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アブノーマルライフ!
第七夜







だめだぁ…、だめだ。
もう、どうしたらいいのか分からない。

何故に私は、ただの同居人とあんなこと…?
何故、抵抗しなかったんだ。
私、わたしには…



―――――――――……


「お腹空いた。」

「…」

夏休み、リビングに下りてやっと、頭が醒めた。


「遅いよ、君。」

「え…あぁ…ごめん、」

恭弥(…といえば双子の年上の方)が、私を真っ向から睨み付けて離さない。
夏で、朝で、クーラーまでついているというのに、私の背中に嫌な汗びっしょりなのは何故でしょう?


彼からは想像も創造も出来ないようなものを着た彼が、平然が如く自分と同じものを私に差し出した。


「ほら、早くこれ着て。」


彼に渡されたものを、恐る恐る指で摘み上げる。
…えーと、…。



「エプロン…、」

「そう。」

「何故…」

「料理を作るからに決まってるでしょ。」


君、そんなのも分かんないから勉強できないんじゃないの。勉強は記憶と洞察力だよ。

恭弥は「後ろ向いて」と私の身体を反転させ、なかなか器用に結べないエプロンの紐を結んでくれた。


「や、あの、そうじゃなくてですね…?」

「…まだ何かあるの。」

「いやぁ…恭弥が何で私と朝食の支度をするのかなぁと…」

彼はまた、理解力のない私に呆れたようにため息をついた。

「朝食が作りたいからに決まってるでしょ。」

「…あぁハイ、…そーっスね…。」

やっぱり、恭弥に正当な理由を求めた私が悪かった。

知りたかったのは「どうして朝食を作る気になったのか」ということだが、それをもう一度聞いたところで返ってくるのは「朝食が作りたくなったから」なのだろう。
(もしここにキョウヤがいたら、返ってくるのは多分「ちとせと一緒に朝を過ごしたかったから」なんて不真面目な回答。)

この家で常識あるのは私だけなのか?
あれ、そういえばキョウヤは…。


「キョウヤはまだ寝てるよ。」

彼に聞くより前、先に恭弥が答案を漏らす。
大方、彼らお得意の読心術やら。プライバシーもなにもあったものじゃない。
しかしそれはスルー。別に読まれて困ることなんか考えてねーもん、多分。

いやしかし、彼が7時になっても起きてないなんて珍しいこともあるもんだ。
いつもならジジィの如く早起きのくせに。


「さ、早く始めよう。」

「うぃー」

気のない返事で応える。
あの苦手な恭弥と朝食作り……。考えるだけで、寒いものが背中を走る。

どうにか無事に終わりますように…、心の中で、切実に願った。



―――――――――……



…話は変わる。
例えば私は毎日のように、彼と彼の弟と自分のために朝食を作っている。
つまりはそれは「慣れ」を表すのに充分すぎる証拠であり、私は結果、料理がなかなか上手い方であった。


「…、」

「無言で見つめるの止めてくれない?」

「あいうえおー……」

「そういうこと言ってんじゃないよ。」

恭弥はそう言いながら卵を手に取り、器用に片手で割ってボウルへと落とした。

そしてそれを菜箸でチャキチャキと混ぜ、軽く熱していたダシ巻きフライパンにじゅぅぅっと流す。

無駄のないその動き。
…一流料理人のよう。


「き、恭弥って…、」

「なに。」

「料理うまいんだね…。」


私が自信をなくしてしまいそうになるほどの腕前。
味噌汁はダシから作りますワカメも豆腐も葱も。
サクサクサクサク、ひとりで片付けていってしまう。


「そんなことは…ないけど。」

誉められるのが苦手な恭弥は私の一言に微かに俯き、

「ほら、サボるならきんぴらごぼうの人参切ってよ」

…あくまで、料理が恭弥ほど上手くない私にも手伝わせる気らしい。


「はいはい…、」

「返事は一回。」

「はーい、…」

「短く。」

「はい。」

「よろしい。」

「…」


少々カチンとするやり取りをした後、私はゴボウをまな板の上に乗せた。

ゴボウって、さ。
丸くて長くて固くて…、
切りにくい。


「うっ、よっ、ほっ!」

「それ何の物まね?」

「違うわ!」


私がゴボウと葛藤している最中にも、彼は易々とダシ巻きを巻いていく。

うぅ、くそ!
なんなんだよ、このごぼうは!私に切られたくないっていうのか!
それとも細切りが嫌か?横に切って欲しいんか!?

