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Thousand Clover
§,1

「お前、知ってるんだろ!? ブツを誰に渡した? 吐けっ」

 ドンっと机が叩かれ、狭い取調室に響きわたる。

「だから、知らねぇって言ってるだろ。俺は、ただ頼まれてやっただけだ。こちとら金で動いてんでね」

「貴様っ」

 新米刑事と向かい合って座る運び屋の男は鼻をほじり始めた。

 怒鳴る刑事にその男は全く意に介しない。

 かれこれ一時間ほど、この堂々巡りが続いている。

拉致があかねぇな……

 その間ずっと腕組みして壁に寄りかかっていた、川端はそう思った。

「深田、もういい。ぶち込んでおけ」

「はっ」

 新米刑事に指示を出し川端はさっさと部屋から出てしまう。

 ツカツカと足早に自分の課に戻った川端は、どかりと椅子に座る。

 他の刑事は全て出払い静まりかえる室内で、煙草を吹かし始めた。

 肺がニコチンで満たされると先程のイライラが多少和らぐ。

 気持ちが落ち着いたところで書類がぞんざいに積み重なる机に、彼は目を止めた。

 使った覚えのないシャープペンシルが一つ、無造作に置かれてある。

 眉間に皺を寄せ不振に思って取り上げた彼は、再度周囲を見て誰もいない事を確認する。

それから芯を入れる蓋を開けた。

まさか……

中を覗くと、丸められた白い紙切れが入っている。

あいつか……?

紙面に書かれた内容を急いで覚えると、川端はそれにライターの火を付けて灰皿に放った。

紙の焼ける臭いが、鼻をつく。

帰って来たのか。

川端は最後の煙を吐き出すと、吸い殻も灰皿に押し付けた。



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