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恋は盲目/鬼兵隊



「聞けっつってんスよ!万斉先輩!!」
 突如眼前に現れたまた子に、万斉は一瞬動きを止めた。
「……聞いてるでござる。コレ、お通殿の新曲の……」
「こっちの話っスよ!てか、いい加減にして下さい。アイドルなんかに現を抜かして、鬼兵隊の活動がおろそかになってもらっちゃ困るっス!マジで!!」
 ぷりぷり怒るまた子の向こうでは武市が我関せずと茶を啜っている。
 万斉は仕方なくプレイヤーを停止させた。
「で、何でごさるか?」
 春雨との俄同盟を結んだ今、協定内容の精査の為に鬼兵隊は足止めを食っていた。その方面は武市が主に担当している為、万斉としてはこの隙に長らく手付かずになっていたプロデューサー業を再開したいのだ。
「晋助様のことっス」
 高杉は近頃疲れた顔をしている事が多くなった。勿論部下達の前ではおくびにも出さない。また子とて陰ながら見守っていればこそ見つけられた変化だった。
「今が大切な時なのは分かってるッスけど、放っておいてもし倒れでもしたらと思うと…」
 また子は不安げに顫えているが、万斉も武市もそんな事態が起こる筈がないのを知っていた。が、それを高杉信者に理解させるのが酷く面倒なのも判っていた。
「まぁ、気分転換とかは必要かもしれませんね。どうですか、万斉さん?」
 面倒な話を振りやがってと睨むが武市は眉一つ動かさない。万斉は溜め息を零した。
「宇宙ではさしたる娯楽も無い。煙草を噴かすか三味を弾くかしか……―――また子殿、晋助の隠れ趣味、知ってるでごさるか?」
 万斉の頭がどのように働いてそんな事を言ったのか。武市は眉を寄せてその様子を見ていた。喰いついてきたまた子に内密にするよう言い含めて声を落とす万斉。驚きはしても高杉への愛は揺らがないまた子。
 気合いの雄叫びを上げて走り去っていく背中を見送ると武市は同僚に忠告する。無論本人とて承知しているだろうが。
「貴方殺されますよ?」
 それでも万斉はにやりと笑うだけだった。


☆★☆★


 目の前に立ち塞がったまた子に高杉は訝しげに眉を跳ね上げた。
 どうもいつもと様子が違う。様子と言うか、格好からして違う。
「ど、どうっスか!? 晋助様!」
 紫煙を吐き出し2度瞬きをした。また子が何を求めてるのかいまいち解らない。
「似合うんじゃねぇのか?」
 テキトウにそう言うとまた子は照れたように笑う。
 別段変な格好をしている訳ではない。丈が短いだけの振袖を着、二ーソックスを履いているだけ。ポニーテイルを左に持ってきたような頭をしているだけだ。
「振り付けも練習したっス! 晋助様!また子は貴方の為に歌います!!」
 高杉が口を開く暇も与えず、また子は何処で調達して来たのかラジカセとマイクを取り出した。
「聴いて下さい晋助様!!"お前のばーちゃんお前のバッシュ履いてた"です!!」
 ラジカセから流れるコミカルな音楽、歌いながらクルクルと踊るまた子。何事かと人が集まってくる。
 何をもって彼女がこんな凶行をしているのか知らないしこの曲自体覚えもないが、高杉はこんな傾向の曲を聴いた、否、聴かされた事があった。
 一曲歌い終わり肩で息をする部下に低く尋ねる。
「木島ぁ、お前にこんな事を吹き込んだ奴ぁ万斉か?」
 また子はハッとした。万斉は隠れ趣味だと言っていたと云うのに、これだけ人を集めてしまっては……。
 慌てて頭を下げた。
「申し訳ありません晋助様! 私、晋助様に元気になってもらおうと…!」
 しかし高杉は聞いていなかった。背後に標的の居場所を聞き出すとさっと踵を返してしまう。
「晋助様!」
 男は決して振り返らなかった。


☆★☆★


「……生きてますか、万斉さん」
 武市の問いに瓦礫の下から返って来たのは苦しげな呻き声のみだった。

退却だ!突撃!

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あきゅろす。
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