9.泣き叫ばない事はいい事か?
「真田さん、ここは貴方の知っている世界じゃありません。」
良い打開策が思いつかなかったから、咄嗟にこう言ってしまったが、失敗だっただろうか。
現に今、彼は私の肩を握ったまま、項垂れているし、それに、先程の彼の顔。
信じたくない。頼むから嘘だと言ってくれ。そんな馬鹿な。お願いだから。これは嘘だと、現実じゃなくて夢だと言ってくれ。
そんな、泣きそうで怖くて恐ろしくて、現実を認めたくない、と言う顔をしていた。
だけど、嘘を言ってもすぐにばれる嘘。天国のような楽園に辿りついたような幸福を味わうかもしれない。しかしすぐに引きずり降ろされるのだ。現実と言う名の悪魔に。
だから彼には嘘を言わない。真実しか言わない。例え彼がそれを認めたくないであろうとも、打っ叩いても殴っても、彼に真実を認めさせる。
だが、もしかしたら武器を振るうかもしれない。この場で攻撃をするかもしれない。
その時は応戦するしかないであろう。彼はよほどの使い手かもしれない。その時は応戦するしかない。
・・・その場にある家具を全て犠牲にして。
自分の獲物までの距離を測る。
押入れに入って彼が突き刺す。その時は野性の、本能の勘で避けるしかない。そして押入れの障子をガッと開けるか中から銃弾をぶっ放すか。しかし、銃弾をぶっ放すのは得策とは言えない。
相手は玄人。こちらはその手に関しては素人だ。よくて半人前。
リビドーで彼を殺すかもしれない。それこそ冗談の冗談。絶対ぇにやりたくないことだ。やってたまるかよ。
だが、もし攻撃を食らえば?第二撃は?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
此処は、彼の人の良さに賭けるしかないんだろうな・・・。咄嗟に手を止めてくれればいいんだけど。
一応、止めてくれたら、どうしようか。あぁ、もう、いいや。救急箱。救急箱持ってきてもらう。もうそれでいいや。
賽はもう投げてしまった。
もうどうにでもなれ。
私は彼が落ち着くまで突っ立ていることにした。
彼が落ち着くまで私の肩を握らせておいた。
肩がミシミシ言うが仕方がない。
現実を受け入れるのは、辛い事なんだから。
(事実、私は泣き叫んだ程なんだから)
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