執事雲雀(完)
過去は道になり、
「ひば……あ、」
呼び掛けた彼の名が、途中で途切れる。はっとして口を抑えるも時既に遅し…。
(会話の厄介なところは、口をついて出た言葉たちに保険がないところだ。言葉が声として出た瞬間に、待った無しで相手に伝わってしまう。)
「またか…」
呆れたように彼が頭に手を当てるけれど、こればっかりは仕方のないことだ。
「ごめん、…恭弥。」
まだ呼び慣れない下の名前で彼を呼ぶ。
もうすぐ、…もうすぐ雲雀という名前ともお別れなんだから、早く僕自身の名前を君に呼んでほしい。
彼はそう言うのだけれど、どうも長年のクセで、彼を呼ぶときは雲雀と言ってしまう。
「…ちとせ、」
雲雀はもう随分前から、私自身だけの名前で呼んでくれているというのに。
「綺麗だよ。」
アップしてもらった髪の毛、メイクさんにしてもらった華やか清楚メイク。
純白の、ドレス。
「すごく綺麗だ…」
いつもの無愛想な表情は、今日はなく。代わりにとても優しい目、まるで私が愛されているような声で、彼は私を呼ぶ。
「愛されているような、じゃなくて、愛してるんだけどね。」
「う、ん…」
彼に心を読まれてしまうのはこういうとき、ちょっと厄介だ。
心の声に答えられて恥ずかしい反面、安心にも似た感覚が胸に広がった。
落ち着け、落ち着け。
見慣れない彼のタキシード姿に、ああ私はこの人のお嫁さんになるんだな…なんて幼稚園の作文みたいな事を考えて、改めて何故か恥ずかしくなってしまった。
初恋の人と、好きな人と生涯一緒にいれることが、こんなに嬉しいことで、こんなに照れくさいことだなんて。
「ちとせ、ねぇ」
ぽうっと幸せに浸っていた私は、肩に置かれた彼の手で控え室に意識を戻す。
「は、はい…っ」
…あえて敬語。咄嗟に出た返事が敬語だなんてちょっと間抜けだな…。
(これからは主人と執事じゃないね。私たちは、対等な立場になるんだから。)
「…ねぇ、キスしよう。」
「う、ん……、うん?」
唐突に言われた言葉。
まだ頭にちゃんと意識が戻ってきていないのか、今言われた言葉の意味が理解できないのだが。
「ごめん、よく聞こえなかった。」
だって今から結婚式、だもんね。
あり得ないよね、もうすぐ誓いのキスなわけだし、今更何を。
「キスしよう、って言ったんだけど。」
「…空耳かなー。」
だから今から結婚式だよね。そう言ったよね私。
軽くあらぬ方を向いて彼の戯言をやり過ごそうとするけれど、彼は彼で大真面目で。
「あんな群れの前で誓いのキスなんて、考えられない。」
僕は君と永遠を誓うためにここに来たんだよ。
…他の群れに見せるような安易な誓いじゃないんだ。
とやけに真面目な事を言う雲雀だけど、頬が紅くてはその言葉に真実味はない。
単なる言い訳、ですか。
「…恥ずかしい?」
みんなの前でキスするの。
そう問えば、尚更赤くなる彼の頬。それに比例して深くなる眉間の皺。それなのに、吊り目だけは反比例して鋭さが無くなって。
ああそんなところは、昔と全然変わってないよ。
あれだけ強引なのに、いつもどこか奥手で、照れてばかりだったね。
「ふふ…、」
「ちとせ、怒るよ。」
たえられなくて零れた笑い声。あれから10年も経ったのに、相変わらず私たちの間に愛は存在し続ける。
二人とも口にはそんなに出しはしないけど、でも大切なときには、ちゃんと言ってくれる彼が好き。
くすぐったくて暖かくて、ああこんなことがずっと続けば…、なんてそんな心配すら溶かしてしまうようなこの気持ちが、きっとそれなんだろう。
「ちとせ。」
今度は、はっきり。
目的を持った声で。
「今、二人きりで誓いたいんだよ。」
つい、と持ち上げられた顎はとても優しく。
いつもの、少し無愛想な顔が見て取れた。
その真剣な雰囲気におされて、私は目を瞑る。
「僕はずっと…」
その先に何を言われるのかと少し期待したが、言葉は続かず、重なる唇。
それは本当に本当に軽いもので、逆にこちらが拍子抜けしてしまうほどだった。
「さっき、何言おうとしてたの?」
私は訊く。
「ん、それは、秘密。」
彼は意地悪に笑って、ちとせはまだ知らなくていいよ、と笑ってみせた。
有言実行の彼だから、きっと誓ってくれたことはちゃんと守ってくれるよね。
「ありがとう、恭弥…」
「…、うん、別に。」
今度は自然と、彼の名前で呼べた。まだ何か違和感があるけど、恭弥の嬉しそうな顔見たらそれも吹っ飛んじゃった。
「大好き。」
「うん、知ってる。」
まだ見つめ合ったままだった私たちは、その沈黙を埋めるようにもう一度……
「いやー、お熱いことで」
「え…?」
「何?」
「今恭弥なにか言った?」
「何も。」
「言いましたよ、僕です僕!」
「じゃあ空耳かな…」
「ちとせ今日は空耳多いね。」
「空耳じゃありません僕です!六道骸!」
先ほどから入り口付近に気配はしていたものの…。
「空耳じゃ、ないっぽいね……」
「こんなときまで…」
「クフフ…神出鬼没とは僕のことです。」
改めて存在を確認すると、本当に嫌になってきた。
空気が読めないんですか。SKYですか。
「いえ、たまたま式場の前を通りましたら、見知った顔を見かけましてね。」
沢田綱吉と他二人が喧嘩をしているところでした。
と言いながらちゃっかりスーツの襟を直しているのはどちら様でしょう?
