◆◇綾と綾のPrincess Plan◇◆
綾と綾のPrincess Plan [*第1章*]
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「綾音」
綾は直立不動のままその名を呼んだ。
「なに」
そこにはイスに座った一人の少女がいた。
白銀色のきれいなウェーブの髪を腰まで伸ばし、綾を映すその瞳は藍色に光って小さく揺れている。
シンプルな白いショートドレスと赤いリボンで止めた黒いケープを羽織っている。
白く綺麗に伸びた足には、黒いニーソックス。
その先にまたシンプルな黒い靴を履いている。
ここは綾を助けた少女、常賀咲 綾音(じょうがさき あやね)の屋敷だ。
その常賀咲 綾音は、かの有名な常賀咲グループの社長令嬢で、現在高校2年生である。
「ひとつ質問していいか?」
「別にいいけど?」
「なんで俺、こんな格好してんの?」
バリメイク。メイド服。
メイド…服
「いいじゃない」
「良くない!!」
今の綾は、言ってしまえばもう女の子の格好をしていて、メイクばっちり☆な完璧女装状態。
一週間眠りっぱなしだったせいか、体も少し痩せてしまっている。
元々少し長かった髪も、ちょうど良いショートになっている。
これはどこからどうみても女の子である。
「うちは身内以外の男子は厳禁なの。だから起きたらすぐに帰ってもらいなさいって言われてたのよ、こうするしかないじゃない?」
「だからって…」
「それに、君は行くとこもないみたいだし?…私の家におきたいの…」
「綾音…」
「め…メイドとしてなら住み込みだしっ!まあ、君って元々女顔だったし、バレないわよ」
「女顔…」
綾音の言葉に感謝しながらも、女顔というのをサラッと言われたので綾は少し挫折感を抱いた。
「…ま、まあ、それはいいんだが…どうして綾音の側近なんだよ?」
「バレてもいいの?」
「滅相もありません」
「それから」
綾音は人差し指を綾に向けて言葉を付け足した。
「言葉も直してね」
「はい?」
「あなたは“女の子“なんだから」
綾音は少しイタズラっぽく笑った。
「君は普通の男子よりは声も高いし…大丈夫よね?」
綾音のイタズラは笑みは一気に黒い笑みに変わった。
綾は息をのんだ。
つまりこいつは、完璧に俺を女の子にしたいらしい。
今の言葉はそういうことを赤裸々にしているようなものだ。
「待て、つまりそれは…―」
「そうよ、今から君は ― 白崎 綾(りょう)は、私の側近メイド・白崎 綾(あや)。どうせ字は一緒なんだし。」
そういって綾音はまた綾に指を突きつけた。
「あ…綾ァ!?俺の名前まで女子にしなくてもいいだろう!?」
「ダメよ、メイド名簿にもふりがな書かないといけないし、側近といっても他のメイドとのコンタクトくらいあるわ。私の学校だって女子高なのに…」
その最後の言葉に、綾は一瞬、自分の耳が病気なのかと疑った。
(ジョシコウ?なにそれおいしいの?)
そして額に脂汗が伝うのがわかった。
「ちょっと待てぇえええええ!!今、女子高っていったか!?まさか俺もそこに通えっていうのか!?」
「あら、察しがいいわね。そうよ、文句ある?」
「おおありだぁあああ!!側近だからって学校までついて行かなくてもいいだろう!?」
「行くのよ!それも仕事のうちなの!」
綾音は必死に綾に言葉をぶつけた。
「な…なんでそんな必死なんだよ。別に俺が行ったってお前に迷惑かけるだけだと思うぜ?」
そしてこれ以上俺の生活をladyなlifeにしないでくれぇええ!…―とまでは言わなかった。
実際迷惑をかけたくないのは確かだ。
すると
「…―っ」
座っている綾音の膝にひとつ、またひとつと、光る雫が落ちた。
「あ、綾音!?」
綾ら綾音のそばに駆け寄った。
「そんな泣く事かよ?」
綾は綾音の肩を抱いた。
しかしこのままではラチがあかないと確信し、溜め息をついた。
「…―わかった」
「…え…?」
綾音は顔をあげて、濡れた瞳に綾を映した。
「通うよ」
綾がそう言うと、綾音は目を擦りながら言葉を出した。
「嘘ついてたら殺す」
「ついてねーよ」
…―そうして俺と綾音の奇妙な関係は
白い奇蹟が降り注ぐ冬空の下で
幕を開けたのだった。
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