アブノーマルライフ! 第十一夜 き、きまず、い…。 重い沈黙と視線が、私を押し潰さんばかりだった。 恭弥は何も言ってこないが、どうにもこの無表情だけは慣れない。 (妖しい笑みでも表情として表してくれるだけキョウヤの方がマシだ) ハンバーグのひき肉を丸めながら、チラリと横を見る。 相変わらずフライパンを温めながら私を見ているばかりで。 「あ、の……」 「なに」 「さっきのは…」 誤解、だからね。 別にキョウヤのこと襲ってたわけじゃなくて、…というかむしろ私が…… 「ああ、君が襲われてたんだ」 「いや…っ、べ、別にそういうわけでもないというかっ」 なに言ってんだ私っ! 襲われかけたことにはもう触れないって決めたじゃないか! (平和主義=ことなかれ) 「ふぅん…庇うんだ」 彼のギロリと尖った目に、態度には表さないながら冷や汗が出た。 だから恭弥が突然「僕はゴ〇ゴ13だ」って言っても多分驚かない。だってそれほどの殺気を彼は持っているのだから。 「か、ばうとか…」 そういうことじゃなくて。 パン粉を付けながら俯く。 恭弥は、納得できないような顔をして。 「……ふぅん。まぁ、僕には関係ないけどね」 「う、うん…」 あっさりと逸らされた視線に、何故だかズキンと痛んだ胸の奥。 ………なに。 ズキン? (え、やめてよ止めて。なにこのベタな王道?いやだ私はこんなパターン化されたことなんてしたくない) じぅぅうっと美味しそうな音を立てて、油を跳ねさせながらハンバーグが踊る。 「……でも、」 君がキョウヤのものになるっていうのは……──。 「え、なに?」 「何でもない」 「…あ、そう、」 「よそ見してると焦げるよ」 「は、はいはいっ!」 端が焦げかけているのに焦って、あわてて火を止める。 「あちちっ」 フライパンの持ち手は自分が思っていた以上に熱かったらしく、反射的に手を離した。 「何やってるの…」 呆れたようにため息が聞こえる。ごめんなさい。 口調が過保護な母親そっくりだ。 「もうこっちはいいから、君は手を冷やしてて」 ふわっ、と優しく体で押し退けられて、水道の方に持っていかれる。こういうとこは、キョウヤより…。 いや、いやいやいや。 やめろ、もうこれ以上何も考えるな。 「あ、ありがとう、じゃあ、キョウヤのとこ持っていくから!」 逃げるように、彼から離れて行った。 「今度は君が襲わないようにね」 「わっ、分かってます!」 ─────… 「キョウヤー?」 「ん…」 「ハンバーグ作ってきたけど……食べる?」 「食べる」 やはり食べるらしい。 大丈夫だろうか、本当に。 「ちとせが食べさせてくれるなら」 「心読まなーい」 そう言いながらもハンバーグを小さく切って一口大にしておく。 仕方ないなぁもう。 (頼られると断れない気弱なヤツ……) 私はどうにも、この弟に弱いらしい。 「はい、あーん」 「ん…」 まったく、こうやっておとなしくしてれば可愛いのに……。 「じゃあ、そろそろデザートを頂こうかな」 くんっ、と襟元を引っ張られて、目の前にキョウヤの顔。 ああ、やられた…と思っても刻既に遅し。 さっき食べたデミグラスソースの匂いと石鹸の香り。 キスされた。 「ちょっ、キョウヤ!」 あわてて身を引く。 さっきの恭弥の声が頭で反響した。 「まさか、さっき襲われた男の部屋にまた一人で乗り込んでくるなんてね」 「そ、れは……」 …うっかりしてた。 恭弥と気まずくて、半ば逃げるように来たから。 私は重要なことを失念していたようだ。 どれだけの高熱に侵されようと、彼が雲雀家の血筋であることを。 彼が最強にタチの悪い、負けず嫌いであることを…! 「さて、どうしてあげようかな」 「(ぎゃ──っ)」 目がマジだ! さっきのパターンと同じ。 ジリジリ、と座ったままの私は壁に追い詰められ、彼も四足歩行で私を追い詰める。 や、やられる…!? そう思ったとき、 ──ちゅ、 「………へ、?」 「間抜けな顔」 反射的におでこに手をやる。今、キョウヤの唇が触れていたところ。 「な、なな……」 かぁぁあっと頬が火照った。私は一体、彼に何をされるつもりだったんだ。 「今日は多分、途中で体力が切れるだろうからね」 じゃあおやすみ。 唖然とする私に背を向けて、キョウヤは布団に潜り込んだ。 しばらくボーっとしていたが、突然私は恭弥を放置していたことを思い出し、慌てた。 空っぽになった食器類を盆に乗せ、部屋を出た。 病人のくせに! continue… ぐだくだじゃん。 誤字脱字、辛口評価、 お待ちしております。 [*前へ][次へ#] [戻る] |