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キョン消失02


知ってたのよ、全部ぜんぶ。何もかも。
みくるちゃんを可愛いとか言ったり、有希の世話を焼いたり、私のことだけ名前で呼んでみたり……。
それでも、あんたが想ってる人は違う人よね?
知ってたわ、全部ぜんぶ。何もかも。
だから羨ましかったのよ。あんたたちの関係が。



「別に、って顔してないわ。」

いかにも心配、という表情でそう言われ、でも僕は笑みを崩さなかったはずだ。
それにしても彼女がこんなにも僕に興味を示しているのは何故だろう。
再構成された世界では、彼女の好意は僕に向けられるとでも言うのだろうか。
……なんて、なんて可哀想な世界。

「涼宮さんは体育の最中ですか?」
「え?……ええ、そうよ。それが?」

きょとんとする彼女に、僕は微笑んだ。
それなら貴方は僕の願いを聞いてくれるのでしょうか。

「昼休みに、長門さんと貴方と話したいことがあります。部室に来ていただけますか?」
「みくるちゃんは良いの?」

未来人な彼女は、今回ばかりはどうにもならないだろう。
そのことを思って「はい。」と返事をすると、涼宮さんは「分かったわ。」と返してクラスへと戻った。
時計を見れば、いつの間にか2限目を終わろうとしている。
このまま授業に出る気にもなれず僕は部室に戻ろうと、歩いてきた道を辿った。




「……長門さん、授業には出なくても良いんですか?」

部室には、案の定長門さんが居た。彼女の手には、やはりオセロ。
キョンくんを思い出した今なら分かる。
彼女は、キョンくんがしていたことを復唱するかのように行っていたのだ。

「貴方こそ。」
「そうですね。」

そこで、僕らの間に沈黙が流れた。
元々長門さんは決してよく喋る方ではない。僕だって、用がなければ喋らない。
だからこの沈黙は当然のことで、それでいて心地良いもののはず。
それなのに、キョンくんがいないだけでこうも雰囲気が違うのは何故だろう。

「ひとつ、聞いても良いですか。」
「なに。」
「涼宮さんが彼を思い出したら、世界はまた再構成されますか。」
「……努力はする。」

互いに互いの目も見ず、どこか違う場所を見て話を進める。
長門有希が『努力する。』と言ったのだから、ようは涼宮さんに彼の存在を思い出させればいいのだ。
だからこそ昼休みにここに来るように誘った。

「でも簡単には、いかない。」
「はい、分かってます。」

それでも彼がいないよりはマシです。
そう言うと、長門さんは一瞬だけ僕の方を見て、それからまたオセロに視線を戻した。

「……そう。」

結局彼女も同じような感想を持っているのだろう。
だから全力で協力してくれる。『簡単にはいかない』と言いながら。
それからまた、沈黙が流れた。
しかし今度は特に居心地も悪くはなく、それぞれ思考に浸ることにする。
どれほどそうしていたのか、ふと聞こえた「ちょっと二人とも?」という声で現実に引き戻された。
時計を見れば、もう昼休みの時間帯だ。結局、僕も長門さんも今日一日授業をサボったことになる。
ちらっと長門さんの方を向けば、「世界は再構成される。問題はない。」とのこと。
涼宮さんはいつもの団長席へ座り、僕が喋りだすのを待っているようだ。

「それで、話ってなに?」
「……彼のことです。」

直球でそう言うと長門さんから一瞬だけ視線が送られたが、涼宮さんはきょとんとした表情をしたまま。
確かに“彼”だけで分かれ、というのも無理な話だろう。

「えっと、彼って誰なのかしら?」
「貴方はキョンと呼んでいた。」

長門さんがそうフォローをする。
結局のところ、長門さんも涼宮さんも僕も、彼が好きで好きで。
子供っぽい言い方をすると“ライバル”というものなのだろう。
僕が彼を手に入れて、涼宮さんが認めたくなくて世界を再構成させて、長門さんはその一連の動きを知りながら何もせずに見守る。

「キョ…、ン?」

彼女の瞳が驚いたように見開かれる。
まさか、覚えているのだろうか。自分が好きだった、その人を。

「な、なによ?私はそんな人知らないわよ?」

期待も虚しく、しかしどこか焦ったようにそう言う涼宮さん。

「嘘。」

涼宮さんの言葉に被せるように、長門さんが言葉を発する。
その瞬間に窓から見える空に灰色がかった。しかし神人が出ている様子はない。
彼女を不安にさせたのだろうか。
しかしそれでも、あとひと押しで彼のことを思い出す気がした。

「涼宮さん、思いだして下さい。貴方は、彼が―――。」




「全部、知ってたのよ。」
「……そうか。」

なんでそんなに優しく笑うのよ。
悪いな、って悪かったのは私でしょう?

「みくるちゃん、超美少女じゃない。」
「そうだな。」
「有希だって、普通以上に可愛いわ。」
「そうだな。」
「それでも……ダメなの?」

そう言うと、彼は困ったような顔で少しだけ笑ってみせた。
ここは、笑うところじゃないわよ。
本当にお前のワガママには付き合いきれない、って怒ればいいじゃない。
あんたのそういう優しさは、本当に残酷だわ。

「それでもあんたは……古泉くんが良いの?」

彼は、笑う。それは紛れもない『肯定』で。
私が入る隙間なんてないのは、元々分かっていたのよ。
だから、あんたがそんな顔をすることはないわ。
そりゃ悔しいけどね。良いわよ、いずれ私の方が良かったって後悔させてやるから!
だからあんたたちは……、キョンと古泉くんは幸せになりなさいよ?




「…、いずみ、こいずみ、古泉」

自分を呼ぶ声に、急に意識が覚醒した。
ばっと起き上がって横を見ると、少しだけ笑っているキョンくんの姿。

「長門から聞いた。なんだ……その、ありがとな。」

そう言ってからキョンくんは恥ずかしいのか、ふいっと視線を外した。
でも、それでも、彼がここにいるという真実が嬉しくて。

「ちょ、お前な……。帰ってきたんだから泣いてんなよ。」

そう言う彼の声色は呆れたようで優しくて、僕の目から涙が流れるのはしょうがないことだろう。
そう言うとキョンくんは「ばーか。」と言って笑った。

「長門さんにもお礼を言わないといけませんね……。」
「そうだな。でも、その前に……。」

続きの言葉は呑み込まれ、唇が重なったと認識したときには、もう唇は離れていた。
驚いたように彼を見ると、真っ赤な顔をしているのが目に入る。

「……なんか言えっての。」
「え…っと、おかえりなさい。」

なにか、的外れなことを言っただろうか。
キョンくんはポカンとした表情をしたあとに、にっと笑って見せた。

「……ただいま」



ああ、やっぱり。
貴方がいるだけで、僕の世界は色づく。


――――――――――――
by こあ

2009/03/28

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