ぐぬぬ…と力んでゴボウを睨む。…あ、ゴボウの模様が今顔に見えた!


「……ぅがッ!」

と、思った瞬間にはもう、ブツリ。

ズッパリ切った親指の腹。(何でよりによって血の気の多い親指を……。)


「何なの、次は奇声の練習?」

ホカホカの黄金色のダシ巻き玉子を前に、あきれ顔の恭弥。
さっきからいいにおいがプンプンするんですがー。


「ちょっとドジ踏んじゃったよハハハ…」

軽く血の流れを止めながら、傷口を心臓より上へ。
重力に従って血液は地球の中心へと引きずられ。


「ってぇなぁ…、」

無言で驚いたように私の傷口を見つめる彼に苦笑い。


「ごめんだけど恭弥、そこの引き出しにエタノール入ってない?」

このまま動くと、後のカーペットの掃除がややこしくなりそうだ。いま一番自由の利く彼に頼みごと。

「…え?あ、うん、」

はっとした恭弥が私の指示どおりに動く様が、妙に可笑しかった。

流し台に滴る。
こりゃかなり深く切ったな。畜生、あのゴボウが。


「これ?あったよ。」

ほんの数メートルを小走りで駈けてくる彼に、本当にこいつお兄ちゃんかなぁなんて思ったり。


「ありがと。ドバッと一思いに掛けてくれィ!」

意外と消毒なんて痛いもんだと目を瞑る。(注射のときは刺されるところを見ない。だって痛そう!)


「……」

しかしいつまでも痛みが来ない。おい、私の緊張感を返せ。

「ちょっと、恭弥、」

見ればまだ、私の傷口から溢れる血をマジマジと眺めている最中で。


「……あの、」

そんなに見られるといくら血でも恥ずかしいんですけど。むしろ私の内部を曝け出してるわけだから。


「……」

尚も視線を外さない彼。

オイオイ、まさか変な世界に目覚めちゃったりしてないだろうな。
言っとくけどNだよ。君はそりゃSかもしんないけど私はMじゃないから!
ノーマルだから!


「もーいいよ。」

いい加減彼に痺れが切れてエタノールを奪い取って、手を引っ込めようとする。
しかしそれは、彼に手首を掴まれた状態ではどうにも無理な話で。


「恭弥、いい加減に…!」


「君の血を見てたら、何か不思議な気分になってきた。」


「!(ウワァァァ)」

来た!S発言きた!
あああ神様今すぐ私にこのサディスティックエゴイストを倒せるくらいの力をォォ!できれば、ええ、もう一匹倒せるくらいの力も欲しいんですけどォォ!


「違う、こっちの方だよ」

ぷちゅ。可愛らしい音が、まさしく私の頬のすぐ隣で、した。


「……は、」

一瞬、フリーズ。
目の前に映るは「別段なにもしてませんが」的なキョトンとした彼の顔。


「ハハ、アハハハハ…、」

引きつった頬に、何故か自然と笑いが込み上げる。
それに気分を害したのかムッとした表情になった彼。

ああ、もう!
これだからスキンシップの限度を知らん外国人は!
(いや日本人だが外国国籍のやつが!)


フリーズから解放されて一気に、何故かキョウヤにキスされてしまったときよりも顔に血が集まるのが分かった。


「さぁ、仕上げだね。」

って、今度は一人でキンピラゴボウも作っていく。
私はそれをすぐ後ろのダイニングテーブルで座って見ていて。


「畜生、」

危なっかしくて見てられないから僕に任せろだと。
だったら最初から自分で作ってろばーか!って、


「ぜんぶ聞こえてるよ…」

ふちゅ、なんて今度は反対側の頬であり得ない音。

「き、恭…っ!」


『ちとせー、朝ごはん出来た?』

次は最悪のタイミングで弟のキョウヤが乱入。
まさかさっきの、見てないだろうなぁ、なんて。



朝から私の心臓は、保ちそうにありません…。




――――――――――……



本当のキスよりほっぺたの方が、何故か恥ずかしい。




continue…

ほっぺたキスってエロいっすよね……(*ymy*)
間接キスとかもそれなりにエロいけど…。
…やっぱ何がエロいって、はだけと同じだよね。
露骨に裸じゃなく、あえてのチラリズム…(m'□'m)
露骨にディープもいいけど、触れるだけのほっぺたキスに切なさと優しさが…。
あの唇の感触とかまだ口にキスもできない恥ずかしさとかこれからの期待とか。
むっはぁぁあッッ!!
やばいなんか変なスイッチがァァア!!

ではまた次回!


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