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執事雲雀(完)
行き違うすれ違い







「あれほど大人しく待ってろって言ったのに…っ」

僕は地団駄すら踏みたくなるほど、真剣に怒っていた。
彼女が待っているはずの学校の校門前で。


「雨降ってるから迎えに来いって言ったくせに…」

僕をパシリに使おうなんて甘いんじゃないの。
(帰ったらみっちりお仕置きしてやるんだから。)


僕はぶつくさ文句を垂れながら、チラチラとこちらを見てくる女子学生を睨みで返す。


「あ、あの…、」

後ろから、ちとせではない女の子の声。
ほとんど意識は君に向いていたから、初めは僕に向かっての呼び掛けだと気付かなかった。


「…なに。」

不機嫌に振り返って彼女を睨めば、案の定萎縮して肩をすくめる。


「ちとせさんの…お付きの方、ですよね…?」

びくびくと怯えながらも、彼女ははっきりとそう言った。
…どうやらくだらない理由で僕を呼び止めたようではなさそうだ。
ちとせのことを知ってる。もしかしたら、何かの委員会で急に呼び出されたのかも。

一抹の願いを込めてそうも思ったけれど、それすらも次の彼女の台詞に掻き消されてしまった。


「ちとせさんなら、さっき六道くんと一緒に帰りましたけど…?」

「え…」




…それからの僕の行動は早かった。
まずは彼女にありがとう。
即座に車に乗り込み、ドアを閉めエンジンをかけた。

ハンドルを握る手に力が入る。


「…く…そっ、」

後悔か悔しさにも似た言葉が漏れた。

随分前に憎き六道骸から聞いた台詞が、頭を過る。
あいつ…、何で。



―「雲雀恭弥くん、君は、本当に彼女から必要とされているのですか?」―

―「彼女、君に内緒で僕と会っていたんですよ。」―

―「ちとせさんは本当に君が好きなんでしょうか?」―

―「…ねぇ?雲雀くん…、君は、彼女にとって、相応しい人間ですか。」―



あいつの言葉は恐ろしい程辛辣だ。
ひとつひとつが逆説的で悪魔的な。その語彙の選択が卑怯なくらいに響く。


「ちとせ…」

名前を呼ぶのすら、怖くなるくらいだった。

最近の彼女は様子がおかしい。
僕に何も話さなくなったし、学校の送り迎えすら、いらないと言われた。

…思春期?反抗期は過ぎただろうし…、
いや、違うんだ。
そんなの自分を誤魔化してる。

…あいつが…、

六道骸が、ちとせは好きなのかもしれない。

少なからず心のどこかで、そう思っていたから。


…僕はアクセルを踏み込む足に、力を入れる。

君に会いたい。



―――――――――……



パインと相合傘だなんて。


「クフフ、そう固くならなくてもいいですよ。」

「そ、そう言われましてもですね…、」

「…初々しい方だ。」


骸くんはまたクハハと笑って、そんなに離れていては雨に濡れますよと私の肩を引き寄せる。


「あ、ありがとう…、」

言うものの足はしっかりとその場に踏み留まり、彼との距離が近くなることはなかった。


…骸くんの歩調。
いつも私に合わせてゆっくりと行ってくれる彼の歩調が、今日に限って煩わしい。
早く、早くと足は急かすけれど、意志とは反対に身体は動いてくれなかった。


ブロロロロ……、

後ろから、何となく聞いたことのあるような車のエンジン音が響く。
骸くんは言った。


「ちとせさん、ついでですから、もう一枚の写真もお渡しいたしましょうか。」

「え、い、いいの?」


突然の提案に驚く。
もう一枚の写真……。

それは、最後の弱み。
条件が怖いが…。


「手、繋いでくれませんか、ちとせさん。」

骸くんが、クフッと微笑みながら手を差し出す。
それはまるで、お姫さまをダンスに誘うかのような、優雅な手つき。

あ、骸くんだ…。
優しい骸くん。


「これで、僕の握っている証拠は全てですよ。」

そっと、差し出された手に自分の手を乗せれば、包まれるように優しく握り返される。それは、夏とはいえ冷たい雨で冷えた身体には、嬉しい温もりだった。

彼から渡された二枚の黒い封筒を中身も見ずに鞄にしまう。さっきの車の音が、私たちのすぐ後ろに来ていた。


どうして彼はこんなに優しいんだろう…。
雲雀とは大違い。

だって骸くんは私を気遣ってくれる。支えてくれる。慰めてくれる。楽しくさせてくれる。



彼に恋したって…、
誰も、反対なんてしない。



「……」

そこでハッとして、私は、なんて事を考えたんだろうと悔やむ。
あれだけ、雲雀だけだと言ったのに?

私、私は……、



「な、に、してるの…?」


そして後ろから、彼の声が聞こえた。



――――――――――……



クフフ…さぁ、
クライマックスですね。



continue…

もちろん僕は、後ろから雲雀くんの車が来ると知っていましたよ。
だからわざわざ、学校からちとせさんの家までの車の道のりを通ったんですからね。

クフフ…、物事は何事も、計画的に、ね?

ではまたお会いしましょう

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