Thousand Clover §,1 日曜日の午後、小此木家ではお昼の香ばしい匂いが漂う。 「はい、稚明ひっくり返して」 リビングでジュウジュウなるお好み焼きを前にして、紗代は弟にフライパン返しを渡す。 「はいはい。見てろよ、俺の華麗なるテクを」 そう言ってホットプレート一杯に広がるお好み焼きに挑む。 「それっ」 それはものの見事に、分裂し形がくずれた。 「どこが華麗?下手くそぅ」 口を突き出して紗代は不均等に別れたそれを見る。 「うるせぇよっ プロでも、失敗はあるもんだ」 などと言ってフタをしめる稚明。 焼き上がるまで、二人は大人しくテレビを眺めた。 今注目の人気お笑い芸人が、MCをつとめるバラエティー番組だ。 「……紗代ネェ、大丈夫か?」 ふと、合い向かいのソファに座る弟が話を切り出した。 3日前紗代はあの火事を目撃した後、急に過呼吸を起こして気を失ったらしい。 [*前へ][次へ#] [戻る] |