[携帯モード] [URL送信]

執事雲雀(完)
私と僕の気持ち







「ちとせ、これ…」


ああだめだ、とうとうバレてしまった。

骸くんから返してもらった私たちの秘密。
雲雀は心配するだろうからって、絶対に言わないでおこうとしてたのに。


「これ、誰が撮ったの?」

ふたつの封筒のうち、ひとつめの封筒。
そんなの、嗚呼、あの人に決まってる。

部屋に入ったり天井から写されてたり、方法は分からないが確かに彼はすごい写真を撮っているはず。


「そ、れは…」

絶望にも等しい答えだっだ。
私はいつ雲雀から、怒りの鉄槌(という名のビンタ)が飛んでくるかとびくびくしていたが、それはいつまで経っても飛んで来ない。


「…?」

恐る恐る見上げてみると、何故かそこには、少し嬉しそうな彼の顔。
益々わけが分からない。


「え、写真って…、」

少々背伸びをして彼の手元を覗き込めば、アラ不思議!

「…うわぁ、」

10枚ほどの写真。
写っていたのは全て私の写真で、しかも、目線の先が全て雲雀に向けられているものばかり。


「これ撮影した人、すごいね。」

なんて上機嫌に言う彼だけど、あれ?さっきの骸くんとの事件はどうした。
あんなに怒ってたのに。

「…、」

…でもそれすら、聞くのが躊躇われるくらい、久しぶりに見た彼の楽しそうな顔。

仕事中の雲雀を目に追う私や、学校の送り迎えの時、どこかへ行こうとする彼の背中を見つめる私…。


「このときのちとせ、本当に淋しそうだね?」

「ま、まぁ…。」


む、骸くん……。
(君の趣味って一体…、)
でもどうして、こんな写真ばかり。これじゃあ、いくらでも言い訳が立ちそうな写真。
証拠、いや私たちの関係を壊すためのものとしては、あまりに弱すぎる。


机に投げるように置かれた携帯のストラップ(骸くんとお揃いの)が、机の端でぼんやり揺れていた。


「もうひとつの封筒も見ていいよね?」

うん、と返事をする前にはもう蝋が剥がされていて。
早速私も、二人でベッドに腰掛けて見る。


「あ…」


時間、時間、時間…。
ふたりで過ごした長い時間が、そこには写っていた。

勉強を教える彼と、教えてもらう私。荷物を抱える彼と、上機嫌な私。チョコレートを食べる彼と、差し出す私。

「…。」

ああ、これは、私、どうして忘れてたんだろう。

何で一番に、雲雀に頼ろうって思えなかったのかな。
どうして骸くんに、心揺れたりしたんだろう。



彼は、嗚呼、彼はこんなにも…


私を想ってくれてるのに。



「……」

ひどい罪悪感と、やっと辿り着いた結論。
無口になってしまった彼を横目に見れば、彼も同じように真剣な、複雑な表情。

私は力なく置かれた彼の手に自分の手を重ねた。


「ちとせ…?」

はっとしたような、でもどことなくそうされるのを望んでいたかのような。
言わなければいけないことが、あった。


「その写真ね…、撮ったのは、骸くんなの。」

「…!」

ひどく焦ったような表情になって、また怒ったような顔をして立ち上がろうとする彼。


「ま、待って!違うの、」

慌て引き止める。


「骸くんが、気付かせてくれたの。」

私は、そう、まだ何も彼に伝えちゃいなかった。
もうこれ以上、気付かないフリして、引き延ばしたりなんて出来ない。


「私、やっぱり雲雀が大好き。」

「…、」

少しだけ、悲しそうな彼の顔。
自然と、握った手に力が入ってしまう。


「ちとせ、」

僕は、…僕は…、


彼は言葉を濁して、それ以上の言葉を繋がなかった。

分かっていた。
その先に続く言葉は、予想できていた。
彼が言いたい事は分かる。

「僕らが幸せに結ばれる事なんてない」。

パパが許してくれないよ。そう言うだろう。


そして彼は、私が予想した通りの言葉を…



「僕に付いてくる覚悟は、出来てるの?」



言いは、しなかった。


「覚悟…、」


私が重ねたはずの手を、いつの間にか彼に握り返されていた。
私みたいな、ほんの小さな人間の手を、両手で大きく包んでくれる彼の手。


「僕と一緒に、来てくれる?」

「ぇ…」


それは…それは、つまり…


「駆け落ちしよう。」

「!!」


彼の手にも力が入る。
緊張しているのか、先ほどからかなり熱い。


「……うん。」

しかし私には、もう迷う理由がなかった。

この歳で愛だの恋だのなんて可笑しいけど、初めてパパやママより、お金より、大切なものが出来た。

彼のためなら地位だって土地だって犠牲に出来る。
なんて馬鹿なことも考えてしまうくらい。



「え…、いいの?」


急な提案の急な了解に、戸惑い気味の雲雀。
ふっと手の力が緩んだのが分かった。


「私、雲雀と一緒に行くよ。」

「ちとせ…、」


やっと、私たちは結ばれる。
それは決して楽なものじゃないかもしれない。つらいかもしれない。
今まで温室で育ってきた私は余計だろう。
でもそれすら、彼となら乗り越えて行けると思った。


