僕の全部 G 無言無音の世界… 抱き締める力の強さ分気持ちが込もっているかの様で…僕はその抱き締める腕の中、さっきの高橋先輩の台詞を反芻していた。 『啓介、お前は俺の全てだ。』 それって…どういう… あんな事言った僕に返してくれた返事…だよね?抱き締めてくれる高橋先輩の腕の中で先輩の気持ちを…今言ってくれた言葉の意味を考える。 …が、諏訪先輩の呼び掛けに思考は中断される。 「いやー、良かった良かった。やっとくっついたか〜。全くこうなるのにどんだけ掛かってんだよ。啓ちゃん聞いてよ〜、瑞希ってば一年?いや、二年前だったかな、ま、どっちでもいいや。とにかくそんな前から啓ちゃんの事見てて、マジストーカーかっつー「博!」うわお!何怒ってんだよ瑞希。ライターなんか当たったら地味に痛いじゃん!」 先輩にギュウッと抱き締められながら、頭上と背後でのやり取りを聞いていると、ゴソゴソと高橋先輩が片手でポケットを漁っていた。…かと思うと耳元でブンッと音がしたんだけど…………ライター投げたんだ。…この際、高校生の筈の先輩が何故ライターを持っていたのかは置いておこう…。 それより今諏訪先輩が一〜二年前から高橋先輩が僕を知ってて…みたいな事言ってなかった? どういう事?さっきの返事の意味もよく分からなかったし…。分からない事だらけだ。 でも…両方共高橋先輩に聞けば分かる事だよね…? 首を傾げて高橋先輩を見上げ、いつ聞こう、とタイミングをはかっていると…諏訪先輩から僕の方に視線を移した先輩と目が合った。 固まって、みるみる赤くなる高橋先輩の顔…つられて僕も顔が熱くなる。 え、え?何で!? 何で先輩顔が赤いの?それに何で僕もつられて赤くなるの! つられ赤面が恥ずかしくて、顔を上げていられず慌てて伏せる。 暫くの沈黙の後… 「やーん♪二人共真っ赤な林檎ちゃんみた「お前それ以上騒いだら…燃やすぞ」」 そんな沈黙を破る諏訪先輩の声に、頭上から高橋先輩の声が重なる。 「やだよーだ。燃やされたらアキちゃんにチュー出来ないじゃ『ドスッ』ガハッ!」 「………」 何かもう見慣れた(聞き慣れた?)感があるこのやり取り…が聞こえてきた。 高橋先輩にちょっかいかけてあしらわれた後、明を巻き込もうとして無言の反撃を受ける… もういっそ清々しいというか、呆れるというか…多分諏訪先輩は楽しんでるんだろう。見てて痛そうだけど…。 その諏訪先輩といえば、明にエルボーでもされたんだろうお腹を押さえ、結構効いたのか蹲って痛みに耐えている。 「ハァハァハァ…すげ、イイ…」 ……… 訂正…………悶えてる。 「…で、啓はどうするんだ?高橋先輩と付き合うのか?」 眉間にふっかい皺を作って足元の諏訪先輩を汚物でも見るみたいに見下ろした後(その表情ヤバいよ明…)、真直ぐにこっちを見て言った明の台詞にハッと現実に戻る。 え、付き合う!? な、何で? 僕は先輩の事…す、好き…だけど…。高橋先輩はどうか分かんない。それなのにそれを何で今僕に聞くの? あ、何か涙出てきた…。自分で言ってて悲しくなってきたよ…。 そんな僕を見て明は何かを感じたのだろう。何故か一瞬驚いた様な顔をして、穴が開く程の視線を向けてきた。 ? 「ま、さかお前…今の高橋先輩の言葉の意味分かって無い…のか?」 意味? 先輩のさっきの言葉の意味なら今さっきまで考えていたが、諏訪先輩の話に思考を中断されて意味は………未だ分からないままだけど…。 首を傾げ、コクンと頷くと明が「やっぱり」と言ってうなだれた。 え、明は分かったの?凄い!てか僕に教えて欲しい。そんな僕の気持ちが多分表情に出ていたんだろう。 「高橋先輩に直で聞けよ。俺は何も言えない。あ、そうだ諏訪先輩、ちょっと話あんだけどこっち来て…」 明は僕にそう答え、足元でまだ悶えてた諏訪先輩を連れて僕達の居る所とは反対側へと歩いて行った。諏訪先輩もそんな明にむふふ…と言いながら付いて行く。 僕と高橋先輩はそんな二人を見送った…。 [*前へ][次へ#] [戻る] |