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アブノーマルライフ!
第三夜









―「ぼく…君のこと好きになっちゃったかも…、」

―――………、。


昨日の夜は、最悪だった。

運悪く開けてしまった真夜中の部屋の扉。

キョウヤの言葉。


まさか、私だって本気にはしちゃいない。


あるはずないんだ、こんなこと。

なんで私みたいな、オシャレにも興味無い、美容にも勉強にもスポーツにも興味無い私なんか。


本気にするようなことじゃない。

それを呪文みたいに繰り返して、いつの間にか寝てしまって、明けた。


―――…


そんな最悪な夜の朝もまた、

最悪に違いない、から。




『ねぇ、なかなか起きないんだけど、ちとせ』


「…咬み殺せば」


『朝からそんな体力使いたくない』


……夢の中のはずなのに、やけに鮮明に聞こえる声。

おかしいな、部屋のカギは寝る前に掛けたはずなんだけど。


「…じゃあキスでもしたら起きるんじゃない?」


『あぁ、成る程ね』


そうかー、これ、夢だもんな。現実じゃないんだ、カギくらい気にしてどうするよ。


ベッドにギシリと重みが加わる。
瞼の向こうの光が遮られて、頬にサラリとした柔らかい何かがあたった。


…待とう、夢であろうとこれはおかしいぞ。

なんでこんなアダルティな夢を……?


私は痛い瞼を、まだぼやけてハッキリしない頭で無理矢理開く。何故って身体の危機だから。


『あれ…』


目の前に見えたのは黒。

どうやら頬に当たったのは髪らしい。

……なんだろう。
あだるてぃ………。


『つまんない。起きちゃったよちとせが』

あからさまに口をへの字にして不機嫌になるキョウヤ。ただし、ベッドからは降りてくれない。


「まて、何してんだお前」

「ちとせを起こしにきたんでしょ」


聞いたキョウヤではなく、ベッドの横で立ちながら読書をしていた恭弥が答えた。

二人とも、ワイシャツにズボンといった至ってシンプルな格好。

互いに胸ポケットに差した赤と青のペン。

私の上にいるのがキョウヤで赤。
隣でまだ読書している恭弥が青。


「…なんで私の部屋に入ってんの、」


『さぁ?ちとせは無用心だね、あんな簡単なカギ付けるなんて』

「そうそう。ドアノブ壊したらすぐ入れたよ」


「は?こ、壊したって…」

のそのそと起き上がって、ドアの方を見る。

……散らばった、無残にも折り曲げられた…。
ドアノブとその破片たち。


「…は、…ぇえ!?」


「ねぇちとせ、僕お腹空いたんだけど。」

『あ、僕も空いた。ちとせ、はやく朝ごはんしてよ』


私がドアノブの破壊とその損害賠償で混乱しているときに、双子が場違いな事を言い出した。

どうもこいつらは、小さい頃にちゃんとした躾を受けなかったらしい。


「自分らで作りなさい!」

家まで壊して、さらには朝からキスだのなんだの!

あまりの常識の無さに朝からブチギレた。


「何言ってんの、僕らの世話をするのは君でしょ」

あぁちとせ、僕は朝ごはん和食だからね。


なんて偉そうに注文して部屋から降りていく恭弥。
トントンと階段を降りるリズミカルな音が遠ざかっていく。


………途端、シーンとする部屋。

キョウヤと私の二人きり。



…な、んか、思い出しそう昨日の事。



「…いつまで乗ってんのよキョウヤ。降りて」

でもとりあえずは朝食。

あの恭弥のことだ。
いつまでも朝食が出てこなかったら暴れ出すに違いない。


『…ねぇ、ちとせ』


突然、低くなる声。
ドスがきいたのとは違って、全身を、震動させるような。

私も起き上がっているとはいえ、まだキョウヤの腕に両側を閉められてベッドの上だ。

あぁ、デジャヴ。
昨日の体勢とさほど変わらない。


「な、なに…よ」

どうしよう、恥ずかしいのに……目が、逸らせない。


『昨日言ったこと、覚える?』


「…………、」


『あれ、本気だから。冗談とかで片付けないでよ』


ピン、と長い指先を私の鼻先に向けて、口を尖らせた。

「………。」

私はといえば、そんな言葉にやはり唖然と口を開けて、朝食早くしないとと頭の隅で思っている。


『じゃ、そういうこと』

言うこと言ったキョウヤはおとなしくベッドから降りると、部屋の入り口でもう一度振り返った。


『忘れてた。おはよう、ちとせ』

にやっ、と意味ありげに笑ったかと思うと、やはりキョウヤも恭弥同様、トントンとリズミカルに階段を降りていく。


部屋には私が一人きり。


顔にこそ出ないものの、
無性に高鳴る心臓を抑えて、朝食を作りに階段を降りた。



――――――――……



時効は5時過ぎ。




continue…

なんて馬鹿な子なんだろうわたしは。

ではまた次回!

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