あからさまに準備してきましたよね。髪の毛のセットきまってますよ。
「僕たち、君に招待状は出してないよ。」
住所知らなかったし。
(本当はちとせと二人で神社でやるつもりだったのに。)
(私はドレスがいいのっ、なんて言われて僕はどう対応すればよかったのさ。)
「招待状がなくても、祝いの気持ちはありますから」
なにも邪魔しようなんて考えていませんよ。
骸くんは部屋に備え付けてあった鏡の前で、また髪型の手直しをする。
「さっき僕らの邪魔をした奴が言うな。」
と雲雀…あっ、恭弥も毒づくけれど、内心は見せつけてやれて嬉しいんだろう。
さっきからお花舞ってますよ。
「だらしない顔しないでくださいね雲雀恭弥!」
そんな嬉しそうで弛みっぱなしのライバルなんて僕は嫌ですよ。
まだ髪のセットをしながら、振り向きざまに骸くんが言う。
骸くんはあの日以来、ぱったりと姿を見せなくなってしまったから、今日会うのは本当に久しぶりで。
でもそんな気持ちすら感じさせないのが、骸くんだ。
骸くんが私たちを結んでくれたんじゃないかなぁ、なんて今では何となく思うんだけど、実際はどうか分からない。
ただ骸くんの頭に付いてるピンクの花びらが、私たちのために買ってくれた花束の花びらだったらいいなって思う。
「恭弥さま、ちとせさま、そろそろお時間でございます。」
部屋の扉からひょっこり現れた式場管理の人に、笑顔で答える。
「あっ、骸!こんなとこにいた!」
その人の後ろに続いて現れた沢田くん(恭弥と一緒に働いてるひと)。
「テメッ、新婚の邪魔するなって言っただろ!」
「まぁまぁ。なぁ、あっち一緒に行こうぜ!」
「マキシマムキャノーン!!」
「てめーら骸さんに指図してんらないびょん!」
「犬うるさい。」
「なんれオレらけ注意すんらこのもっさメガネ!」
と続いて獄寺くん山本くん笹川くん城島くん柿本くん城島くん………。
あれ城島くん二回目?
一気に賑やかになる控え室に、いつの間にか無言の恭弥。
見上げれば、既にトンファー装備済みで。
…あ、やばい。
「群れるな騒ぐな。君たち全員、咬み殺す。」
「うわっ、ひひひ雲雀さんがキレたーっ!?」
逃げ出す人たち。
恭弥も行っちゃうのか…、と思いきやまだ私の隣で。
トンファーを仕舞いながらこっちを見る。
「さっき邪魔された分ね」
唖然としたままの私の唇にキスをして、「やっぱり静かな結婚式にしよう」とトンファーを構え直した。
私はそんな彼の腕に抱きついて、言ってやる。
「ねぇ、みんなに見せ付けてやろーよ!」
私たちのとびっきりの愛!
――――――――――……
そして未来は僕らが創る。
え・ん・ど?
という訳で、この話もようやく終わり?を迎えたわけだけど。
何?なんか文句ある?
そういえば今度ちとせと新婚旅行に…行くんだけど。羨ましい?
どこにしようかな…。僕は日本でいいと思うんだけどね、日本ってとってもいい場所だしね。
でもちとせが外国に行きたいって言うんだよ。
僕どうすればいい?だってちとせのお願いなんだもんすごく叶えてあげたいんだよ。
でもフランスなんてちょっとさ…、料理が香草やらオリーブばっかりでしょ?
合わないよ僕には。
…でもちとせの要望だし…。
僕には合わないし…。
すごく悩むところなんだけど、きっと奴ならちとせを優先させてあげるんだろうな。
何げにライバル宣言もされちゃってるし、何より僕はちとせを幸せにする義務があるからね。
ここは我慢するか。
並盛最強と謳われたこの僕が、たったひとりの女の子に適わないなんて。
僕は君と一緒になって随分と弱くなっちゃったかも。まぁいざとなったら君を守るためなら強くなれるんだろうけど、当分は君の幸せのために頑張るとするよ。
ああ、随分と惚気ちゃったね。そろそろ行かないと我が儘な僕のお姫様が怒り出すから。じゃあね。
は、い…。
すいませんごめんなさい。
多分ご期待通りのお話になっていないのではないでしょうか。
長いわりになんの山場もありませんでしたね…。
しかもスッキリしない終わり方!私、文庫本とか読んでてこういう終わり方が一番嫌いなんですよ!(じゃあ何故)だって楽だもn(〇=(・∀・*){ばかやろう)
ありがとうございました!
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