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小説(長編)
第2話(後編)
保奈美
「あっ、なおくん」
直樹
「ん?なんだ?」
保奈美から呼ばれたので側まで行った。
直樹
「何か用か?」
保奈美
「うん。あのね今日、試食を頼めないかな?」
直樹
「おう、いいぜ」
保奈美
「なおくんありがと」
直樹
「というわけだから弘司、ちょっと行ってくる」
弘司
「おう。後でカフェテリアに来るだろ?」
直樹
「ああ」

……
直樹
「で、今日は何を作るんだ?」
保奈美
「えーとね…出来てからのお楽しみ♪」
直樹
「なんじゃそりゃ」
そうこうしてるうちに調理室の前に到着した。
そういえばここに来るのは2年になってから初めて来るな。
保奈美
「久しぶりだね。なおくんがここに来るのは」
直樹
「ああ、最近は全然、行ってなかったからな」
ガラガラ…
調理室の扉を開くとそれぞれ、色とりどりのエプロンをした女の子達が居た。
そのうちの大半が俺を見るなり『ああ〜』という反応をし、数人は『誰?』という反応をした。
おそらく新入生だろう。
簡単な自己紹介をして俺はいつもの場所に座った。
相変わらず、保奈美の手際は良い。テキパキとこなしてしいる。
茉理に見習わせたいところである。
??
「キャア!!」
バタッ
直樹
「ん?」
誰かがこけたみたいだ
保奈美
「大丈夫?天海さん」
春香
「あ、はい、大丈夫です」
直樹
「怪我はないか?」
少し遅れて聞いてみた。
春香
「大丈夫です。こけるのには慣れてますから」
えへへっ。と彼女は笑った。
俺は「気をつけてね」と言ってもとの場所に戻った。

……
保奈美
「それではお願いします」
直樹
「ああ」
試食という任務は時に優しく、時に厳しく判定しなければならないので大変である。
まあタダで食べさせてもらってるのでこれくらいお安い御用だ。
春香
「ど、どうぞ」
コトッと小さな音を立てて置かれた皿にはショートケーキが乗っていた。
直樹
「いただきます」
俺はフォークで一口大に切り、それを頬張った。
春香
「ど、どうです?」
緊張した面持ちでこっちを見る春香ちゃん。
どうやら人に出すのは初めてのようだ。
直樹
「むっ、甘さは控えめでイチゴの酸味とバッチリ合っている」
春香
「ホントですか!?ありがとうございます!」
直樹
「ただ、スポンジのふんわり感が若干、弱いかな」
春香
「なるほどぉ。
ありがとうございました」
保奈美
「お疲れ様、はい、これで最後だよ」
直樹
「おっ、最後は保奈美のか」
そこにはモンブランが皿の上にあった。
直樹
「こ、この味は…」
保奈美
「?」
直樹
「まったりとした甘みの中にほんのり香るマロンの香り。
さすがは料理部のエース」
保奈美
「褒められてるのかどうか、わかりにくいよ」
そして試食会が終わり俺は弘司の待つカフェテリアに向かった。

直樹
「やあやあ、相変わらず閑古鳥ですなあ」
弘司
「そういうお前は何かネタでもあるのか?」
直樹
「さーて、何にしようかな〜」
弘司
「ネタ無しか」
美琴
「1名様ごあんな〜い」
直樹
「おっ……」
弘司
「なんか降りてきたか」
美琴
「ワクワク」
直樹
「……うーん」
弘司
「何も無しか〜」
美琴
「もう、しっかりしてよ」
そんなやり取りを小一時間程、繰り返していた。
美琴
「そろそろ、帰るね。
やらないといけないことがあるから」
直樹
「おつかれー」
弘司
「また、明日」
美琴が帰り途端に、静かになる。
直樹
「なんか、野郎2人だと寂しいなー」
弘司
「それを言うなよ…虚しくなってくるだろ」
直樹
「そういえば、部費はどのくらいあったりするんだ?」
弘司
「唐突だな…
年に5万3千円……それがどうかした?」
直樹
「俺たちの飲食代を、それでまかなえないかなと思って」
弘司
「領収書はどうする?」
直樹
「委員にコネでもあれば何とかなるんだが…」
弘司
「茉理ちゃんは?」
直樹
「ありゃダメだ。
漫画の読みすぎで、馬超並の正義感を持ってしまったからな」
弘司
「打ち合わせ代、とかどうだろ」
直樹
「ん、具体的な提案でいいんだが……ここは男のロマン、接待費だな」
弘司
「ロマン?」
直樹
「……ああ。
よし、接待費で行こう」