「ちとせ、僕と一緒に…」

それからの言葉なんていらない。私たちは、お互いに静かに近づいて…、





「それ以上はストップ!」

本当に、止まってしまった。

「パパは認めない!駆け落ちだなんて破廉恥な!」


「ぱ、パパ…ッ!?」

「旦那様…」

見れば戸口に立っていたのは、紛れもない私のパパ。

一気に血の気が引く。
ああ、なんてこと!
最後の最後、やっと私たちは結ばれたのに!
こんなとこで…、こんなことで終わるなんて…。

…パパは続ける。



「ちとせ、結婚会場は勿論ディズニーランドだろうな!?」


目をキラキラさせて。


「……あ?」

「旦那、様…?」


私の、今まで絶望と悲しみに満ちた瞳は、ストンと色を落とした。
雲雀もキョトンとしてる。


「どうする?キャラクターはやっぱり全部呼ぶだろう?」

でもシンデレラとか白雪姫は呼ばないぞ!主役のお姫様はちとせだからな!


「な、何を…、」

早口でまくし立てるパパに口を挟む隙も与えられず、ただ呆然と立ち尽くす。


「ちとせ、いいか?間違っても駆け落ちだなんて言いだすんじゃないぞ。」

ちとせがいなくなったらパパは、パパは…!
どーやってパソコンを使えばいいんだぁぁ!


「パパ、ちょっと、落ち着いて!」

何を言ってるのか全く分かんないよ!

私はパパを落ち着かせるために雲雀にココアを取りに行かせ、ベッドに座らせる。


まだグスグスと鼻を啜るパパにちょっと残念な気持ちになりながら、雲雀の帰りを待つ。


「ちとせ、あのな…」

ポツリポツリと、パパが話し始めた。


「パパとママも、実は駆け落ちだったんだ。」

どこか遠くを見るような目だった。

「パパの親がお金持ちでな、ママはパパのメイドさんだったんだ。」

あの頃は若かった。
パパはママが大好きで、ママもパパが大好きだった。

二人で飛び出したはいいけど、現実は愛だけで乗り越えて行けるほど甘くない。
…今の生活になるまでも、すごく苦労したんだぞ。


だから、だからな、ちとせ。

パパたちは、ちとせたちの味方だから。


「…っ、パパ!」

パパが話し終わる頃には私の顔はぐちゃぐちゃになるくらい涙が出ていて、今はとてつもない家族の愛の力を感じていた。
好きな人のために、大切な人のために。


「じゃあパパ、行くから」

ちとせは、雲雀くんと色々話しておきなさい。
恋人でいられるのは、もう今の内だけだぞ。もうすぐ家族だからなぁ。
…言っておくけど、結婚式までファーストキスは置いておくんだぞ!

…え、何赤くなって…。


「ぱ、パパ、ママが呼んでるよ!」

慌て気付かれそうになった頬の赤みを隠して、部屋から強制退場。

雲雀、遅いよ、なんて。
パパが出ていってから来た彼に悪態をつきながら、多分外で聞いてたな、なんて思って。


「ちとせ、本当に僕で、いいの…?」

いつになく自信なさそうな雲雀の、無防備な唇に背伸びをしてひとつ。


「雲雀が、大好きなの!」


不意討ちキスに驚いて照れた彼の顔が、いつも通りの不敵な笑みに変わったら、その合図。



「ごめん、僕はやっぱり、愛してる。」



今度はちゃんと鍵を掛けてから。邪魔者がいないうちに。

私たちの秘密の結婚式は、今始まったばかり!




――――――――――……




ハネムーンは幸せ絶頂!






END…

ハァ…終わりましたね。
やっと結ばれましたか。
全く、損な役回りですよ。どうして僕がちとせさんとライバルの手助けなんか。まぁいいんですけど。僕は好きな人の幸せを願う純情タイプですからね。
…え?信じられない?クフフ、だったら今から、試してみますか。
おっと、冗談ですよ。何もそんなに怒らなくても。
僕に会いたいならいつでも待っていますよ、輪廻の果てでね。



パンパカパンッッ!!
というわけで、完結!!
…怖いので読み直していません。まるっきりの一発書きです。
自分なりには書くのが途中あたりから楽しくなってきました。…やっぱシリアスはむいてないや。モチベーションがどうにも…('`;)

というわけで皆様!!
今までご愛読ありがとうございました!
ここまでやってこれましたのも、一重に皆様のお陰でございます!
これからもどうぞ、よろしくお願い致します!!

ありがとうございました!

辛口評価お願いします。



[*前へ][次へ#]

24/25ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!