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アブノーマルライフ!
第六夜








…勉強会の次の日。

もう朝の8時を過ぎているというのに、私はいつまでもグズグズと自室に籠もっていた。

…昨日、のこと。


恭弥に勉強を教えてもらったあと、寝てしまった彼を起こそうとして、……

ほ、ほっぺに、恭弥が…、
き、キスしちゃった…!


「…うぁぁ…っ、」

私は毛布の中でのたうち回る。恥ずかしくなると奇行に走るのは万国共通に思う。

これくらい、普通のことなのか…?
ほっぺくらい。
だって恭弥は寝ぼけてた訳だし、ほっぺだし…、

これくらいで意識しちゃうなんて、私も女の子になったものだ。


―――――――……



『ちとせ、ごはんまだ?』

こんこんと扉をノックされる音がして、二人が部屋の前に来たのだと分かる。
(ドアを破壊されてから、私の部屋の扉はかなり丈夫な素材に変えた。)

もう時刻は8時半過ぎ。
随分と寝かせてくれたらしい。気を使いなのは双子の共通遺伝か。


「…まだ寝てるんじゃないの?」

恭弥の、声。
どきんと心臓が波打った。


『昨日遅くまで勉強してたらしいね。』

「…まぁね。途中で寝てたら叩き起こされた。」


…そう。
寝ぼけられてほっぺにキスされてから、つい頭にカッと血が上って彼を叩き起こしてしまったのだ。

恭弥は「もう少しマシな起こし方なかったの。」って不機嫌になったけど、そのときは真っ赤になった顔を見られたくなくて自室に駆け込み。

当の本人は全く覚えてないみたいで。


『…はぁ…、僕が勉強教えてあげられたらよかったんだけど。』

キョウヤがため息をつく。
よく二人とも、私の部屋の前でペラペラとしゃべるものだ。


「キョウヤ、勉強苦手だもんね。」

『うん…、』


…あ、なるほど…。
そういうことか。
だから昨日、私が勉強分からないって言ったときに何も言えなかったんだ。

なんて彼の行動の意味を理解して、じゃあ恭弥が不機嫌にも勉強を教えてくれたのはキョウヤが頼んだからなのかも、なんて思ったりしながら。


『…僕も、ちとせに勉強教えられるくらいになるから。』

「そ、頑張って。」


ちょっとだけキョウヤは恭弥と張り合ってるのかも、なんて仮定してみたり。


そろそろ部屋から出なくちゃ、またドアを破壊されかねない。


―――――……



「おはよー」

『あ、ちとせ遅い。』

「ごめんー、なんかすごい眠くってさ。」

「…お腹空いた。」

「はいはい、すぐ朝ご飯作るね。」


恭弥の顔を見るとなんだか恥ずかしいから、先頭切って階段を降りていく。

テーブルの席順は私の前にキョウヤ、キョウヤの横に恭弥なのだけれど。
このときばかりは、いつもはうるさいキョウヤが前にいてくれて有難いと思った。


『ん、…おいしい。』

キョウヤがだし巻きを口に含んで、ほんの少し顔を綻ばせる。

「ありがとー」

今日はちょっと砂糖多めにしたんだよ。
(私は塩派なんだけど、二人は砂糖派みたいで。)


私も焼き魚を食べようと、テーブルの真ん中あたりの醤油に手を伸ばす。

ただ恭弥も、丁度同じ事を思ってたみたい、で。


「あっ」

「あ、」

ぴとっ、て、二人の手が少しだけ触れ合う。

…途端、ボンッ!って音をたてる勢いで昨日のことがフラッシュバック。

あのときの恭弥のくちびるの感触やら体温やらトロンとした瞳やら。
まるで今起こったかのような鮮明さで頭を駆け巡る。


「ごっ、ごめん…っ!」

あわてて手を離した。
もしかしたら顔赤いかも。
こんな事くらいで…っ!


「先、使っていいよ」

「い、いいよ!恭弥が先に使って!」

「…そ、じゃあ遠慮なく」


彼が醤油をとって焼き魚にかける。すぐまたポンと私の前に置いて、どうぞって言われた。


「あ、ありがと…、」

そうは言われたものの、…使えない。
だって私は、きっと赤くなっているであろう顔を隠すのに必死で。

き、キョウヤ先使って…。なんて動揺気味に言う。

キョウヤは不思議(怪訝)そうに私を覗き込んできたけど、恭弥の方はちっとも気付いた様子がない。
(本当に彼は、今どき天然なのかもしれない。)