「誰を接待するんですか?」
いきなり背後に立たれる。
直樹「おわっ、結先生!?」

「それで、誰を接待するんですか?」
直樹
「え、えーと……すいませんでした」

「もう、少しは真面目に天文部として活動してください」
めっと人差し指を突き出す。
なんか子供に当たり前の事を言われてる感じがするのだが…?
直樹
「わかりました」

「それでは私は会議があるので戻りますね」
そう言って結先生は行った。
弘司
「まああれだ、悪いことはできないってこと」
直樹
「そこっ!悟るの禁止!」

時計が午後5時を回った頃、弘司が立ち上がる。
弘司
「今日は何だか精神的に疲れた…俺は帰るよ」
直樹
「そうか?」
弘司
「直樹はどうする?」
直樹
「悪いけど、俺は残るよ」
弘司
「そうか、じゃあ俺は帰るぜ」
直樹
「ああ、お疲れ」

一人、カフェテリアに残る。
冷たくなったコーヒーを飲みながら、夕日に染まる外の景色をみてると、眠くなってくる。
眠気に逆らわずゆっくりと目を閉じた。
……こうなるなら帰れば良かったかな。

……
??
「……くん……久住くん」
誰かに揺り動かされるのを感じ、意識が戻ってくる。
目の前には、あずさ先生の心配そうな顔があった。
あずさ
「こんなところで寝てると風邪引きますよ」
直樹
「あずさ先生……」
あずさ
「どうかしたんですか、どこか調子が悪いんですか?」
直樹
「いえ、昼寝してただけです」
あずさ
「そうですか、一人で俯いているから心配しましたよ」
直樹
「ははは、大丈夫です」
俺はその証拠にとゆっくりとその場に立ち上がり外を見た。
外はもう暗かった。
直樹
「あずさ先生、いま何時かわかります?」
あすさ
「ええと…7時26分ですよ」
直樹
「ん、だいぶ遅くなっちゃいましたね。
先生はメシですか?」
あずさ
「はい〜仕事が一段落したので食べに来ました」
直樹
「遅くまで大変ですね」
あずさ
「ええ、少し大変です。
でも、みなさんに楽しく学校生活をしてもらうためですのでがんばらないと」
直樹
「応援してます」
あずさ
「あら〜ありがとうございます。
それでは、私は夕食を取りますので」
直樹
「先生、よかったら一緒に食べませんか?」
あずさ
「えっ!?私はいいですけど家に帰ってから夕食があるのではないですか?」
直樹
「ウチ、夕食が遅いので何か食べておこうかと思いまして」
あずさ
「そうなんですか。
では一緒に食べましょう」
あずさ先生が向かい側に座る。
それを見計らって、委員がオーダーを取りに来た。
俺はグリーンサラダとバターロール、ホットコーヒーを、あずさ先生はシーフードのペペロンチーノとピーチヨーグルト、グレープフルーツジュースをそれぞれ注文した。
しばらくして食事が運ばれてきた。
あずさ先生はシーフードのペペロンチーノを前にご満悦の様子。
直樹
「そういえば、先生の趣味って何です?」
あずさ
「趣味ですか?んー、犬の散歩でしょうか」
直樹
「犬、飼ってるんですか」
あずさ
「ええ、シェットランドシープドックの太郎ちゃん。とってもカワイイわよ」
直樹
「オスなんですか」
あずさ
「ええ。
久住君の趣味は何ですの?」
直樹
「俺ですか?俺はずばり無趣味です」
あずさ
「なんにも無いんですか?」
直樹
「ええ、今は特にこれといって無いです。
明日は明日の風が吹くをモットーにやっていますから」
あずさ
「うふふ、なんか意味が違うような気がしますがそれもいいですね。
学生の間はいろいろとやってみるのもいいですよ」
その後もいろいろとあずさ先生と話し、とても充実した夕飯になった。

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