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執事雲雀(完)
デート当日







「クフハハハフハ!」

「…あんまり近くに来ないでくれる?」

「…クハァッ!?」

「きもち悪い。」

「…く、フ…、所詮ツンデレってやつですか。」

「あり得ない。」


―――――……

いや、実際、あり得ない。

どうして私の横に、専属執事の彼でなく変態がいるのか。

…あり得ない。

どうして私は、こんなに、緊張して…、。


「…ちとせさん?」

骸くんが(きもち悪いから復活して)、ぼぅとしていた私の顔を覗き込む。

…彼はカジュアルな服装を好むのか。この前に会ったときも、今日とは違うカジュアルな格好だったっけ。


「どうか、しました?」

様子を伺うような、労るような顔をして、彼が心配そうに眉根を寄せる。


「な、何でもないよ!」

ふぃっと顔を背ければ、お決まりの見透かしたようなクフフで返された。


「今日は遊園地でしたよね。」

彼と二人で(骸くん家の)車に乗って、最近出来たという並盛ワンダーランドへ向かう途中。
(骸くん家の車、何でパイナップルのワンポイントがついてるのかな。)


「チョコレートでもいかがですか?」

まだ骸くんを警戒してむすくれていた私に、きれいな硝子の入れ物が差し出された。

中には色とりどりのチョコレート銀紙。赤青黄緑。

チョコレート好きという私と彼の唯一の共通点。
(本当に、骸くんは同級生とは思えない気配り屋さんだと思う。)


「あ、ありがと…、」

これ、薬とか入ってないよね…?

手に取った赤い銀紙のチョコレートを丹念に見回しながら一応、聞いてみる。
(薬入れた人が薬を入れたなんて言うわけないけど)


「と、とんでもない!チョコレートに薬だなんて邪道です!」

大体、食べ物に薬を入れるなんて、食べ物への冒涜もいいところだ!

骸くんはグーを作って、高々と掲げる。まるで全世界の悪を否定してるみたいな。ヒーローみたい。

「あははっ!」

もう、骸くん、ほんとに可笑しいよ。たしかに骸くんが、食べ物に薬なんて入れるはずがないし。
緊張してた私が馬鹿みたい。

だって専属執事は今、キッチンでディナーの準備中だもの。
私は友達と遊びに行くって言ったし、もちろん付いていくって言われたけど今日は近場だからいらないって断った。

むすくれてる雲雀。
今ごろ、ブツブツ文句言いながらロールキャベツ巻いてるんだろうな。


「そろそろ着きますよ。」

雲雀のことを考えて思考が飛んでいたところに、骸くんの声が掛かった。


「はーい!」

私はもう、すっかりこのデートを楽しもうと思っている。
それが骸くんの巧みな話術の所為なのかチョコレートの所為なのかは分からないけれど。


―――――――………


「ちとせ…、」

今ごろ、ひとりで大丈夫かな…。
あの子結構方向音痴だし、時間の感覚がないから遅くまで遊んでるかも。

…友達って、誰だろ。

男…じゃないよね…。
女の子でもちょっと嫌だけど。


僕は少し不機嫌になって、ロールキャベツを巻く手を早めた。
そうしたら、時間が早く進むような気が紛れるような、早く君が帰って来てくれるような気がして。


――――――――……


「次、こっち!」

久々の遊園地!
私は大好きな乗り物が沢山あって幸せ!

お嬢様とお坊ちゃんのデートだもん。貸し切りで、私たち以外は誰もいない。


「ま、またジェットコースターですか…?」

骸くんはげんなりとした様子で尋ねる。トレードマークの頭の葉っぱが、元気なく揺れていた。


「ううん!さっきのとは違って、フリーフォールがあるよ!」

「……絶叫系には変わりないじゃないですか…」

はふぅ、と長いため息。
ああ見えて骸くんは、絶叫マシーンが苦手な様子。

「あー!あっち、大回転がある!骸くん、どっちがいい?」

新しいジェットコースターを見つけて、まるで宝島を発見したように喜ぶ私。

…雲雀も、絶叫マシーンは苦手だったなぁ。


「…そ、それは…必ずどちらか選べと?」

「いや?どっちを先に乗るかだよ。」

「…あ、成る程……、」


骸くんは納得したようなしてないような微妙な笑みを浮かべて、ぺたんとした頭の葉っぱを直す。


「さぁ!いくか!」

「…は、はい…、」

あの…これ終わったら、休憩させてくださいね?