私は火照る頬を覚ますように冷たいお茶を一気に飲み落とした。



――――――――……


問題はまたそんな日の夜。



『恭弥と何があったの?』

「………、」

彼は夜行性なのかどうなのか。
朝は常に眠そうなのに、夜になると爛々と目が光るタイプだな、なんて頭の片隅で考えながら、私は身体の危機的状況脱出について思考している。


「ひとまずは退いてくれるかな。」

『イヤ。』

「…だろうね。」


はぁ…、なんて溜め息は、キョウヤが自室に無断侵入してから何度目だったか。


つまりキョウヤは、私の上に乗っかっているわけで。

部屋にノックもなしに入って来たかと思えば、「どうしたのキョウヤ?」という当然とも言える質問も無視して。
雑誌を広げて、うつ伏せで肘をつく私の背中に乗ってきたのだ。


「…重いんだけど。」

重くないけど、言ってみる
(だって私より軽いみたいだから。)


『恭弥と何したの。』

キョウヤはもう一度、繰り返した。
さっきとはどこか違うような、怒気を孕んだ口調。


「な、なにって、何よ、」

とりあえずはとぼける。
ヤバイぞなんだこの状況。

(まさか恭弥が私にチュウしたのを見て『それは僕だけの特権なのに!』なんて思ってたりして。だとしたら私が邪魔者みたいだ。)


『とぼけないで、恭弥と何かあったでしょ!』

キョウヤが声を張る。
大きな声ではないけど、彼にしては感情的だ。

…やはり、知ってるのか。恭弥が私に間違えてチュウしたのを。


「ま、まって、あれは事故ってやつで……、」

『何したの。』

弁解を試みるが余地はなく、彼は冷淡に言う。


「恭弥が寝ぼけて、チュウ、しちゃって、……」


私が言い終えるか終えないかと言うところで、急に背中があったかくなる。


「…えっ、ちょ…っ、キョウヤ…!」


彼が背中越しに抱きついてきたのだ。
首に腕を回されて苦しい。

…もしかしたら根本的に彼は意味を取り違えてるのかも。
チュウをほっぺじゃなくて唇にだとか、寝ぼけを言い訳だとか。


「き、キョウヤ、話せば分かるから一旦離して…!」

『だめ。』

「ダメ、じゃないよ!チュウってのは別に唇にしたわけじゃ」

ないんだってば!
って言おうとしたんだけどな。

気付けばうつ伏せを転がされて仰向けにされてしまって、今、もし部屋に誰かが入ってきたならば即刻失礼しましたと扉を閉めたくなるような体制に。

つまりは押し倒されたような体制に。


「ば、ばか!何すんの!」

『うるさい。…ちとせが、いけないんだ』

彼は言う。
一体私の何が悪いのか。


『ちとせが、恭弥と、そんなことするから…、』

一旦顔を下げた彼は落ち込んだのかと思えば、すぐさままた顔を上げる。
にやり、それはさながら契約を交わす悪魔のような笑みを張りつけて。


『僕らってさ、昔から何をするのも一緒だったんだよね。』

「………は?」

何を唐突に言いだすのだこの少年は。


『恭弥がやったことは僕もするし、僕がやったことは恭弥もする。』

「………、」

なにこの嫌な予感。


『つまり、さ。』

がしっと胸ぐらを掴まれて、ぐいっと引かれる。
パジャマが伸びそうだ。


『恭弥とそういうことしたなら、僕とも、しなくちゃね?』

なんて。
だからお前は誤解してる!恭弥とはチュウしたけどほっぺだし、しかも彼は寝ぼけてたわけだから!

口を動かそうと大脳へ信号を送る間もなく、
目の前は真っ暗。
文字通り、お先真っ暗、になっちゃって。

触れたくちびるの熱にどうしようもなく逆上せてしまったのは、それがファーストキスだったかも、とか。


さらば平穏な私の日常…。



――――――――………



恭弥とだけなんてずるい!




continue…

はい、……はい。
なんだろう何か。
何かが根本的に違う。
ツインで出したいのにいつの間にか単体。
ひばりんが二人もいると濃すぎてストーリーにならない気がする。
…あからさまに、
今回キョウヤは「キス」って言いませんでしたね。
最後まで「そんなこと」でした。
特に意味はないですけど、単にキョウヤが恥ずかしいからキスって言わないってだけみたいな感じで。
…したくせにね。
するのはいいけど、いざ言ってみろと言われると恥ずかしくて言えない。
好きだから一緒にいるけど、好きとは言えない。
みたいな。似てますねなんか。

ではまた次回!
誤字脱字批評はこちらまでお願いします!



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