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呼吸する絵
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私は、二十年間骨董品店をやってきた。

もう年は50間近のおっさんだ。

店には大した品物はないが、それなりに自分のこだわりの品を集めて共感してくれる客たちと分け合ってきた。

今、客の一人のじいさん(初めてみる顔だな。)が見つめている一枚の絵は、私のコレクションのなかでも自慢の一品だった。

いや、一品のはずだったのだ。

私は、よく商品を集めに世界中を旅してまわったが、10年前、この絵と出会った時のことは今でも昨日のことのように覚えている。

この絵をフランスで見つけたときは震え上がったものだ。

私が当時宿にしていたホテルの地下室にそれはあった。

最初は、このホテルに泊まる予定ではなかった。

ただ、道に迷ってそのホテルの前を通りかかっただけだった。

ぼろぼろの古いホテルだったが、ホテルの人間なら確実に土地勘があるだろうと思い、道を聞こうと中にはいってみたのだ。

最初に私の目に映ったのは、ホテルの従業員たちの気持ちのよい笑顔だった。

「いらっしゃいませ。」

全員が私の方を見て両手を挙げて歓迎してくれているようだった。

信じられないかもしれないが、彼らは、まるで、私を神様か何かだと思っているようだ。

フランス人は、外国人(特に私のような日本人)をバカにした態度をとる人がとにかく多いが、ここの人間は誰もが親切で道を聞きたいだけだと言っているのに私をソファーへ座らせるとお茶まで出して丁寧に道を教えてくれた。

私はこの手厚い歓迎に感激した。

古いホテルだが、清掃は行き届いていて、壁も床もカウンターも何もかもがキラキラ光っているように見えた。

それから、私のとった行動は当然だと思うべきだったと思う。

最初に予約をとっていたホテルをキャンセルしてこっちのホテルに泊まることにしたのだ。


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