『おでこなら、いいよね』

「は?」

『ちとせが早く治るおまじない…、』


目を開く余裕もなく、額にぷにっと柔らかいものが当てられた。


「な!」

『ほら、寝てないとまた熱上がるよ』

「く…、」

ぽんぽん、とまた額を撫でられて、不覚にも部屋を出ていこうと離れてしまう手が、名残惜しく思えてしまった。


『恭弥と協力してお粥でも作ってあげるよ』

「……ん、ありがと…」


少し、淋しかった。
キョウヤまで部屋からいなくなってしまうんだと思うと。
誰かに傍にいてほしい気分だった。
つもりはなく悲しげな目で彼を見送っていると、


『そんな顔するなら、キスしてあげようか?』


………
私はやっぱり、キョウヤと分かり合える日は一生こないと思った。



──────────……



あのまま襲ってあげても
よかったんだよ?



continue…



ねむいです。
今週の土曜日に合唱コンクールを控えています。
おやすみなさい。


誤字脱字、辛口評価、
お待ちしております。







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