アブノーマルライフ! 第五夜 そんなこんなでハチャメチャですが、 学生である限り、平凡な私にも回ってきます。 …回ってきました、 Let's勉強ターイム…。 ――――――――…… 「いいかい?要点はここ。掛けて14、足して9になる数。こういうのは掛けて14になる数の組み合わせの方が少ないでしょ?」 「……、?」 「つまり、掛けて14になる数の組み合わせから、足して9になる数を選んで絞り込むわけ。」 「は、はぁ…、」 「……分かってる?」 「ごめん全っ然。」 「チキン頭。」 「否定できないのが屈辱的…!」 来ました来ました。 …勉強日和! 朝から曇りで憂鬱で、そのくせ宿題だけはたっぷりある日! 最悪最高の勉強日和。 私は嬉しいやら悲しいやら、半分目に涙を浮かべてシャープペンシルを握っている。 …白くて大きい机はダイニングテーブル。 ただの勉強机じゃ小さすぎて間に合わない。 溜りに溜まった宿題の圧力で机が潰れそう。 「じゃあこれ、共通因数は?」 「ぇ、えー…と…、」 「何?こんなのも分からなくなっちゃった訳?」 「ううん…、」 「じゃあ早くして。僕だって暇じゃない。」 「いや、共通因数って…なにかなぁ、と…、」 「……。」 「スイマセン…、」 恭弥は両手で頭を抱え、ハァと盛大なため息を吐く。 さっきからこんな会話ばかり。 勉強会が始まってから、一度も私は正解が取れていない。だって学校の範囲外なんだよ! …私もそう恭弥に言ったのだけど、恭弥は聞き入れなかった。 「何を言ってるの、予習復習は当然でしょ。」 って。 (恭弥って無駄にしっかりしてるなぁって思う。) …なんで、こんなことになったんだか。 私は、未だに解けない問題(4χ2乗ナントカ)のページをペラペラと指で遊んで、事の発端を回想してみる。 確か、あれは。 「はぁ……、」 キッチンで晩ご飯の支度中。まな板で玉葱を切り刻みながら。 『どうしたのちとせ?ため息なんてついて。』 相変わらず私にばかり構ってくるキョウヤに比べ、珍しくリビングで読書中の恭弥。 「いや…、何でもない…」 『何でもないのにため息つかないでよ。』 「……、うん、その…」 私は玉葱に目をやられたせいで涙腺がゆるんでいて、そのためか、精神的に参っていた。 …人に弱味を見せたい年頃なのだ。そうに違いない。 (でなきゃキョウヤにこんな事…。) 「実は…勉強が、分かんなくて…、」 …再度ため息をつく。 本当に本当。 平凡でなにをやっても平均的な私だけれど、これに関しては群を抜く出来の悪さだと思う。 ひどいもんだ。 英語はbe動詞の使い分けが分からないし、数学はもう壊滅的で意味不明、理科は低気圧やら高気圧やら遠い話ばかり。 国語は漢字力も文章力も皆無で不変、社会に至っては公民まで出てきて死にそうである。 有名な家庭教師もアテにならないしナントカゼミだって無駄。続かない。 「もう本当、どうしよう……。」 お先真っ暗!な人生に半分笑いが込み上げる。 『……、』 キョウヤは何かいいにくそうに口をもごもごさせたけれど、結局なにも言わなかった。 …取り敢えずは、溜まった宿題を持ってこよう。 話はそれからだ。 …というのが始まり。 その後リビングに戻ればキョウヤの姿はなく、かわりに不機嫌な恭弥だけがひとり、ぽつんとダイニングテーブルに着いていた。 「……早く座りなよ。」 「えっ、は、はい…。」 うわ、なんで敬語なんだ。 仮にも私たちは(多分)同い年。敬語を使う必要なんてこれっぽっちない。 しかも向こうは居候の身。立場としては私が断然有利なのだ。 …なのに。 「(何か苦手なんだよなぁ…こいつ。)」 近寄りがたいというか、怖そうというか。 絶対的遮断力を持った球体の中にいるみたいな? 誰も、今まで受け入れた事がないみたいな。 「…あ、あのー…」 「…何。」 うっわ私マジでこいつ苦手だわ。 すっごい不機嫌じゃん! (キョウヤと喧嘩でもしたんだろうか。…案外、仲良さそうに見えたけど。) 私は「やっぱいいや!」と軽く流して、分厚い問題集を開いた。 …P12から。 最大公約数?最小公倍数? わからん。 まず公倍数って何だ。 公倍数って購買吸う?だったら簡単なのに。 「違う。公約数はその2つの数で共通に割れる数だよ。」 「…あ、なるほどー…」 「で、最小公倍数はその2つの数に共通する一番小さな倍数のこと。」 「……え、…、」 「なに、今の説明じゃ不服?」 「いっ、いや、まさか!」 そうじゃないそうじゃない!私が言いたいのはそういう事じゃなくて…! 「僕が勉強出来たらおかしいかい?」 「いやいや滅相もない!」 むしろ出来るようにしか見えないデスヨ! この性格で馬鹿だったら最悪だもんね。 違う、そうじゃなくて。 「恭弥が人に勉強教えるなんて…なんか、イメージと違ったなぁって。」 「………。」 彼は私の言葉を聞いて少し首を曲げたあと、やっと理解したのか、慌てて顔を逸らした。 …頬が赤く見えるのはリビング特有の暖色電球のせいか。 (彼って意外と天然なのかもしれない。) そのあと恭弥はまたすぐ不機嫌になって、「はやく宿題すませてよね。僕だって眠いんだから」と欠伸。 時刻はすでに11時過ぎ。 いつもなら10時半には就寝してる恭弥。 (キョウヤは12時以降も起きてたけど。) なかなか無理をさせてしまった。自分のためにこんな遅くまで勉強に付き合わせてしまって。 「…ん、じゃあ今日はもう終わろっか…、」 言い掛けて、最後の方はほとんどため息みたいに消えてしまった。 …恭弥が、テーブルに突っ伏したまま寝てる。 すぅすぅ、なんて規則正しく背中が上下して、いつもは吊り上がった目も今回ばかりは大人しく。 「……、」 出会ってほんの数日しか経っていないのに、彼はこんなに頑張ってくれて。 しかも落ちこぼれの私なんかのために。 今日は素直にありがとうが言えそう。 私は椅子を立って恭弥の横に行き、男の子にしては華奢な肩を揺らした。 「恭弥、風邪引くよ。」 「……ん、んぅ…、」 …その時彼は、寝ぼけていたのか。 夢の中で、違う誰かを見ていたのかもしれない。 「…わっ、ちょっ、」 「…っん、」 唐突に腕を引かれ、そのまま彼と向かい合わされ… く、唇が…っ、! 「おやす、み…、」 「…っ!」 また再び夢の世界へ舞い戻ってしまった彼に、私は呆然と立ち尽くすより他なかった。 ―――――――――…… ……眠い。 continue… うお!? なんか私自身、予想だにしていなかった展開ですね。 恭弥絡み、いかがだったでしょうか? 恭弥はキョウヤと違い、かなりしっかりしている反面、ちょっと天然ぽい所も。 何気にツンデレ?多分、お酒とかには極限弱いタイプでしょうね。 …とか何とか妄想中。 キョウヤと恭弥が絡めばいいんじゃないかと近頃模索中です。 ではまた次回! [*前へ][次へ#] [戻る] |