―――――――――…


「くふぁー…」

骸くんが、やっぱり変な溜め息。
ようやく日が雲盛山に沈みかけて、辺りをやわらかく茜色に染めるころ。

私と骸くんは、遊園地の出口に向かって歩いていた。
やっと全部のアトラクションを乗り終えて、自分自身はあまり動いていないのに疲れた。はしゃぎ疲れってやつかな。

「…ここ、絶叫マシーンがやたら多いですね。」

隣の彼がげんなりして言う。どことなく青ざめているのは気のせいか。


「でも骸くんの言ってたティーカップも乗ったよ?」

私は口を尖らせる。
骸くんが「遊園地にきてティーカップに乗らないなんてデートじゃありません」なんて駄々こねるから。


…そう、これはあくまで、デートなのだ。
デートでなくてはいけない。

でないと条件を満たせない。写真を返してもらえないのだ。


「…ちとせ、さん。」

とくとくとくとく。
彼が何故かほんの少し照れた様子で、私の名前を呼んだ。
その真剣そうな声に、骸くんのドキドキが伝染したみたいに、私の心臓も鼓動を繰り返す。
とくとく。


「そ、その…、」

「…ん?」

骸くんが珍しくモジモジして困ったように後頭部へ手をやる。


「手…繋いでも、いいですか?」

実は僕…、その、こういうの初めてで…。
どうしたらいいのか分からないんですけど、ただ、ちとせさんと繋ぎたいな…と、。

「……、」

いや、ですか?って上目遣いに眉を寄せる骸くんは狙っているのかいないのか。
雲雀並みに、殺人的可愛さだと思った。


……骸くんって学校でもモテモテだしサラリと何でも躱してるから、デートとかって慣れてると思ってたのに。
案外、雲雀と同じように照れ屋さんなのかな。

私は快く骸くんのお願いを受け入れることができた。

「もちろん、いいよ!」

「ほんとですか!」

「うん!」

はい、と手を差し出せば、クフって安心したように笑って「失礼します」と手を繋がれる。

大きいくてあったかいのに、女の人みたいに繊細な指をしてるんだなって思う。

(雲雀はたしかにきれくて長い指だけど、骨張ったかんじ。男の人の手だ。)


出口が近い。車では柿本というドライバーさんが待ってる。


「今日は楽しかったです」

オッドアイが怪しく光る。…あのとき感じたような、悪寒に似た感覚。

「…私、も」

確かに楽しかったものの、今の雰囲気は先日の準備室の件を思い出させて胸が苦しい。
あやふやに答えた。

「また…どこか行きましょうね。」

クフフフフ。
と笑った骸くんは、さっきまで手を繋ぐくらいで照れていた彼なんて想像がつかないくらい、ひどく妖艶で楽しげだった。


茜色だった街は何時しか姿を消して、どこまでも深い暗闇の絵の具に塗り潰される。
星一つ見えない夜空が怖くて、はやく彼の元へ帰りたいと願った。
車はそれに反比例するように、痛いほどゆっくりと車輪を回し続けていた。



――――――――……



さて、
お楽しみはこれからです。




continue…+おまけ

すすいません!
アンケートではかなりの投票がありましたのに、大変長らくお待たせいたしました。
その上駄文で私はもうどうしたらいいのか。
しかも学校の友人にサイトがばれてしまい恥ずかしいやら消えたいやらで顔から火が出そうです。

ではおまけ!





「…ちとせ?」

私は珍しく就寝前に雲雀を呼んで、ベッドに座らせていた。
(いつもは雲雀が、何も言わなくてもベッドで待っているんだけど。)


彼の胸板に頭を預けて、腰に手を回す。
普段なら絶対にしないような恥ずかしい行動だ。

…でも今日は、どうしても甘えたい気分だった。
骸くんとデートなんてしてしまった裏切りと、あのときの彼のオッドアイの雰囲気に。


「…珍しいね、君からこんなことするなんて。」

それでも雲雀は、やっぱり私に応えるように背中を抱き締めてくれて、僕は嬉しいからいいけど、だなんておどけてみせて。

清楚な石鹸の香りと、雲雀特有の甘い匂いにドキドキしながら、私は深い眠りへと誘われていった。


机の上の私の携帯電話。
今日、骸くんとお揃いで買ったメルヘンなクマが、じぃっとこちらを見ていた。



continue…

と、はい。おまけでした。
オッドアイってヘテロクロミアって言います…?
友人に言われたのですがイマイチぴんと来ず。
頑張ります。

ではまた次回!

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