8.普通に嫌なことだ
真っ白殿は神妙な面で某の手を引っ張り、透明な枠の所へ連れていった。
「今から見るものを見て、疑問に思った事を私に言って下さい」と、泣きそうな顔で言っていたが、一体なにがあったでござろうか。この場所から、透明な枠の向こうは見えない。
真っ白殿は某の手をひっぱって、真っ白殿と向かい合う形になった。
真っ白殿の背は低かった。某の首辺り高さであった。自然と首は下へ下がる。
真っ白殿が立っている姿を見るのは某が゛そふぁ゛と言う物の上に乗っていた時であったし、某がそふぁとやらに座っている時であった。
真っ白殿とこうして向き合うのは初めてかもしれない。
向かい合ったのは互いに座った時であったりどちらか一方が立ったり座ったりしていた時であったし。
真っ白殿は「どうぞ」と言って、手で透明な枠の向こうを指した。真っ白殿の表情は暗い。
一体何があるのであろうか。と疑問に思いながら、透明な枠の向こうを見る。
「・・・なっ・・・・・・。」
言葉を失う。
なんと、外の向こうが明るいではないか!しかも灯りが一つ二つ三つ・・・数えきれないほど沢山!
敵衆だ!
頭の中で警報が鳴り響く。
見渡す限り、灯りは百を超える程沢山ある。
これほどの灯りがあると言う事は、一隊の数が膨大・・・いや、兵の数が十万を超える事になる・・・ッ!!!
「真っ白殿ッッ!!!!何を呑気にしておられるかッッ!!!敵は我々を取り囲んでいるのでござるよッ?!!馬は、兵は、味方はいないのでござるかッ?!!」
某は真っ白殿の肩を掴みかかり、急いで辺りを見回す。
この狭い部屋の中、これだけの大群に敵う兵の数は見当たらないし、いない。
終わったか・・・?いや、ここは気力で何とかすれば・・・だが、真っ白殿はどうする?
「え?いやいやちょっと待って?!え、何?!そっち?!!そっち方面で考えちゃったわけ?!!
ちょっと待って!いや、ちょっと待ってよ、本当に!!いや、あのね?!
敵いないから!!敵さん、いないからね?!!!」
「何ッ?!!それは本当でござるか?!!」
真っ白殿の言った言葉にバッと顔を上げる。
敵ではない?!と言う事は・・・
「あれは全部真っ白殿の味方でござるか?!!!
これ程の数の兵士・・・某は見たことが無いでござるッッ!!!
真っ白殿は何処の国の者でござるか?これほどの兵を率いているのであれば、全国にその名を轟かせている筈でござるッ・・・!!!」
「え?いやいや!違うから!!違うから、ね?!!
あ、いや。その考えを捨てよう!!敵味方の考えを捨てよう!!!あぁ、そうだ!!!あれ、敵味方の灯す灯りと考えないで!!あれ、ただの家の光!!!家から漏れる光ッ!!!」
「光・・・?つまり、農家から漏れる・・・光、でござろうか・・・?」
「そう、それ!その感覚でぇ!!!」
「しかし・・・農家から漏れる光であれば、あれだけの光・・・家が燃えてしまうではないか・・・?」
「あ、それ?!蝋燭?!蝋燭の事?!!」
「ろうそく?それは何でござろうか・・・?」
「あぁ、いや、えぇっとねぇ・・・・・・・・・あぁ!そうだ、和紙!
いらない和紙とか何かでその先っちょに油を少ーし浸けて、火を灯すってやつ?!!」
「あ、あぁ・・・そうで、ござるか?」
何を言っているであろうか。真っ白殿は。
不要になった和紙を丸めて油を浸し、灯行の上に置くのが普通であろうに・・・。
うん?いや、そうであるとすれば・・・゛なぜ外は夜であるのに、ここは昼間みたいに明るいのだ゛?
嫌な汗が体中からぞっと噴き出す。
いや、まさかな。そんなわけ、あるはずがない。
必死でその考えを打ち払おうとするが、真っ白殿は頭を抱えて「うぅ・・・」「いや、あれは・・・」「だけど・・・」と呟いている。
もう一度、外を見る。
夜空を見上げると、月や星が出ている。
その下には大量の灯りが点いている。
某の顔と頭を抱えて悩んでいる真っ白殿の横顔がうっすらと見える。
真っ白殿は「・・・そうしよう」と呟いた後、某の顔をしっかりと見て、信じたくもない言葉を紡ぎだした。
真っ白殿の瞳には目を見開いて怯えている某の姿が映っていた。
『真田さん、ここは貴方の知っている世界じゃありませんよ』
(某の目の前が真っ暗になったような気がした)
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